第102話 晴れた空

文字数 1,019文字

 気持ちがいい。
 こんないい天気なのに、パソコンなんかやってられない。
 タバコも切れたし、いつものお姉さんのいるタバコ屋へ。徒歩30分、気持ち良かった。
 ただ「飛蚊(ひぶん)症」は健在で、あまりキョロキョロして眼球を動かすと、その動きとともに眼の中を蚊みたいなのが飛び交って、鬱陶しいことこの上ない。憂鬱になる。
 で、あまり眼を動かさず、一点だけを見て歩いた。どんな美女とすれ違おうが、絶対見ない。
 すると、蚊も飛ばなくなる。
 だが、力が自然、入ってしまって、肩が張ってきてしまう。
 で、なるべくリラックスして歩くようにする。
 何をするにしても、「力を入れない」「リラックスする」というのは、難しいものだなぁと思う。

 ところで、あまり「生きる目的」がない。もう十分、人生、やってきたと思っているし、特に悲願も念願もない。と思う。
 何も達成していないと思うけれど、こんなもんだと思っている(と思う)。
 何を考えているのかと自分でも思う。
 思うことだけは、得意なようだ。

 スーパーで買い物なんかをして帰宅。家人が出迎える。
 もし自分に、生きる何かの目的があるとすれば、この家人より先に死なないことだろう。
 たぶん彼女は、ぼくが死んだら、ちょっと困るような気がする。
 天涯孤独、とまではいかないだろうが、これだけ気兼ねなくつきあえるというか、一緒にいられるという(もう12年)、そういう相手は、なかなかいなさそうなのだ。
 自己過大評価でなく、客観的にみて。
 どういうわけか知らないが、彼女は楽しそうにぼくと暮らしているし、いなくなったら困るだろうな、というのは、申し訳ないけど分かる。
 だからせめて、順番的にも彼女が年上だし、順調にいけば彼女が先に逝くことになるだろうから、ぼくはせめて、彼女を看取(みと)って、彼女をひとり残さないようにしたい。
 ぼくは結構しぶといから、彼女に先に逝かれても、そりゃひどい気持ちになるだろうけど、大丈夫だと思う。

 というわけで、ぼくの生きる目的は、彼女より先に死なない、ということになった。
 でも、そんなこと、誰にも分からんのだ。
 生まれた時と同様、生きると分かって生まれたわけでないし、死ぬ時も、死ぬと分かって死ぬわけでもないだろう。よし分かったところで、もうすぐそこに「おムカエでごんす」が来ているのなら、分かったところでどうしようもない。
 彼女より、先に死なないこと。せめてこれを目標にしよう。
 そう決まった。そう決めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み