第157話 トリック成立のために魔法使いは何名必要か
文字数 1,879文字
「太陽が出てるから、だよね」
「正解です。太陽も星ですから、星が出ていないとは言えません」
「昼間だけど、曇り空ってことにすればいいのに」
陽子ちゃんが冗談半分に言って、
「いや、でも、この問題の答には、『真っ昼間で、太陽が照りつけていた』っていう方がインパクトあるね」
と認める。
「不知火さんはこの問題、最初に見たとき解けたの?」
「いえ、だめでした。ちょうど小説で比喩表現が面白くなってきた頃だったのもありますが、思い込みの蟻地獄にはまってしまった。不覚です」
「今度、森君に出してみたら? 缶ジュースぐらい賭けてさ 意外とあっさり引っ掛かるかもよ」
朱美ちゃんが、らしい提案をする。けれども不知火さんは否定的な様子。
「さあ、どうしましょう? 私が出すと警戒されそうです」
「それなら私もだめだわ」
これは水原さん。推理小説を書く人からいきなりパズルを出されたら、そりゃあ警戒するでしょう。
「警戒されないとなると、サクラと私ぐらいかな。知り合ってから長いから」
陽子ちゃんが言った。確かに、知り合ってからの長さで言えば、幼稚園のときから森君を知っている私達が多分一番長い。小学校でクラスが一緒になったのは、三年生からだけど。
「まあ、そのことはいいではありませんか。今は推理です」
不知火さんが手を一つ打って、頭の切り替えを促す。進行役になっている水原さんが「そうだった」と、舌先を覗かせながらボードを軽く叩いた。
「魔法を使った痕跡のある人達は三名いるけれども、それぞれ犯行には関係ないか、犯行が不可能に思える。ここまではいいと思うの。次に考えるべきは――」
「犯行に魔法が使われなかった場合?」
陽子ちゃんが先回りする。いや、違った。
「木之本さん、それはちょっと早いわ。まだ魔法が使われた場合で検討すべき事柄がある」
「うん? 三人の他に魔法を使った人物はいないでしょ。それとも、まさかお城の外の人物が魔法を使っていたけど、お城の外からの魔法はロガーに残らない……なんてことはないわよね」
「お城の敷地内で効力を発揮した魔法は、全て記録されると解釈すべきだと思う。だから、それはないことに」
「うーん、分からん。教えて」
両手を上げて分かり易くギブアップした陽子ちゃん。水原さんはボードの方を向き字を書きながら答えた。
「それは――組み合わせです」
「魔法を組み合わせるって意味?」
「ええ」
「つまり、共犯。二人以上による犯行の可能性を考えようってことだね」
納得したとばかり、陽子ちゃんはうなずく。続いて指折り数える仕種をしながら、
「組み合わせは、王女と馭者、馭者と秘書、秘書と王女の三通り……いや、三人とも共犯を入れたら四通りかぁ」
「三人とも犯人だったら、犯人当てのしがいがないじゃん」
朱美ちゃんが呆れたように笑った。
「でも組み合わせを考えるんだったら、無視できない」
「それはまあ分かるけど」
「とにかく、組み合わせることで犯行が可能になるかどうかを考えていきます」
水原さんがまた板書を始める。
「現時点までに私が思い付いた、犯行を可能にする組み合わせは一つだけ。それは、これ」
書かれた文字は、フィリポとカークラン、だった。
「そういえば、ごにょごにょ内緒話してたって森君が言ってたし、怪しいもんね」
つちりんが言うのへ、水原さんは付け加える。
「それだけじゃないの。魔法を使った時間帯が重なっているのは、フィリポとカークランの二人であり、マギー王女は外れていることも重要だと思った」
そうだった。王女は二十三時台で、馭者と秘書は0時台に、それぞれの魔法を使ったと記録されているんだったわ。
「もちろん、時間差で魔法を使うことにより成り立つ方法もあるかもしれない。けど、今のところ思い付かないから」
「そこはいいことにしましょう。早く仮説を聞かせてくださいな」
待ちきれぬ風に不知火さん。彼女がしばらく黙っていたのも、早く聞きたい一心だったのかも。
うなずいた水原さんはボードに簡略化した図を書いた。五階建ての建物だが、お城の代わりだと分かる。
「この三階の部屋が犯行現場ね。二人の犯人は窓の外の地面に立って、まずフィリポが少しだけ離れた位置に、魔法で壁を出現させる。ただし、並行に壁を立てるんじゃなくて、お城の外壁に半円の筒を引っ付ける感じで」
絵を描き足していく水原さん。地面からファウスト侍従長の部屋の窓の下まで、縦に細長い半円筒型の被せ物が付けられたみたいになった。
