第130話 心構え

文字数 724文字

「作品」に対して、たとえ短文であろうと長文であろうと、またその内容がどんなに私的な、書くほどのものでもないと思えるものでも、これでも読者を意識してきたつもりだ。
 目を通す、通される… そのひとの時間が、ここに注がれるとしたら、その時間を、ムダにさせたくない、読んで、良かったも悪かったもそのひとの自由だけれど、なるべく、「読んでムダでなかった」、あとに、残るような、できれば悪いものでなく、残るようなものを、と、これでも心掛けてきたつもりだ。
 それは、どのような印象を与えたか、それはいわば治外法権だ。良かれと思って書いたことだって、どのように伝わるか、分かったものではない。
 ただ、読み手にばかり意識が行ったら、枯渇する。こちらがつくった、読み手の幻影だ、と言うことだってできる。
 それに向かって書くことは、亡霊に向かって書くにも等しい、とさえ言える。それに向かって、書くこともできる。が、それでは、

に何も残らない。こことは、此処だ。彼処ではない。
 

から始まっているのだ… あらゆる物事、事象、感慨が!
 それをあらわすことが、書くことだ。ここにある手、この手以外に、この手を動かす意思、自己以外に、どの手がある?
 孫の手、猫の手で書いたところで、何を書いたことになる? 誰が書いたことになる?
 きみはきみ自身、きみの、きみとして在るきみから、… 書くんだよ、きみはきみによって描かれるんだよ、きみの自画像を、きみの風景画を、きみの静物画を、きみの被写体を。
 それでどうなるかは、ぼくにも分からない。分かって、書くことほど、つまらないものはないんじゃないか?
 わからないからイイんだよ。向かうことができる。ヤラセでなく、向かうことができる…
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