第377話 

文字数 655文字

 他人の自殺に嫌悪を抱く人々が多い間は、成熟した社会に程遠いだろう。
 なぜなら個人を尊重する社会に程遠いからだ。腐った倫理、古めかしい水道管、てめえで考えず「生命は尊い」、ただそれだけのこと、「そうだろう?」と同調する馬鹿者どもが蔓延っている間は。
 安楽死がどうの、法律がなんのという問題、そんな次元じゃないのだ。人が人を尊重する、当たり前のことだ。借り物の尊重は、ほんとうの尊重ではない。偽善、欺瞞ばかりの沼に足をとられ、溺れていく一方だ、みんなで溺死、やわらかな、見えない糸に操られ、自覚もしないで死んでいく、みんなで死ねば怖くない、「みんなが!」それを優しさと呼ぶ!
 義足だらけの不具者。赤十字社が儲かるよ。慈善、愛、人のためにの旗の下に。いつまでたっても変わりゃしない。望んだことだ、大多数の人間が。望みは叶う、望んだ通りに。その望んだ望みさえ、自分の足で歩んだものでなかった! 着せ替えられた、あてがわれた着物を着て満足する人形、吹き込まれた息を自分のしている呼吸だと言い切る人形! 頭は、飾りもの。
 素晴らしい進化を遂げたものだ、あっぱれな人間! 満足を知らぬから、知ろうとばかりする。まるで知ること以外に満足を知らぬかのように。おい、そこに、一つ一つあったじゃないか、あるじゃないか。てめえの足、自分の足が。肺が。心の臓が。血管が。四肢が。手首が。思考、想念、おまえだけについて、流れ、巡っているじゃないか、回っているじゃないか、十全たる、完全たるものとして、永遠みたいに一つ一つが、一人一人に…
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