第41話 忘れないためにつけたタイトル

文字数 736文字

「戦時下にて」。
 ずいぶんなタイトルだと思う。
 自分でも、このタイトルを見ると、げんなりする。
 でも、あの戦争が起こった時の衝撃… もう何も書けねえや、って状態になった時があったこと。
 時間が過ぎて、あの時の気持ちも、薄らいでいるような、いないような。
 薄らいだ、と書くと、いけないいけない、という気になるが、薄らいでいない、と書くと、ウソを書いているような気がする。
 慣れた、と書くと、慣れちゃいけない、という気になり、慣れていない、と書くと、やはりどこかウソをついている気になる。
 いつまでやってんだ、という気持ちになっている、が正直に近いか。

 慣れって、怖い。たぶん、どこかで「慣れ」てしまったのだ。
 テレビも無いし、新聞はとっていない。ラジオも、聞かなくなった。ネットのニュースだけが、「世間で何が起きているのか」を知れる媒体だが、それも最近はスポーツの記事ばかり見ている。
 本もすっかり読まなくなった。
 音楽を聴き、庭の手入れをしたり、部屋の掃除をしたり、食事のための買い物やら、何やら、こう書いていると、一日自分は一体何をしているんだろうと思う。
 時間が、とにかく過ぎている。

 あさって、友達が久しぶりに家に来る。だからって別にピカピカにしなくてもいいはずなのだが、ガラス窓やら玄関やら廊下やら、妙に綺麗にしたくなる。
 友達と会えればそれでいいのに、家を綺麗にしないと気が済まないらしい。美味しい料理も出したい。食材を、あれこれ考える。

 … コロナ禍になって、だいぶ時間も過ぎた。感染者数も、さほど気に留めなくなったし、これにもきっと「慣れ」てきたんだろう。
「慣れると終わる」。
 なかなか、いつまで経っても慣れないのは、長年一緒にいる、この自分というやつで…。
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