第110話 三者三様の魔法
文字数 1,449文字
「聞いた限りでは、ない。僕の勝手な想像になるんだが、本当は使用条件があるが、明かすつもりはないんだと思う」
想像と断りつつもメインの口ぶりは確信ありげだ。宗平はすかさず聞き返した。
「何で。また別の拒否権でもあるとか?」
「ははは、違う違う。王族達の警護に関わる重要事項だからさ。壁を出すことのできない状況を整えられた上で襲撃されると危ない」
「そっか、確かにおいそれとばらしちゃだめだ」
理解が行ったところで三番目のカークランに移る。
「カークランは寝所で水をこぼしてしまい、後始末のために魔法を使って操ったとのことだ。具体的には、化粧落としの最中だな。衣服が派手に濡れたため、手早く渇かすのに必要だったらいい」
「水を操るってそういう、ちまちましたやつなの?」
「使用条件の話になるけれども、一度に操れる量は上限が、自らの体重の二倍までとだけ。ただ、目に見えないような極微量な水分は操れない。あくまでも目に見える水を移動させる魔法とのことだった。だから、たとえば憎い相手の体内から水分を根こそぎ奪って死に至らしめる、なんていう芸当はできない」
「無理矢理、飲ませるというのはできるのかな? エルクサムは水に溶けにくいったって、全然溶けないじゃないんだろうし」
「エルクサムを砕いて水に入れてかき混ぜると、粒子が溶け込むことはほとんどなく、泥水みたいになるが、飲み込めなくはないという程度にはなる。カークランの魔法は、水をある場所から違う場所へ空間をすっ飛ばして移せるわけじゃないので、毒入りの水を摂取させるには口からとなるけれども……」
言葉を区切り、やや上を向いて目をつむるメイン。情景を思い浮かべたようだ。
「そんな方法で飲ませようとすれば、辺りに水が飛び散って、痕跡が残るだろうな。現場の床に染み込んだ分を魔法で回収しても、さすがに毒の粉末は残るはず。そんな報告は上がってないようだから、違うと思うね」
否定されたが、宗平も特にがっかりしてはいない。元々、密室状態の部屋に自由に出入りできなければ、魔法で毒入りの水を飲ませることはかなわない。
「でもさ、結局のところ、錠剤のままだろうが、砕いた粉を水に混ぜた物だろうが、人に飲ませるのって大変じゃないか? 無理矢理だったらなおさら」
「うん、その通りなんだ。だからこそ、王女様が容疑者の中でも最有力だと囁かれている。体内の異物を外部にある同じ重量物と入れ替える能力なんて、エルクサムによる毒殺にうってつけじゃないかという見方まであるくらいだよ。体内の異物というのは、何も誤って飲み込んだ指輪とか、撃たれて体内に残った弾丸といった物だけじゃなく、吸収される前の飲食物まで含むというのだから」
言われてみて、すぐに理解できた。胃の中にある消化途中の食べ物とエルクサムとを魔法で入れ替えれば、飲ませる苦労なんてなくなる。メインは続けた。
「考えてみれば恐ろしい魔法だね。暗殺に適した力と言える。王族でない者が持てば、封じられてしまうこと請け合いだよ」
どうやら、あまりにも強力な魔法は使えなくすることができるらしい。王女のような王族連中は、強大な魔法であっても特別に持ち続けることが許されるルールに違いない。
「たとえ毒物が手元になくたって、大きな石や刃物なんかを体内に送り込むだけで、相手は七転八倒の痛みに苦しみ、最悪、死に至る」
「じゃあ、仮に王女様の仕業だとすると、手間かけて毒を盗み出す必要ないんじゃねーの?」
つづく
想像と断りつつもメインの口ぶりは確信ありげだ。宗平はすかさず聞き返した。
「何で。また別の拒否権でもあるとか?」
「ははは、違う違う。王族達の警護に関わる重要事項だからさ。壁を出すことのできない状況を整えられた上で襲撃されると危ない」
「そっか、確かにおいそれとばらしちゃだめだ」
理解が行ったところで三番目のカークランに移る。
「カークランは寝所で水をこぼしてしまい、後始末のために魔法を使って操ったとのことだ。具体的には、化粧落としの最中だな。衣服が派手に濡れたため、手早く渇かすのに必要だったらいい」
「水を操るってそういう、ちまちましたやつなの?」
「使用条件の話になるけれども、一度に操れる量は上限が、自らの体重の二倍までとだけ。ただ、目に見えないような極微量な水分は操れない。あくまでも目に見える水を移動させる魔法とのことだった。だから、たとえば憎い相手の体内から水分を根こそぎ奪って死に至らしめる、なんていう芸当はできない」
「無理矢理、飲ませるというのはできるのかな? エルクサムは水に溶けにくいったって、全然溶けないじゃないんだろうし」
「エルクサムを砕いて水に入れてかき混ぜると、粒子が溶け込むことはほとんどなく、泥水みたいになるが、飲み込めなくはないという程度にはなる。カークランの魔法は、水をある場所から違う場所へ空間をすっ飛ばして移せるわけじゃないので、毒入りの水を摂取させるには口からとなるけれども……」
言葉を区切り、やや上を向いて目をつむるメイン。情景を思い浮かべたようだ。
「そんな方法で飲ませようとすれば、辺りに水が飛び散って、痕跡が残るだろうな。現場の床に染み込んだ分を魔法で回収しても、さすがに毒の粉末は残るはず。そんな報告は上がってないようだから、違うと思うね」
否定されたが、宗平も特にがっかりしてはいない。元々、密室状態の部屋に自由に出入りできなければ、魔法で毒入りの水を飲ませることはかなわない。
「でもさ、結局のところ、錠剤のままだろうが、砕いた粉を水に混ぜた物だろうが、人に飲ませるのって大変じゃないか? 無理矢理だったらなおさら」
「うん、その通りなんだ。だからこそ、王女様が容疑者の中でも最有力だと囁かれている。体内の異物を外部にある同じ重量物と入れ替える能力なんて、エルクサムによる毒殺にうってつけじゃないかという見方まであるくらいだよ。体内の異物というのは、何も誤って飲み込んだ指輪とか、撃たれて体内に残った弾丸といった物だけじゃなく、吸収される前の飲食物まで含むというのだから」
言われてみて、すぐに理解できた。胃の中にある消化途中の食べ物とエルクサムとを魔法で入れ替えれば、飲ませる苦労なんてなくなる。メインは続けた。
「考えてみれば恐ろしい魔法だね。暗殺に適した力と言える。王族でない者が持てば、封じられてしまうこと請け合いだよ」
どうやら、あまりにも強力な魔法は使えなくすることができるらしい。王女のような王族連中は、強大な魔法であっても特別に持ち続けることが許されるルールに違いない。
「たとえ毒物が手元になくたって、大きな石や刃物なんかを体内に送り込むだけで、相手は七転八倒の痛みに苦しみ、最悪、死に至る」
「じゃあ、仮に王女様の仕業だとすると、手間かけて毒を盗み出す必要ないんじゃねーの?」
つづく