第25話 テストとクイズとパズルの違い2
文字数 2,003文字
「つまり」
電車の中で森君の話に食いついたのは、不知火さんだった。
「『四本のマッチ棒だけで田んぼの田の字を作れ。マッチ棒は折ってはならない』という問題があって、マッチ棒を束ねたお尻を『田』の字に見立てるのが正解、というもパズルね?」
「そ、そう」
森君はまだ彼女を苦手そうにしている。
「確かに、頭を使えば小学生どころか幼稚園児でも答えられそうです。では、なぞなぞはどちらになるのかしら」
不知火さんの問い掛けに、森君が沈黙する。朱美ちゃんがその間に口を挟んだ。
「なぞなぞって、この橋渡るべからずって書いてあるのを見て、橋の真ん中を渡ったとかいうやつでしょ? とんちとか駄洒落とかが多いイメージあるな」
「ていうことは、パズルに入るのかな」
私も輪に加わる。
「とんちは頭を使わないと無理なんだから」
「だけど、駄洒落には知識も必要なのでは。少なくとも二つの物事を知っていないと、駄洒落の意味が理解できないわけですし」
女子三人でワイワイガヤガヤやっていると、森君が探るような口ぶりで、遅まきながら返事した。
「一応、パズルの方に分類されると思う」
「何で?」
「駄洒落は、そんなに難しい知識がなくてもだいたい分かることが多いだろ。パズルったって、知識ゼロじゃ解けない。と、今さっき考えて出した結論だけど」
「分かりました。それでは、ナンクロや数独のように、ひたすら試して答を見付けていくタイプの問題はどうしましょう? 閃きやとんちとはまた違う頭の使い方をしていると思いますが」
不知火さんが別のジャンルを持ち出して聞く。森君は小さくお手上げ状態になった。
「~っ。なあ、佐倉さん。不知火さんて、いつもこんなに食い下がるのか? しつこくて面倒すぎる」
「そんな失礼な言い方はだめだよ」
森君を私がたしなめたけれども、不知火さんは「いえいえ、気にしてないです」と応じて、実際ニコニコしている。
「昔、先生から言われたくらいですが、それでも直らないのだから、これは私の性分なんですね。気になったことなら分かるまで聞きます」
「じゃ、手品の種が気になったらどうするんだろ?」
つり革を持ったシュウさんの声が、上から降ってくる。立っているのは、これから行く会場の最寄り駅が本当に妻比良なのか、もしかしたら一つ手前の方が近いんじゃないかと考え、その確認のためだって。ちなみに私達四人は、横長の七人掛けに座ってる。
「手品の種については気になることは多々あると思いますが、手品とはどういう物かは理解したつもりですので、なるべく気にしないように努力します。――そう言えば、手品と奇術とマジック、複数の呼び方がありますが、意味やニュアンスとして違いがあるのでしょうか」
「ないと思うよ」
答えてから苦笑するシュウさん。
「ただ、知ってるかもしれないけど、日本に昔からある伝統的な奇術は『てづま』と呼んで分類することがあるんだ」
「初耳です」
首を小さく横に振る不知火さん。私も名前ぐらいしか聞いたことがない。
「手足の手に夫妻の妻と書いて手妻 。その由来は、手を稲妻のような早さで動かして、不思議な現象を見せるから」
「へえ~」
みんなから感心の声が上がる。
シュウさんの話はまだ続きがありそうだったんだけれども、降りる駅が近付いてきたのと、不知火さんが「言われてみれば『稲妻』にはどうして妻の字が含まれているのかしら……」と呟いたのを機に、強制的に打ち切り。
森君が降り際に、
「奥さんが旦那にかみなりを落とすのが当たり前になってるから、とかか?」
と、小さな声で言っていたけれども、聞こえたのは私だけだったみたい。
その次に、プラットフォームに立てられた「妻比良」の文字盤が目に留まって、ちょっと笑ってしまった。
晴れなのはいいけれども、暑さが堪える。
ゆっくり歩いて公民館に到着した頃には、汗で肌に服がくっつきつつあった。
「間に合ってよかった」
公民館の壁時計と自分の時計とを見比べ、シュウさんが言った。
「もう少しだけ時間があるから――」
シュウさんは館内にある自動販売機に視線を送り、次にその視線を財布に持ってきた。
「――金田さん。駐輪代の代わりに、飲み物なら」
「乗った! もらいます!」
朱美ちゃん、反応が早すぎ。
おごってもらおうとする金額で言えば、駐輪料金の方が飲み物を上回るはずなのに。朱美ちゃんが数字を無視してこんなに早く食いつくなんて、よっぽど喉が乾いていたんだよね。
ともかく、みんなで自動販売機の前に立って、どれにするか選ぶ。開園したら、場内は飲食禁止ということもあり、早めに飲んでしまおう。
