第179話 このマジックは自動的だから
文字数 2,089文字
「だから不知火さんには、表情豊かに演じることを意識してほしいと思う」
「私、無理に笑おうとすると嘘っぽい、作り笑いだとよく言われます」
ふうん? 私は不知火さん相手にそんな風に感じたことは一度もないけど。あ、私に対して一度も作り笑いをしていないってことになるのかしら。
「表情を豊かにというのは笑うことだけじゃない。言い換えると、そうだね、演じると言えばいいのかな。何かになりきって、マジックを見せるというのはどうだろう? 自信満々に力を誇示するかのように演じるマジシャンがいる一方、お客と一緒になって驚くような演技をするマジシャンもいる。こいつは難しいぞとか閃いた!といった、短い間の表情も色々あるしね」
「分かりました……」
椅子に腰掛け直す不知火さん。さすがにすぐ練習を始めることはない。表情が問題となると鏡がほしいだろうし、どんな流れで表情を換えていくかも考える必要があるはず。
カードさばきについてはここまでで、続いてはコインさばきの方をちょっとだけやった。シュウさんがお手本をやってみせて、みんなが真似るというもの。時間が取れないので各自、家でまた練習をしておいてとコンパクトにまとめた。
さて次は、先週金曜日のおしまいにシュウさんがやってくれたポーカーゲームでのいかさまに似たマジック。あれの解説だ。
まずシュウさんが前回と同様、一組のトランプを手に持って、エースとジョーカーを選び出すところから始める。
前と違うのは、エースやジョーカーを探す過程を私達にも見せてくれる点だ。
「ん? 何だ?」
早速声を上げたのは森君だった。私達もほんのわずか遅れて、変なことに気が付いた。
シュウさんは四枚のエースとジョーカーだけではなく、スペードのキング、クイーン、ジャックそして10も選り分けていた。それら四枚のスペードを左手の方に集めて、エース四枚とジョーカーは右手の方に。
「ここからが本格的な仕込みになる。最初に、スペードの10からキングまでの四枚を、カードの山のトップに持って来る、今は上下逆に持っているから一番底になるけれどね」
シュウさんはエース四枚とジョーカーのみを右手に残し、あとはひとまとめにして裏向きに机に置いた。今、カードの山の上から四枚はスペードの10~キングになっている。
「この間やったみたいに、エースのファイブカードになる手札をみんなに示したら山を持ち上げ、その底にセットすることを説明する。ここで重要なポイント。スペードのエースが一番下になるようにしてください。それとジョーカーはあとで取り除き易いように、五枚の中では一番上にしておくように」
実際にファイブカードを底部にセット。この段階で、カードの並びは次みたいになっているわ。上から順番に要点を押さえて書いてみるね。ここでは後ほど分かり易くなるように、スペードの10からキングまでは10を上にして、この順番通りに重ねてあると思って。
スペードの10~キング 残りのカード四十四枚 ジョーカー、スペード以外の三枚のエース、スペードのエース
この状態にセットされたカードを、この間シュウさんがやったように本人を含めて五人に配り終えたとき、カードの並びはこうなる。AからDまでが私達観客で、Xが配る人ね。
A 四枚のカード スペードの10
B 四枚のカード スペードのジャック
C 四枚のカード スペードのクイーン
D 四枚のカード スペードのキング
X ジョーカー、スペード以外の三枚のエース、スペードのエース
「僕はこのファイブカードからジョーカーを取り除くんだけど、それだとこのあとのロイヤルストレートフラッシュ作りができないから、密かに一枚重ねる。密かにと言ったって別に難しくはない。次にジョーカー抜きでもう一度やるよと言ってカードを集める動作に紛れさせれば、比較的楽にできると思う」
言葉の通り、シュウさんは簡単そうにやってのけた。
「それよりも重要なのはカードの集め方。お客四人に配ったカードだけど、それぞれの手札を崩さないように五枚をひとまとまりにして集めるんだ。お客には手札を見なくていいと言ってあるから、そのまま戻せばいいんだけどね。そうして集めたカードを重ねていき、最終的に山の並びはこんな風になる」
シュウさんが見せてくれたのは次のような順番になっていた。
四枚のカード スペードの10 四枚のカード スペードのジャック 四枚のカード スペードのクイーン 四枚のカード スペードのキング 一枚のカード、スペード以外の三枚のエース、スペードのエース 残りのカード二十七枚
「この山を切らず崩さず、上から順番に普通に配っていけばいいんだ」
表向きにしてカードを配ってくれたので、凄く分かり易かった。四枚の適当なカードがお客ABCDに配られ、スペードの10はXつまりはシュウさんのところへ来る。これが繰り返され、スペードの10からエースまでがシュウさんの手元に集まるという流れが、何だか美しいとさえ感じられた。
