第172話 カレンダーは週明けに
文字数 2,035文字
私も含めてメンバー全員で、「はいっ」と声が揃った。
油断のできない、常に集中しておかないとあとで大きな落とし穴にはまる。そんな講義を受けるクラブ活動って精神的に疲れそう、だけど面白そう。
さあて、このあとは私が自分の家の電話口でシュウさんから仕掛けられたマジックの種明かしだ!と思っていたのだけれど。
「時間が少ししか残ってない。予定を変えるけど、いいよね、萌莉?」
えー、そんな~と感じたけれども、タイムアップまでおよそ八分。あのマジックの実演と種明かしをやるには時間が足りないことくらい、私にも分かる。ここは涙を飲んで次回に期待しようっと。
「私は別にいいけど、残り時間で何をするの」
「練習の成果を見せてほしいな。次回からの本番に備えるためにも」
シュウさんが私以外の人達を見ながらにこやかに言った。
「えー! 心の準備がっ」
「そうだそうだ」
朱美ちゃんと森君が相次いで反対を表明。つちりんも顔が強ばっている。相田先生はそんな様子を眺めてから、
「秀明師匠、抜き打ちテストは嫌われるぞ。初っぱなくらい、優しくしよう。それが今後のためだ――と先生は先輩教師としてアドバイスを送ろう」
とシュウさんの方を向いた。
「いきなり罠を掛けたお詫びもしないといけないだろうしな」
「そうですか……そうですね」
“先輩”からの忠告を受け入れた様子のシュウさん。一つうなずくと、
「よし、今のは取り消し! 代わりにカードマジックを一つだけ。種を仕込む時間がないので簡単なものだけど」
と言いながら、トランプ一組を取り出した。
あっと、言うのを忘れていたけれども、今日のシュウさんはブレザー姿だ。高校の制服の一つで、チェック柄がおしゃれで似合っている。トランプを取り出したのは、そのジャケットのサイドポケットから。
そのトランプを手に持って教卓の前に出てくると、私達には裏向きのままカードを扇に開き、シュウさんは何やらカードを選んでいく。
「マジックと言っても、イカサマの技術なんだ。みんな、ポーカーは知ってるかな」
全員が知っていた。
「じゃあ一番強い役は何か分かる? ジョーカーがある場合とない場合で違うけど、ある場合で行こうか」
「ならファイブカードね」
陽子ちゃんがぼそっと言った。少し前に指名されたのがトラウマっぽくなっているのか、いつもに比べて調子を出せていないのが、手に取るように分かる。
「木之元さん、数は?」
「えっと、エースが四枚にジョーカーが一枚」
「その通り。その手がポーカーの役の中で最強だ。ということでイカサマの下準備として、まずはエースのファイブカードを作るための五枚を選び出し、ひとまとめにする」
シュウさんは一組のカードの中からそれぞのマークのエース及びジョーカーの計五枚を抜き取り、私達の方に見せた。残りのカードをきちんと揃えて机に置く。
「ここからセットするんだけど……形だけでも実際にやってみせた方がいいかな。僕自身を含めて五人でやる必要があるんだ。雰囲気を出すためだけだから、誰でもいいので……そうだ、相田先生ももっと近くでご覧になりませんか」
「うん? お手伝いなんて面倒なことは遠慮するよ。座ってるだけでいいのなら」
「はい、座っているだけです」
最終的に決まった四人は、不知火さん、相田先生、私、森君。この順にシュウさんから見て左手前から扇形に机を囲む。ちょっと窮屈だ。
「金田さん、水原さん、土屋さん、木之元さんも注意を怠ることなく、ようく見ておいてよ」
今名前の出た四人は、私の真後ろに水原さんが立ち、つちりんと陽子ちゃんはなんとシュウさんの左右に、さらに朱美ちゃんはシュウさんの背後に、各自二メートル強離れて立った。これらの角度からの視線というのは、マジシャンにとって鬼門の一つ、ううん、三つのはず。これで種を見られないようにマジックを成功させるとしたら、手先のテクニックしか思い付かないわ。
「おっともう五分を切ったか。では早速。最強の手札を自分に配れたら必勝だよね。そこでさっき抜いた五枚をカードの山の底にセットする」
シュウさんは今一度ファイブカードの手を示した。スペード、ハート、ダイヤ、クラブの順にエースが四枚、それにジョーカー一枚。間違いない。
シュウさんはこの五枚を揃えて左手に持ち、右手で机のカードの山を取り上げた。と、左手のカードの右手のカードを重ねる。もちろん全部裏向き。
「これから配りますが手に取らなくていいです。形だけなので」
言いながら、左手前つまり不知火さんから順に森君まで一枚ずつ配る。
「さてここでイカサマの手口。一番上を配ると見せ掛けて下から一枚を配る」
説明に沿って、カードの底から一枚を取って手近に置くシュウさん。
「え? ばればれだよ?」
