第42話 同じ原理で異なる当て方
文字数 2,052文字
「カードの山を好きなところで二つに分けて、上下を入れ替えるの。そして一番上に来たカードをめくる。表の数字とマークをみんなにも見えるようにして、全員で覚えてほしい。間違っても声に出さないように。あ、私は絶対に見えないよう、背中を向けとくね」
自分で言った通り、回れ右の要領で黒板の方を向く。
「じゃ、この辺を」
陽子ちゃんの声が聞こえた。「これだよ。みんな覚えた?」「うん」「覚えた」といったやり取りが続く。
「覚えたよ。このカードはどうすれば?」
「元の位置、カードの山の上に裏向きで置いてください」
「――置いた」
「振り返るけど、絶対に見えないよね?」
「大丈夫だよ」
元のように前を向く。私はカードの山の一番上を見て、一つ頷いた。
「さて、当然、このカードが何かを当てるわけだけど、まだ少し時間が掛かります。その間にカードが風なんかで飛ばないよう、念のため、ケースを重し代わりに」
私は左手前に置いていたケースをカードに重ねた。重しと言っても、紙製のケースなので頼りないくらいに軽いんだけど。
「どうやって当てるかですが、皆さんの色んな反応を手掛かりにしてみたいと思います。始める前にもう一度確認しますが、みんな、間違いなくカードを覚えてますね?」
喋りながら、またみんなの顔を一人ずつ見ていく。当然、誰もが首を縦に振った。
それにしても、先生がいるとだいぶやりづらいなぁ。喋る言葉に微妙に丁寧語が混じってしまって、安定しない感じ。まあ気にせずに乗り切ろう。
「みんなが覚えてくれているのなら、大丈夫でしょう。ただ、このままの状態だと、一番上が当てるべきカードと丸分かりだよね。だから少しカットして、分からなくしてもらいます。そのやり方は」
ケースを取りのけ、カードの山を上から見下ろす形にする。右手の人差し指と親指を広げてから、カードの短い辺の両サイドを摘まんだ。
「こんな風にして、好きなところで上下に分けて、手で持った分を机に置いたら、残りの部分を上に重ねる」
話ながら実演して見せた。これで一回カットしたことになる。
「今みたいに、カードをカットしていってください。一人一回ずつ。順番は……」
「私からでいい?」
不知火さんが手を挙げた。ちょうど向かって左端にいるので、彼女からスタートして右端の朱美ちゃんまで行き、少し後ろにいる森君、最後に先生という順番でお願いする。
「これってやっぱり、最後にやる奴が責任重大になるのかな」
今まであまり喋ってはいなかった相田先生は、カードを分ける前に、親指と人差し指とを着けたり離したりした。
「いえ、気楽に、気軽に。意識されたら、かえってカード当ての邪魔になるかも」
「それじゃ結局責任重大だな」
先生は苦笑しながら、カットを済ませた。
「これで、当てるべきカードが完全にどこに行ったのか分からなくなりました。皆さんの協力のおかげです。当てられなかったら、皆さんの責任ということで」
何で(だ)よ!とつっこみが入るのを期待していたが、なかった。これは早く当てて欲しいという期待感の方が上回っているわ。
私はカードの山を持ち、つちりんがしてたみたいに端を揃えつつ、言った。
「これから一枚ずつ表向きに置いていきながら、『これですか』と問います。みんなはそれが記憶したカードであろうがなかろうが、『イエス』とだけ答えていってください」
私のお願いに、森君一人が「イエス」という反応。ここで笑いを取られても困る。
「それでは」
最初はスペードのエースが出た。みんなは「イエス」と揃って言う。その後十五枚ほど進んで、クラブの6、ダイヤの7、ダイヤのジャック、ハートの10、スペードの10と出たところで、私は手を止めた。
「あれ? 今さっき、みんなの声の調子が変わったときがあったような」
探りを入れるような調子で言い、皆の表情を窺う。ふふふ、結構、顔に出ている人もいる。
「気になるので、ちょっと戻ります。今度は逆に『ノー』と言ってください」
クラブの6から再開し、ダイヤのジャックまで行って、また止める。
「やっぱり変だわ。じゃ、次の一枚で最後にしますから、みんなは当たっていたら『イエス』、間違っていたら『ノー』と答えて。いい?」
念押ししてから、私は真ん中のカードを掴み、改めてテーブルに置いた。
ダイヤの7。
「イエス!」
よしっ、成功した。間違いないと思っていても、実際に当てる瞬間を迎えるまでは、どきどきする。
「以上で、今日のマジック、デモンストレーションは終わりっ。ありがとうございました」
「すっげーな。どうやったのか、さっぱり分かんねえや」
森君が机まで駆け寄ってきて、興奮気味に言った。