他のみんなが選んだ物を買ってもらい、最後に私が少々迷って、やっと決めた。そして、ボタンを押したそのとき。
「――佐倉君?」
つづく
電車の中で森君の話に食いついたのは、不知火さんだった。
「『四本のマッチ棒だけで田んぼの田の字を作れ。マッチ棒は折ってはならない』という問題があって、マッチ棒を束ねたお尻を『田』の字に見立てるのが正解、というもパズルね?」
「そ、そう」
森君はまだ彼女を苦手そうにしている。
「確かに、頭を使えば小学生どころか幼稚園児でも答えられそうです。では、なぞなぞはどちらになるのかしら」
不知火さんの問い掛けに、森君が沈黙する。朱美ちゃんがその間に口を挟んだ。
「なぞなぞって、この橋渡るべからずって書いてあるのを見て、橋の真ん中を渡ったとかいうやつでしょ? とんちとか駄洒落とかが多いイメージあるな」
「ていうことは、パズルに入るのかな」
私も輪に加わる。
「とんちは頭を使わないと無理なんだから」
「だけど、駄洒落には知識も必要なのでは。少なくとも二つの物事を知っていないと、駄洒落の意味が理解できないわけですし」
女子三人でワイワイガヤガヤやっていると、森君が探るような口ぶりで、遅まきながら返事した。
「一応、パズルの方に分類されると思う」
「何で?」
「駄洒落は、そんなに難しい知識がなくてもだいたい分かることが多いだろ。パズルったって、知識ゼロじゃ解けない。と、今さっき考えて出した結論だけど」
「分かりました。それでは、ナンクロや数独のように、ひたすら試して答を見付けていくタイプの問題はどうしましょう? 閃きやとんちとはまた違う頭の使い方をしていると思いますが」
不知火さんが別のジャンルを持ち出して聞く。森君は小さくお手上げ状態になった。
「~っ。なあ、佐倉さん。不知火さんて、いつもこんなに食い下がるのか? しつこくて面倒すぎる」
「そんな失礼な言い方はだめだよ」
森君を私がたしなめたけれども、不知火さんは「いえいえ、気にしてないです」と応じて、実際ニコニコしている。
「昔、先生から言われたくらいですが、それでも直らないのだから、これは私の性分なんですね。気になったことなら分かるまで聞きます」
「じゃ、手品の種が気になったらどうするんだろ?」
つり革を持ったシュウさんの声が、上から降ってくる。立っているのは、これから行く会場の最寄り駅が本当に妻比良なのか、もしかしたら一つ手前の方が近いんじゃないかと考え、その確認のためだって。ちなみに私達四人は、横長の七人掛けに座ってる。
「手品の種については気になることは多々あると思いますが、手品とはどういう物かは理解したつもりですので、なるべく気にしないように努力します。――そう言えば、手品と奇術とマジック、複数の呼び方がありますが、意味やニュアンスとして違いがあるのでしょうか」
「ないと思うよ」
答えてから苦笑するシュウさん。
「ただ、知ってるかもしれないけど、日本に昔からある伝統的な奇術は『てづま』と呼んで分類することがあるんだ」
「初耳です」
首を小さく横に振る不知火さん。私も名前ぐらいしか聞いたことがない。
「手足の手に夫妻の妻と書いて
「へえ~」
みんなから感心の声が上がる。
シュウさんの話はまだ続きがありそうだったんだけれども、降りる駅が近付いてきたのと、不知火さんが「言われてみれば『稲妻』にはどうして妻の字が含まれているのかしら……」と呟いたのを機に、強制的に打ち切り。
森君が降り際に、
「奥さんが旦那にかみなりを落とすのが当たり前になってるから、とかか?」
と、小さな声で言っていたけれども、聞こえたのは私だけだったみたい。
その次に、プラットフォームに立てられた「妻比良」の文字盤が目に留まって、ちょっと笑ってしまった。
晴れなのはいいけれども、暑さが堪える。
ゆっくり歩いて公民館に到着した頃には、汗で肌に服がくっつきつつあった。
「間に合ってよかった」
公民館の壁時計と自分の時計とを見比べ、シュウさんが言った。
「もう少しだけ時間があるから――」
シュウさんは館内にある自動販売機に視線を送り、次にその視線を財布に持ってきた。
「――金田さん。駐輪代の代わりに、飲み物なら」
「乗った! もらいます!」
朱美ちゃん、反応が早すぎ。
おごってもらおうとする金額で言えば、駐輪料金の方が飲み物を上回るはずなのに。朱美ちゃんが数字を無視してこんなに早く食いつくなんて、よっぽど喉が乾いていたんだよね。
ともかく、みんなで自動販売機の前に立って、どれにするか選ぶ。開園したら、場内は飲食禁止ということもあり、早めに飲んでしまおう。
他のみんなが選んだ物を買ってもらい、最後に私が少々迷って、やっと決めた。そして、ボタンを押したそのとき。
「――佐倉君?」
つづく