第131話 食えない証拠
文字数 1,384文字
「無実の証明になるかもしれないと思ったんだ。事件の日の夕飯で、王女様とファウスト侍従長の食べた物が違うのなら、当然、未消化の物も違ってる。ヤーヴェさんはマギー王女様をとても心配したのだから、吐いた物もようく見たに違いない。未消化物の内容で、それが王女様、侍従長どちらが食べた物なのか分かるんじゃないかなあ?」
この話には王女よりも早く、メインが反応を示した。
「面白い着眼点だ。多分、覚えているだろうね。何よりも、吐いた物と思ってしげしげと診た結果、その未消化物に異常も違和感も覚えなかったからこそ、ヤーヴェさんは当夜、騒ぎ立てなかったのだろうし、捜査が始まっても僕らにこの件に関して何も言わなかったんだろう。その事実はとりもなおさず、ヤーヴェさんが見た物は、マギー王女がその日の夕餉にお食べになった物の未消化状態の代物だったということに他ならない。つまり――マギー王女への嫌疑は取り下げねばいけないようです」
「……自分自身ではやっていないことと分かっていたから、あまり感動もしませんが、ここは喜ぶべきところ?」
「それは王女様のご随意に。これまでのご無礼の数々、平に謝罪いたします。何卒お許しください」
臣下の礼を取るメイン。その目の前で、宗平は「よかったじゃん。喜んどけばいい」と、王女の両手を取った。
「事件解決のために一般の力を借りようってくらいオープンならいい国なんだろうし、王族は象徴ってやつなんでしょ? 王女様が素直に喜びの感情を表してくれたら、国民も安心するんじゃないかなって思うよ」
「……それもそうですね」
マギー王女はにんまりと、擬態語が音になって聞こえて来そうな笑顔をなした。
宗平と王女のそんなやり取りを目にして、やれやれといった体で嘆息するメイン。頬を緩めていた彼だったが、程なくして再び引き締めた。
「マギー王女。この際だから、伺わせてください。ダイエットに励もうと思われたきっかけは、当の侍従長にあるのではないですか」
「……さすが、選ばれた探偵師です」
「いえ。すると、侍従長ともあろう方が王女に向けて『痩せなさい』と言うとは思えませんから、ダイエットは王女ご自身の判断で自主的になさったことですか」
「ええ。彼と将来の話をするようになり、婚礼も二人の間の話題に上るようになって。皆が承知の通り、式に臨む際には、身に付けねばならない伝統衣装がある」
いや、俺は知らないけど。宗平は頭の中だけでそう反応した。
「先祖代々伝わる衣装で、それを着られないと婚儀そのものが認められないと聞きます。実際にそんな事態になったことがないそうなので、本当に認められないものかどうか私にも分かりませんけれど」
「そこまでお話が進んでいたとは。改めてお悔やみ申し上げます」
「いいのです。まだ私達二人だけの話で、父や母にもほのめかした程度だった。もちろん、よい感触を得ていたから、そのまま進めるつもりでいました」
「臣下と結ばれる例がなかったわけではないですが、ファウスト侍従長の家柄、血筋には問題なかったんですね」
「それはもう、ようく調べさせました。あとから異議が唱えられることのないように」
ここまで話を聞いていた宗平は、マルタ達に調べてもらっていることがふと頭に浮かんだ。そして結び付いた。
「結婚て、お金が掛かる?」
つづく
この話には王女よりも早く、メインが反応を示した。
「面白い着眼点だ。多分、覚えているだろうね。何よりも、吐いた物と思ってしげしげと診た結果、その未消化物に異常も違和感も覚えなかったからこそ、ヤーヴェさんは当夜、騒ぎ立てなかったのだろうし、捜査が始まっても僕らにこの件に関して何も言わなかったんだろう。その事実はとりもなおさず、ヤーヴェさんが見た物は、マギー王女がその日の夕餉にお食べになった物の未消化状態の代物だったということに他ならない。つまり――マギー王女への嫌疑は取り下げねばいけないようです」
「……自分自身ではやっていないことと分かっていたから、あまり感動もしませんが、ここは喜ぶべきところ?」
「それは王女様のご随意に。これまでのご無礼の数々、平に謝罪いたします。何卒お許しください」
臣下の礼を取るメイン。その目の前で、宗平は「よかったじゃん。喜んどけばいい」と、王女の両手を取った。
「事件解決のために一般の力を借りようってくらいオープンならいい国なんだろうし、王族は象徴ってやつなんでしょ? 王女様が素直に喜びの感情を表してくれたら、国民も安心するんじゃないかなって思うよ」
「……それもそうですね」
マギー王女はにんまりと、擬態語が音になって聞こえて来そうな笑顔をなした。
宗平と王女のそんなやり取りを目にして、やれやれといった体で嘆息するメイン。頬を緩めていた彼だったが、程なくして再び引き締めた。
「マギー王女。この際だから、伺わせてください。ダイエットに励もうと思われたきっかけは、当の侍従長にあるのではないですか」
「……さすが、選ばれた探偵師です」
「いえ。すると、侍従長ともあろう方が王女に向けて『痩せなさい』と言うとは思えませんから、ダイエットは王女ご自身の判断で自主的になさったことですか」
「ええ。彼と将来の話をするようになり、婚礼も二人の間の話題に上るようになって。皆が承知の通り、式に臨む際には、身に付けねばならない伝統衣装がある」
いや、俺は知らないけど。宗平は頭の中だけでそう反応した。
「先祖代々伝わる衣装で、それを着られないと婚儀そのものが認められないと聞きます。実際にそんな事態になったことがないそうなので、本当に認められないものかどうか私にも分かりませんけれど」
「そこまでお話が進んでいたとは。改めてお悔やみ申し上げます」
「いいのです。まだ私達二人だけの話で、父や母にもほのめかした程度だった。もちろん、よい感触を得ていたから、そのまま進めるつもりでいました」
「臣下と結ばれる例がなかったわけではないですが、ファウスト侍従長の家柄、血筋には問題なかったんですね」
「それはもう、ようく調べさせました。あとから異議が唱えられることのないように」
ここまで話を聞いていた宗平は、マルタ達に調べてもらっていることがふと頭に浮かんだ。そして結び付いた。
「結婚て、お金が掛かる?」
つづく