第298話 その時にしか書けなかった

文字数 826文字

 朝、書いていた。
 久しぶりに、わけのわからない情熱っぽいものに動かされ、生き生き、書いた。
 アイコスを吸いながら書いていた。
 もう終盤、ああ、いい感じでイケたな、もう一息、というところで、アイコスがカーソルのどこかに当たり、それまで書いていたものが消えてしまった。
 どこに行ったのか、探しても見つからない。「保存」を全くしていなかった。

 思い出そうにも、もう書けない。要点だけは覚えている。
 この「戦時下」というタイトルが、苦しいということ。これではまるで私が「戦時下にいる」とでも、読者(がいらっしゃれば)に思われてしまう。ダマしてしまうみたいで、不本意であること。

 が、同じ空の下だ、とも思うこと。一つの地球、この上で、あの忌むべき、苦しい戦争が行なわれているということ。
 このニッポンでは、あんな戦いこそ行われていないが、だからといって「戦時下でない」とは言えないだろう、ということ。
 同じ空の下、同じこの地面の上で、ということ。

 あのショック、去年の春先に始まった、あのニュースを知った時から、だいぶ時間が経ったこと。
 時間の中で、だんだん、あの最初のショック、戦争について書かざるをえない、それ以外に書けなかった、あの当初に比べて、要するに「慣れ」てきてしまっている、… 希薄になってしまったのか、そんなつもりはないのだけど、というようなこと。

「戦時下」というタイトルなのに、自分の日常しか書いていないこと。
 内容とタイトルの不一致。でも、同じ空の下、ということへの固執。

 人間は、いや人間にかぎらず、生命あるものは必ず死んでいくこと。
 それを、わざわざ殺し合い、生命、消し合うこと、その不毛さ。
 この不毛さが、たまらないのだということ。
 だが、生命、もともと…

 また、残酷で、野蛮で、我欲のばかでかさが人間の本性であるなら、戦争は、人間らしい行為、とも言えてしまうということ。

 そんなことを、書いていた。こんなことが、いいたいだけだった。
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