つづく
「正解です。太陽も星ですから、星が出ていないとは言えません」
「昼間だけど、曇り空ってことにすればいいのに」
陽子ちゃんが冗談半分に言って、
「いや、でも、この問題の答には、『真っ昼間で、太陽が照りつけていた』っていう方がインパクトあるね」
と認める。
「不知火さんはこの問題、最初に見たとき解けたの?」
「いえ、だめでした。ちょうど小説で比喩表現が面白くなってきた頃だったのもありますが、思い込みの蟻地獄にはまってしまった。不覚です」
「今度、森君に出してみたら? 缶ジュースぐらい賭けてさ 意外とあっさり引っ掛かるかもよ」
朱美ちゃんが、らしい提案をする。けれども不知火さんは否定的な様子。
「さあ、どうしましょう? 私が出すと警戒されそうです」
「それなら私もだめだわ」
これは水原さん。推理小説を書く人からいきなりパズルを出されたら、そりゃあ警戒するでしょう。
「警戒されないとなると、サクラと私ぐらいかな。知り合ってから長いから」
陽子ちゃんが言った。確かに、知り合ってからの長さで言えば、幼稚園のときから森君を知っている私達が多分一番長い。小学校でクラスが一緒になったのは、三年生からだけど。
「まあ、そのことはいいではありませんか。今は推理です」
不知火さんが手を一つ打って、頭の切り替えを促す。進行役になっている水原さんが「そうだった」と、舌先を覗かせながらボードを軽く叩いた。
「魔法を使った痕跡のある人達は三名いるけれども、それぞれ犯行には関係ないか、犯行が不可能に思える。ここまではいいと思うの。次に考えるべきは――」
「犯行に魔法が使われなかった場合?」
陽子ちゃんが先回りする。いや、違った。
「木之本さん、それはちょっと早いわ。まだ魔法が使われた場合で検討すべき事柄がある」
「うん? 三人の他に魔法を使った人物はいないでしょ。それとも、まさかお城の外の人物が魔法を使っていたけど、お城の外からの魔法はロガーに残らない……なんてことはないわよね」
「お城の敷地内で効力を発揮した魔法は、全て記録されると解釈すべきだと思う。だから、それはないことに」
「うーん、分からん。教えて」
両手を上げて分かり易くギブアップした陽子ちゃん。水原さんはボードの方を向き字を書きながら答えた。
「それは――組み合わせです」
「魔法を組み合わせるって意味?」
「ええ」
「つまり、共犯。二人以上による犯行の可能性を考えようってことだね」
納得したとばかり、陽子ちゃんはうなずく。続いて指折り数える仕種をしながら、
「組み合わせは、王女と馭者、馭者と秘書、秘書と王女の三通り……いや、三人とも共犯を入れたら四通りかぁ」
「三人とも犯人だったら、犯人当てのしがいがないじゃん」
朱美ちゃんが呆れたように笑った。
「でも組み合わせを考えるんだったら、無視できない」
「それはまあ分かるけど」
「とにかく、組み合わせることで犯行が可能になるかどうかを考えていきます」
水原さんがまた板書を始める。
「現時点までに私が思い付いた、犯行を可能にする組み合わせは一つだけ。それは、これ」
書かれた文字は、フィリポとカークラン、だった。
「そういえば、ごにょごにょ内緒話してたって森君が言ってたし、怪しいもんね」
つちりんが言うのへ、水原さんは付け加える。
「それだけじゃないの。魔法を使った時間帯が重なっているのは、フィリポとカークランの二人であり、マギー王女は外れていることも重要だと思った」
そうだった。王女は二十三時台で、馭者と秘書は0時台に、それぞれの魔法を使ったと記録されているんだったわ。
「もちろん、時間差で魔法を使うことにより成り立つ方法もあるかもしれない。けど、今のところ思い付かないから」
「そこはいいことにしましょう。早く仮説を聞かせてくださいな」
待ちきれぬ風に不知火さん。彼女がしばらく黙っていたのも、早く聞きたい一心だったのかも。
うなずいた水原さんはボードに簡略化した図を書いた。五階建ての建物だが、お城の代わりだと分かる。
「この三階の部屋が犯行現場ね。二人の犯人は窓の外の地面に立って、まずフィリポが少しだけ離れた位置に、魔法で壁を出現させる。ただし、並行に壁を立てるんじゃなくて、お城の外壁に半円の筒を引っ付ける感じで」
絵を描き足していく水原さん。地面からファウスト侍従長の部屋の窓の下まで、縦に細長い半円筒型の被せ物が付けられたみたいになった。
つづく