第123話

文字数 1,316文字

 今日、絵を描いている友達と会う。何となく、ドキドキしている。
 このドキドキの根源は何だろう?
 言えば嘘になるかもしれないが、友達を、大切にできるか。その不安のせいのように感じられる。自分は友達を大切にできるのか。大切であることは分かっている。
 なぜ大切なのか。そも、大切にする… 大切にするとは、どういうことなのか。
 ほんとうに、大切にできるのか。
 こんなところから、不安、ドキドキが、始まっているように感じられる。

 もし、独り身だったら。あり得ない想定。もし自分が独りで、誰とも一緒に暮らしていなかったら。
「安心」して一緒に暮らしている、家人がいなかったら── ひとりじゃ淋しいから、友達を求めて、どんどん家に招き入れようとしたろうか。会う約束を、ウキウキと、待ち構えたろうか。不安とは、無縁だったろうか。
 いいカッコをしたいだけだろか。わるく、思われたくないだけだろか。

 先日行ったタバコ屋、いつものようにニコニコと、おたがいに金銭と商品の授受をした。
 ジタンは、ないですよね、と訊くと、「ありまーす!」となぜかいつもより笑い、陽気に、なぜか楽し気に。こっちもなぜか嬉しくなって(仕入れていないと思ったタバコが仕入れられていた嬉しさもあったが、その応対が楽しかった)、あ、ありますか、どうもありがとうございます、ほんとに、などと笑った。
 そこへ、右斜め後ろに人の気配を感じたので、振り向くと、宅急便屋さんが立っている。すぐ終わるだろうと思い、あ、どうぞ、と先をゆずった。あ、いいですか、と宅急便のお兄さん。
 だが、彼女(タバコ屋のお姉さん)はゆずらなかった! 1カートンを飛沫ボード下から出し、こっち(客)が優先された。
 見れば、笑顔が消えていた。
 宅急便屋さんにも、いつもの笑顔で応じると思っていた自分には、意外だった。
 以前も、腹立たしそうに、あのタバコ屋でタバコを買ったと思われる若者が、すぐこっちに歩いて来るのを見たことがあったのを思い出す。
 たしかに、タバコ屋で若い、きれいなお姉さんがいつも店番をしているというのは、珍しい。いろいろ、たいへんなのかなと思う。
 こっちは、特に何の邪心もない。いろんな客、人に対して、態度が変わっても、当然だろうと思った。

 タバコ屋とは、数秒の「接し」である。それは刹那で、身の上話も、社会問題について論じ合うこともない。だが、友達とは、刹那の関係ではない。
 その時だけの笑顔、ああ元気でいてくれてよかった、と確認して、数秒で別れるわけにはいかない。言葉が必要になる。話をすることが必要になる。そしてそれは、きっと楽しいはずなのだ。
 楽しい時間であるべきだ、という「べき」が、純粋な、単純な、シンプルな楽しさを邪魔するのだろうか。不安の正体は、「べき」から外れてしまうかもしれない、知らない未来の時間が、怖いだけなのだろうか。
 わからない、わからないということが不安であることには違いない。
 だが一体、何がわかれば不安でなくなるというのか?
 などと思いながら、いざ約束の待ち合わせの時間が来れば、自然のようにニコニコと、ほんとに嬉しい気分になって、どうもどうもと、握手したりするのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み