第274話 タバコ屋(3)

文字数 608文字

 昨日、タバコ屋へ行った。

 暑いですねえ、まだ。と、お姉さん。

 そうですねえ、と私。

 あ、こないだラジオで言ってたんですけどね、と私が話しだす。

 日本で最高齢の女性の方… 120歳近かったかな、その人の健康の秘訣、みたいな話があったんです。その秘訣は、「よく食べ、よく寝ること」で…

 と、私、お姉さんに掌を返すように差し出して言った。

 そう、前にここでタバコを買った時、夏バテしない秘訣として「よく食べ、よく寝ること」とお姉さんは仰っていたのだ。

 ああ、とお姉さんは笑った。そして付け加えた、「欲望のままに」と。

 前も、そう、この「欲望のままに」があった。

 あ、と私は笑ってうつむいたが、やはり「欲望のままに」と真っ直ぐ私に目線を投げて言われると、ドキッとしてしまう。

 この「欲望のままに」は、単なるウケ狙いなのか? それとも…

 それとも、ただほんとにそうであるだけなのか。

 私の妄想は肥大した、今度、「うん、私も欲望のままに言うと、お姉さんのこと好きですよ。チャンとジタンも注文して下さったし、しっかりなさってます。ほんと、ありがたいです」

 とでも言ってやろうかと、しばらく経ってから思ったのだった。もちろん冗談、半分はほんとの、冗談として。それで笑ってもらえたら、私も万々歳である。

 ただ私はタバコのほうが大切なので、あくまでも一介の、単なる客として、そんな冗談を言い合えて、笑ってタバコが買えればいいのである。
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