つづく
「私、無理に笑おうとすると嘘っぽい、作り笑いだとよく言われます」
ふうん? 私は不知火さん相手にそんな風に感じたことは一度もないけど。あ、私に対して一度も作り笑いをしていないってことになるのかしら。
「表情を豊かにというのは笑うことだけじゃない。言い換えると、そうだね、演じると言えばいいのかな。何かになりきって、マジックを見せるというのはどうだろう? 自信満々に力を誇示するかのように演じるマジシャンがいる一方、お客と一緒になって驚くような演技をするマジシャンもいる。こいつは難しいぞとか閃いた!といった、短い間の表情も色々あるしね」
「分かりました……」
椅子に腰掛け直す不知火さん。さすがにすぐ練習を始めることはない。表情が問題となると鏡がほしいだろうし、どんな流れで表情を換えていくかも考える必要があるはず。
カードさばきについてはここまでで、続いてはコインさばきの方をちょっとだけやった。シュウさんがお手本をやってみせて、みんなが真似るというもの。時間が取れないので各自、家でまた練習をしておいてとコンパクトにまとめた。
さて次は、先週金曜日のおしまいにシュウさんがやってくれたポーカーゲームでのいかさまに似たマジック。あれの解説だ。
まずシュウさんが前回と同様、一組のトランプを手に持って、エースとジョーカーを選び出すところから始める。
前と違うのは、エースやジョーカーを探す過程を私達にも見せてくれる点だ。
「ん? 何だ?」
早速声を上げたのは森君だった。私達もほんのわずか遅れて、変なことに気が付いた。
シュウさんは四枚のエースとジョーカーだけではなく、スペードのキング、クイーン、ジャックそして10も選り分けていた。それら四枚のスペードを左手の方に集めて、エース四枚とジョーカーは右手の方に。
「ここからが本格的な仕込みになる。最初に、スペードの10からキングまでの四枚を、カードの山のトップに持って来る、今は上下逆に持っているから一番底になるけれどね」
シュウさんはエース四枚とジョーカーのみを右手に残し、あとはひとまとめにして裏向きに机に置いた。今、カードの山の上から四枚はスペードの10~キングになっている。
「この間やったみたいに、エースのファイブカードになる手札をみんなに示したら山を持ち上げ、その底にセットすることを説明する。ここで重要なポイント。スペードのエースが一番下になるようにしてください。それとジョーカーはあとで取り除き易いように、五枚の中では一番上にしておくように」
実際にファイブカードを底部にセット。この段階で、カードの並びは次みたいになっているわ。上から順番に要点を押さえて書いてみるね。ここでは後ほど分かり易くなるように、スペードの10からキングまでは10を上にして、この順番通りに重ねてあると思って。
スペードの10~キング 残りのカード四十四枚 ジョーカー、スペード以外の三枚のエース、スペードのエース
この状態にセットされたカードを、この間シュウさんがやったように本人を含めて五人に配り終えたとき、カードの並びはこうなる。AからDまでが私達観客で、Xが配る人ね。
A 四枚のカード スペードの10
B 四枚のカード スペードのジャック
C 四枚のカード スペードのクイーン
D 四枚のカード スペードのキング
X ジョーカー、スペード以外の三枚のエース、スペードのエース
「僕はこのファイブカードからジョーカーを取り除くんだけど、それだとこのあとのロイヤルストレートフラッシュ作りができないから、密かに一枚重ねる。密かにと言ったって別に難しくはない。次にジョーカー抜きでもう一度やるよと言ってカードを集める動作に紛れさせれば、比較的楽にできると思う」
言葉の通り、シュウさんは簡単そうにやってのけた。
「それよりも重要なのはカードの集め方。お客四人に配ったカードだけど、それぞれの手札を崩さないように五枚をひとまとまりにして集めるんだ。お客には手札を見なくていいと言ってあるから、そのまま戻せばいいんだけどね。そうして集めたカードを重ねていき、最終的に山の並びはこんな風になる」
シュウさんが見せてくれたのは次のような順番になっていた。
四枚のカード スペードの10 四枚のカード スペードのジャック 四枚のカード スペードのクイーン 四枚のカード スペードのキング 一枚のカード、スペード以外の三枚のエース、スペードのエース 残りのカード二十七枚
「この山を切らず崩さず、上から順番に普通に配っていけばいいんだ」
表向きにしてカードを配ってくれたので、凄く分かり易かった。四枚の適当なカードがお客ABCDに配られ、スペードの10はXつまりはシュウさんのところへ来る。これが繰り返され、スペードの10からエースまでがシュウさんの手元に集まるという流れが、何だか美しいとさえ感じられた。
つづく