私からすれば、森君が一番気付く可能性があると思っていたので、その彼をだまし通せて一安心。だって今のカード当ては、森君の家で披露したのと原理は全く一緒。やり方・見せ方が違うだけなんだもの。
つづく
自分で言った通り、回れ右の要領で黒板の方を向く。
「じゃ、この辺を」
陽子ちゃんの声が聞こえた。「これだよ。みんな覚えた?」「うん」「覚えた」といったやり取りが続く。
「覚えたよ。このカードはどうすれば?」
「元の位置、カードの山の上に裏向きで置いてください」
「――置いた」
「振り返るけど、絶対に見えないよね?」
「大丈夫だよ」
元のように前を向く。私はカードの山の一番上を見て、一つ頷いた。
「さて、当然、このカードが何かを当てるわけだけど、まだ少し時間が掛かります。その間にカードが風なんかで飛ばないよう、念のため、ケースを重し代わりに」
私は左手前に置いていたケースをカードに重ねた。重しと言っても、紙製のケースなので頼りないくらいに軽いんだけど。
「どうやって当てるかですが、皆さんの色んな反応を手掛かりにしてみたいと思います。始める前にもう一度確認しますが、みんな、間違いなくカードを覚えてますね?」
喋りながら、またみんなの顔を一人ずつ見ていく。当然、誰もが首を縦に振った。
それにしても、先生がいるとだいぶやりづらいなぁ。喋る言葉に微妙に丁寧語が混じってしまって、安定しない感じ。まあ気にせずに乗り切ろう。
「みんなが覚えてくれているのなら、大丈夫でしょう。ただ、このままの状態だと、一番上が当てるべきカードと丸分かりだよね。だから少しカットして、分からなくしてもらいます。そのやり方は」
ケースを取りのけ、カードの山を上から見下ろす形にする。右手の人差し指と親指を広げてから、カードの短い辺の両サイドを摘まんだ。
「こんな風にして、好きなところで上下に分けて、手で持った分を机に置いたら、残りの部分を上に重ねる」
話ながら実演して見せた。これで一回カットしたことになる。
「今みたいに、カードをカットしていってください。一人一回ずつ。順番は……」
「私からでいい?」
不知火さんが手を挙げた。ちょうど向かって左端にいるので、彼女からスタートして右端の朱美ちゃんまで行き、少し後ろにいる森君、最後に先生という順番でお願いする。
「これってやっぱり、最後にやる奴が責任重大になるのかな」
今まであまり喋ってはいなかった相田先生は、カードを分ける前に、親指と人差し指とを着けたり離したりした。
「いえ、気楽に、気軽に。意識されたら、かえってカード当ての邪魔になるかも」
「それじゃ結局責任重大だな」
先生は苦笑しながら、カットを済ませた。
「これで、当てるべきカードが完全にどこに行ったのか分からなくなりました。皆さんの協力のおかげです。当てられなかったら、皆さんの責任ということで」
何で(だ)よ!とつっこみが入るのを期待していたが、なかった。これは早く当てて欲しいという期待感の方が上回っているわ。
私はカードの山を持ち、つちりんがしてたみたいに端を揃えつつ、言った。
「これから一枚ずつ表向きに置いていきながら、『これですか』と問います。みんなはそれが記憶したカードであろうがなかろうが、『イエス』とだけ答えていってください」
私のお願いに、森君一人が「イエス」という反応。ここで笑いを取られても困る。
「それでは」
最初はスペードのエースが出た。みんなは「イエス」と揃って言う。その後十五枚ほど進んで、クラブの6、ダイヤの7、ダイヤのジャック、ハートの10、スペードの10と出たところで、私は手を止めた。
「あれ? 今さっき、みんなの声の調子が変わったときがあったような」
探りを入れるような調子で言い、皆の表情を窺う。ふふふ、結構、顔に出ている人もいる。
「気になるので、ちょっと戻ります。今度は逆に『ノー』と言ってください」
クラブの6から再開し、ダイヤのジャックまで行って、また止める。
「やっぱり変だわ。じゃ、次の一枚で最後にしますから、みんなは当たっていたら『イエス』、間違っていたら『ノー』と答えて。いい?」
念押ししてから、私は真ん中のカードを掴み、改めてテーブルに置いた。
ダイヤの7。
「イエス!」
よしっ、成功した。間違いないと思っていても、実際に当てる瞬間を迎えるまでは、どきどきする。
「以上で、今日のマジック、デモンストレーションは終わりっ。ありがとうございました」
「すっげーな。どうやったのか、さっぱり分かんねえや」
森君が机まで駆け寄ってきて、興奮気味に言った。
私からすれば、森君が一番気付く可能性があると思っていたので、その彼をだまし通せて一安心。だって今のカード当ては、森君の家で披露したのと原理は全く一緒。やり方・見せ方が違うだけなんだもの。
つづく