途中と分かってはいたけど、思わず口を挟んじゃった。シュウさんは余裕の笑みを崩さずにいる。
つづく
油断のできない、常に集中しておかないとあとで大きな落とし穴にはまる。そんな講義を受けるクラブ活動って精神的に疲れそう、だけど面白そう。
さあて、このあとは私が自分の家の電話口でシュウさんから仕掛けられたマジックの種明かしだ!と思っていたのだけれど。
「時間が少ししか残ってない。予定を変えるけど、いいよね、萌莉?」
えー、そんな~と感じたけれども、タイムアップまでおよそ八分。あのマジックの実演と種明かしをやるには時間が足りないことくらい、私にも分かる。ここは涙を飲んで次回に期待しようっと。
「私は別にいいけど、残り時間で何をするの」
「練習の成果を見せてほしいな。次回からの本番に備えるためにも」
シュウさんが私以外の人達を見ながらにこやかに言った。
「えー! 心の準備がっ」
「そうだそうだ」
朱美ちゃんと森君が相次いで反対を表明。つちりんも顔が強ばっている。相田先生はそんな様子を眺めてから、
「秀明師匠、抜き打ちテストは嫌われるぞ。初っぱなくらい、優しくしよう。それが今後のためだ――と先生は先輩教師としてアドバイスを送ろう」
とシュウさんの方を向いた。
「いきなり罠を掛けたお詫びもしないといけないだろうしな」
「そうですか……そうですね」
“先輩”からの忠告を受け入れた様子のシュウさん。一つうなずくと、
「よし、今のは取り消し! 代わりにカードマジックを一つだけ。種を仕込む時間がないので簡単なものだけど」
と言いながら、トランプ一組を取り出した。
あっと、言うのを忘れていたけれども、今日のシュウさんはブレザー姿だ。高校の制服の一つで、チェック柄がおしゃれで似合っている。トランプを取り出したのは、そのジャケットのサイドポケットから。
そのトランプを手に持って教卓の前に出てくると、私達には裏向きのままカードを扇に開き、シュウさんは何やらカードを選んでいく。
「マジックと言っても、イカサマの技術なんだ。みんな、ポーカーは知ってるかな」
全員が知っていた。
「じゃあ一番強い役は何か分かる? ジョーカーがある場合とない場合で違うけど、ある場合で行こうか」
「ならファイブカードね」
陽子ちゃんがぼそっと言った。少し前に指名されたのがトラウマっぽくなっているのか、いつもに比べて調子を出せていないのが、手に取るように分かる。
「木之元さん、数は?」
「えっと、エースが四枚にジョーカーが一枚」
「その通り。その手がポーカーの役の中で最強だ。ということでイカサマの下準備として、まずはエースのファイブカードを作るための五枚を選び出し、ひとまとめにする」
シュウさんは一組のカードの中からそれぞのマークのエース及びジョーカーの計五枚を抜き取り、私達の方に見せた。残りのカードをきちんと揃えて机に置く。
「ここからセットするんだけど……形だけでも実際にやってみせた方がいいかな。僕自身を含めて五人でやる必要があるんだ。雰囲気を出すためだけだから、誰でもいいので……そうだ、相田先生ももっと近くでご覧になりませんか」
「うん? お手伝いなんて面倒なことは遠慮するよ。座ってるだけでいいのなら」
「はい、座っているだけです」
最終的に決まった四人は、不知火さん、相田先生、私、森君。この順にシュウさんから見て左手前から扇形に机を囲む。ちょっと窮屈だ。
「金田さん、水原さん、土屋さん、木之元さんも注意を怠ることなく、ようく見ておいてよ」
今名前の出た四人は、私の真後ろに水原さんが立ち、つちりんと陽子ちゃんはなんとシュウさんの左右に、さらに朱美ちゃんはシュウさんの背後に、各自二メートル強離れて立った。これらの角度からの視線というのは、マジシャンにとって鬼門の一つ、ううん、三つのはず。これで種を見られないようにマジックを成功させるとしたら、手先のテクニックしか思い付かないわ。
「おっともう五分を切ったか。では早速。最強の手札を自分に配れたら必勝だよね。そこでさっき抜いた五枚をカードの山の底にセットする」
シュウさんは今一度ファイブカードの手を示した。スペード、ハート、ダイヤ、クラブの順にエースが四枚、それにジョーカー一枚。間違いない。
シュウさんはこの五枚を揃えて左手に持ち、右手で机のカードの山を取り上げた。と、左手のカードの右手のカードを重ねる。もちろん全部裏向き。
「これから配りますが手に取らなくていいです。形だけなので」
言いながら、左手前つまり不知火さんから順に森君まで一枚ずつ配る。
「さてここでイカサマの手口。一番上を配ると見せ掛けて下から一枚を配る」
説明に沿って、カードの底から一枚を取って手近に置くシュウさん。
「え? ばればれだよ?」
途中と分かってはいたけど、思わず口を挟んじゃった。シュウさんは余裕の笑みを崩さずにいる。
つづく