第94話 飛ぶ夢をしばらく見てなかったな
文字数 1,271文字
「ふざけているのではないんですよね、本当に?」
シーラは念押ししてきた。表情がちょっと、いや、かなりきつくて怖い。宗平としては、「もちろん」と答えるほかない。
「外套の端を強く握って。一旦飛び立てば、少しくらい手放しても一緒に飛べますが、念のために放さないように。私がこのステッキで地面をコツコツと叩いたら、二人とも浮かび上がるので、そのつもりで構えていてください」
「う。嘘みたいだ」
「嘘ではありません。どうやら実践あるのみのようですね」
言うが早いか、ステッキの端で足元の土を二度叩いたシーラ。
すると途端に――。
音もなく、ふわっという感覚すらなしに、とにかく浮いた。自分達を中心として空間がある程度切り取られ、そのまま空を飛ぶ乗り物になったみたいだ。森の中をしばらく低空飛行で水平方向に移動し、日だまりが白く明るいスポットまで来ると、今度はすーっと上昇を始める。速度は小走り程度だろうか。
(おお、すげー)
森を見下ろす高さまで出た。十五メートルくらい? 再び横移動が始まった。今度はだいぶ速い。自転車、いやそれよりも遙に速い。
空を飛んでいても、風は感じなかった。やっぱり、空間が切り取られているのかも。ただ、移動による重力は感じる。エレベーターの箱みたいな物かなと宗平は考えて、合点した。
約五分、飛行したところでシーラが左前方を指差した。
「――あそこに見えてきたのが王宮。覚えていませんか。言ってみればあなたの仕事場ですよ」
「……」
宗平が返事に窮したのには理由がある。ここは夢の中なのだから、覚えがあるはずがないのに、どことなく見た覚えがあるのだ。
(……別におかしいことでもないのかな? この世界の王宮をイメージするのは俺自身なんだから、見覚えがあったって不思議じゃない)
でも、自分の知識の範囲内限定でこの夢の世界が作られているとすれば、あちこちに不都合が生じるはず。たとえば、王宮の内装なんて詳しく覚えていない。お城に入った途端、そこかしこが空白になってるのだろうか。
(自分が見ている夢の中じゃあないのかな。さっきから思ってもいない展開をするし、こうなれ!って念じてもちっとも効かない)
夢じゃないとしたら何だ? 別の想像が膨らんでいく。
(まさかだけど、異世界……? まじでまさかっ!だ)
宗平が黙りこくっても、シーラは特段気にする様子はなく、自分の本来の役目はこれと言わんばかりに、先導に徹した。城の正門の手前二十メートルくらいの地点に降り立つ。
「到着です。もう手は放していいです」
「ああ、うん」
外套を握っていた手を開くと、小さくだが汗染みができていた。
「ごめん、汚した」
「は? ああ、問題ありません。本来、汚れやほこりなどを避けるための物なのだから。それよりも、このあとは一人で行くことになっていたのですが、どうしましょう? 個人的には、傍から見ていて不安が募ってたまりませんでしたよ」
「俺も不安だから、着いてきてくれって言ったら、着いてきてくれるのか?」
つづく
シーラは念押ししてきた。表情がちょっと、いや、かなりきつくて怖い。宗平としては、「もちろん」と答えるほかない。
「外套の端を強く握って。一旦飛び立てば、少しくらい手放しても一緒に飛べますが、念のために放さないように。私がこのステッキで地面をコツコツと叩いたら、二人とも浮かび上がるので、そのつもりで構えていてください」
「う。嘘みたいだ」
「嘘ではありません。どうやら実践あるのみのようですね」
言うが早いか、ステッキの端で足元の土を二度叩いたシーラ。
すると途端に――。
音もなく、ふわっという感覚すらなしに、とにかく浮いた。自分達を中心として空間がある程度切り取られ、そのまま空を飛ぶ乗り物になったみたいだ。森の中をしばらく低空飛行で水平方向に移動し、日だまりが白く明るいスポットまで来ると、今度はすーっと上昇を始める。速度は小走り程度だろうか。
(おお、すげー)
森を見下ろす高さまで出た。十五メートルくらい? 再び横移動が始まった。今度はだいぶ速い。自転車、いやそれよりも遙に速い。
空を飛んでいても、風は感じなかった。やっぱり、空間が切り取られているのかも。ただ、移動による重力は感じる。エレベーターの箱みたいな物かなと宗平は考えて、合点した。
約五分、飛行したところでシーラが左前方を指差した。
「――あそこに見えてきたのが王宮。覚えていませんか。言ってみればあなたの仕事場ですよ」
「……」
宗平が返事に窮したのには理由がある。ここは夢の中なのだから、覚えがあるはずがないのに、どことなく見た覚えがあるのだ。
(……別におかしいことでもないのかな? この世界の王宮をイメージするのは俺自身なんだから、見覚えがあったって不思議じゃない)
でも、自分の知識の範囲内限定でこの夢の世界が作られているとすれば、あちこちに不都合が生じるはず。たとえば、王宮の内装なんて詳しく覚えていない。お城に入った途端、そこかしこが空白になってるのだろうか。
(自分が見ている夢の中じゃあないのかな。さっきから思ってもいない展開をするし、こうなれ!って念じてもちっとも効かない)
夢じゃないとしたら何だ? 別の想像が膨らんでいく。
(まさかだけど、異世界……? まじでまさかっ!だ)
宗平が黙りこくっても、シーラは特段気にする様子はなく、自分の本来の役目はこれと言わんばかりに、先導に徹した。城の正門の手前二十メートルくらいの地点に降り立つ。
「到着です。もう手は放していいです」
「ああ、うん」
外套を握っていた手を開くと、小さくだが汗染みができていた。
「ごめん、汚した」
「は? ああ、問題ありません。本来、汚れやほこりなどを避けるための物なのだから。それよりも、このあとは一人で行くことになっていたのですが、どうしましょう? 個人的には、傍から見ていて不安が募ってたまりませんでしたよ」
「俺も不安だから、着いてきてくれって言ったら、着いてきてくれるのか?」
つづく