第249話 シュウさんからの電話と報告

文字数 2,133文字

 でも、七尾さんの続く言葉に救われた。
「手品って見破るだけのものじゃないってことが、少し分かった気がする」
 そう感じてくれたのなら、報われた~。思わず安堵。
 そこへつちりんが「でしょでしょ?」と、これまた嬉しそうに七尾さんに話し掛けた。
「不思議な物事の秘密を全部暴いちゃったらつまらないって。部隊裏を見るのは、それはそれで結構楽しいけれども、ほどほどがいいよ」
「そうか。みんなは種を知ってるんだ? てことはさっきまでのは驚いたふり?」
 七尾さんがそう信じるのも無理ない。つちりんは凄い早さで首を左右に振った。
「ううん! 今日のほとんど知らないよっ」
「正確には、ちょっと知っているけれども、違う使い方を見せられたってところ」
 陽子ちゃんの補足に、七尾さんは眉間にしわを作った。タレントがあんまりそういう表情をするのはよくないんじゃあ……と心配になる。
「つまり、同じ種を使って異なる別のマジックをやったってことか。なるほどなるほど。で、その種を知るためには、サークルに正式に入らないといけない?」
 私の方に改めて向き直り、聞いてきた。
「う、うん。原則的にそのつもり。ま、まあ、種を知りたいだけならわざわざ入らなくても、専門書を当たったり、ネットで根気よく検索したりすれば何とかなるかもしれないけれど」
 余計なことを言ったかしら。事実、陽子ちゃんや朱美ちゃんがしかめ面になって、私の顔を凝視してきている。「真面目か! 何てこと言うのよ!」って感じ。
「……いや」
 顎に手を当てて考えていた七尾さんがぽつりと言う。
「種を知りたいだけじゃあなくなった。みんなと一緒に、マジックを覚えてみたい」
「えっ、ほんと?」
「嘘なんか言わないって。だけど一つ、問題があるんだよね」
 顎から離した手を、今度は腕組みに持って行く。首を傾げながら、続けた。
「前にも言ったように、タレントとしての用事が入るかもしれないから、サークル活動の方に毎回参加できるかどうか、微妙なんだ。飛ばし飛ばしで出ても、身に付くものなのかなぁ?」
 首の傾きを戻して、真顔で不安を表す七尾さん。あまりに真剣で、演技じゃないかしらと勘ぐったほど。でも彼女の目に嘘偽りの光は、ない。
「もちろん、一人一人の進み具合に合わせて、私や師匠ががんばって教えるから。あとはあなた次第」
「そっか。って、師匠って誰?」
「最初に言ったシュウさん」
「ああ……あの人も本気出せば、会長の佐倉さんと同じくらい凄いの?」
 そうか。七尾さんからすれば、シュウさんのマジックを観て、種を見破っているんだ。
「同じくらいなんて、とんでもない。私よりもずーっと上。何たって、私に教えてくれたのはシュウさんなんだから」
「ふうん?」
 まだ半信半疑っぽい七尾さんだけど、とりあえず納得したらしい。
「出られるときだけでかまわないと許可してもらえるのなら、ぜひ入会したいな」
「よかった。サークルを代表して、よろこんで歓迎します」
 言ってから二重表現になっていることに気付いた(歓んで・歓迎)けれど、まあいいよね。不知火さんもスルーしてくれてるし。

 その日、下校して家で過ごしていると、夜八時頃にシュウさんから電話があった。
「今、時間は大丈夫かい?」
 こんばんはの挨拶のあと、聞いてくるシュウさん。長話になるってことかしら。
「うん、大丈夫。宿題がさっき終わって、マッスルパスの練習を始めたとこだった。電話をくれたってことは、あれでしょ。今日のサークル活動がどうなったのか、気になってた?」
「まあ、それもある。どうだった? 手強かっただろ、あの子――七尾さんは」
「手強かった、うん、その通りだわ。仮に、初心者だと思ってシンプルなマジックばかり見せたとしたら、きっとほとんど見破られていた」
「おっ。そう言うからには、だまし通せた演目もあったんだ?」
「一応ね。対策をしていたおかげ。と言っても、不知火さんの閃きが大きかったんだけれども」
 私は、七尾さんの苦手なタイプのマジックを看破した不知火さんの推測ぶりを、シュウさんに手短に伝えた。聞き終わるとシュウさんは「ふうん、なるほどな」と感心してた。
「不知火さんはたいしたものだと思うけれども、それを聞いて見合った演目を実行に移せる萌莉も凄い」
 褒められちゃった。まあ、マッスルパスには長い間、悪戦苦闘していたから、それを克服したことも込みかな。
「私、思ったんだけど、シュウさんやプロの人もちゃんと準備していたら、七尾さんを、種を見破るだけの人からマジック好きに変えることくらい、割と楽にできたんじゃないのかなあ?」
「多分ね。ただ、加減を間違える可能性はあったかもしれない」
「かげん?」
 どの字を当てはめる「かげん」なのか、話の流れだけではすぐには想像が付かなかった。
「さじ加減のことだよ。マジック初心者の子供に、よくあるシンプルなマジックを見せて、種を見破られたら、次は絶対に見破られないようにしようと考えるのが、マジシャンのさがというものだろ。だからつい、難易度を一気に上げて、超絶テクニック&仕掛けを施した業界人でしか見破ることができない演目を披露する」
 そういうのって私なら嬉しいし、ラッキーだと思っちゃうけどなぁ。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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