第243話 共感と反感

文字数 866文字

 先日「ラジオ深夜便」で、「私はもう60になりますが、情けないことに、今まで自分のしてきた、『ああすればよかった、あの時はこうするべきだった』という後悔の念に苛まれています。それは不意に訪れ、『ああ、あの時…』と、言いようもない後悔、悔恨の念に駆られて、自分を苦しめます」

「こういった時、どんな本を読んだら、私は前向きになれるでしょうか。どうぞアドバイスをお願いします」というような内容のお便りが紹介されていた。

 その本として、ブック・コーディネーターの某さんが紹介していたのが池田晶子の「人間自身」だった。もう一冊、何か薦めていた。あ、車谷長吉の小説。この車谷さんという作家は、私小説しか書かなかったような人らしい。

 それはさておき、私はこのリスナーさんからの「後悔の念に常に苛まれる」という、そんな心情に、いたく共感した。

 同じだと思った。自分も、よく寝る前に、今までのことを思い出し、「あ、あの時…」を思い、よく苦しい思いになるからだ。

 あ、オレ、ひとりじゃないんだ。もしかして、そういう人、けっこういるのかもしれない、と思った。

 これは共感だった。自分はひとりではない、と気づけること。知ること。

 だが一方で、「オレはひとりでいいのに」と思う時もある。このラジオを聞いていた時は、嬉しくてニヤついてしまったが、別の場面、たとえば趣味が全く同じ、聴く音楽も読む本も、好みが全く同じような人を知った場合、なんだか、こそばゆくなる。

 自分と似ているのだから、仲良くなれそうなものなのに、なぜだか苦笑して、こそばゆくなる。

 こんな時は、「自分はひとりでいいのに」という、奇妙な考えが、心のどこかで発動しているように思える。

 こういう心理、反感、とまではいわないが、共感しながらも反感する、というような、ふしぎな心理が、ヒト(みんな、とは言わない)にはあるような気がする。

 ひとりじゃ淋しいくせに、ひとりじゃなくなったら、ひとりでいいのに、と思ったりするような心情。

 いや、べつに全然、分析なんかしようと思わない。

 おもしろいと思う。
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