第43話 種明かし
文字数 2,066文字
「うまいもんだねえ」とこれは陽子ちゃん。つちりんは「凄い。いんちき占いに使えそう」と妙な感想をくれた。朱美ちゃんはダイヤの7のカードを透かし見つつ、「どこにも印はないわ」と白旗を揚げた。
「トランプはごく普通のカードだよ。ご家庭にある物でできる」
「種を教えてくれ」
相田先生が一番子供っぽいことを言ってる。児童みんなで、じろっと見やる。すると先生は取り繕うように付け足した。
「も、もちろん、今すぐにって意味じゃない。今後の活動を通してだよ」
「――不知火さんは?」
私は座ったままでいる彼女に聞いた。普段の不知火さんに戻ったみたいに静かにしているけど。どうかしたのかな。
私が顔を覗き込もうとすると、不知火さんは俯きがちだった面を起こした。
「……喋ってしまいそうなのを我慢してます」
実際、両手を拳にして口元に当てている。
「え、というともしかして」
「すみません、種が分かってしまったかもしれません」
あちゃー。ばれた? 失敗はしなかったと思うんだけど、確かに位置的には、不知火さんの席が見破る可能性が最も高いかも。
「ほんと? 教えて」
つちりんと朱美ちゃんが求めるも、不知火さんは首を横に振った。
「いけません。外れているかもしれないし、佐倉さんの手際は見事でしたから」
それから今度は森君の方を向く不知火さん。
「森君は分かった?」
「へ? いや、全然」
ハトが豆鉄砲を食らったようなとはこのことかしらと思えるほど、森君は目を丸くしている。不知火さんからそんなことを聞かれるなんて、想像してなかったんだろう。
「ここで種を見破ったら、入部を賭けた対決での借りを返せると思ったんですが」
「うー、嫌なことを思い出させてくれるぜ」
頭をかいて渋い顔の森君。事情を知らない相田先生だけが「何言ってるんだ?」という風に、森君と不知火さんを等分に見ている。
「考えるつもりがあるのなら、来週までの宿題にしてはどう?」
不知火さんが持ち掛けてきた。うん、それも面白いかも。ただ、解けるかどうかとなると……録画した映像でもあればともかく、記憶だけではしんどいかな。
「ヒントをくれ、ヒント」
「そうですね。私の想像が当たっているとしての話ですが、『物事には意味がある』というのでどうでしょう、佐倉さん?」
「いいと思う」
不知火さん、多分正解している。こっちは内心、冷や汗でびっしょりの気分だわ、ほんと。
「よしそれじゃあ、最後のカード当ては、考えてみっかな」
「成り行きで、次週は答合わせになってしまいそうですが、佐倉さん、よかったんでしょうか」
不知火さんに聞かれて、そういえばそうなんだと気付かされた。でも、元々、もったいぶっていつまでも秘密にしておく気はなかった。
「みんながいいのなら、今からでも種明かしと解説をするよ。時間あるし、初めてのクラブ授業だから、色々試したいし」
「さっきのやつの種明かしするのなら、俺、帰るわ」
森君が言い出した。自力で解きたいってことなんだろう。それは分かるんだけど、これは授業であって、先生の前でそれを言うのはまずいよぉ。
「だめだぞ。今の時点で帰るのなら、出席簿に早引きって書かなきゃならなくなる」
「う」
森君は考えて、「じゃあ、トイレに行ったことにして、五分後ぐらいに戻ってくるから、その間に種明かししておくというのは」という案を出してきた。何でこんなに執念を燃やすんだろ、おかしくて笑ってしまいそうになる。
「相田先生の許しが出るのなら、私はそれでもかまわないけど」
と、先生の方を見る。
「おまえら、自由にも程があるな。ま、頭が柔らかいのはいいことだし、子供の特権だ。しょうがない、言って来い。五分、いや往復の時間を入れて六分で戻ってこいよ」
「先生、あんがと」
舌足らずなお礼をして、森君は一年四組の教室をそそくさと出て行った。
「サクラ、まだ始めちゃだめだよ」
陽子ちゃんが廊下の方を見ながら言う。
「声が聞こえるかもしれないから」
「そんなにこだわらなくたって」
「いや、あいつの本気度が分からない? 一週間後に正解しても、あのとき盗み聞きしてたんだろうって言われるような状況じゃ、不憫でしょ」
そういうものかと納得。およそ三十秒待って、足音が完全に聞こえなくなってから、種明かしを始めた。
「――と、その前に、不知火さんに質問しておこっかな」
「何でしょうか?」
「不知火さんも見破っていたことの証明がほしいかなと思って。さっきのカードマジックで、一番のポイントになる物あるいは事を答えてみてください」
「それなら簡単です」
不知火さんはテーブル上の一点を指さした。
「これですよね」
不知火さん、種を見破っていたことが完全に確定。私は手の先で小さく拍手のポーズをしながら、「お見事」と言った。
「えっと、どういうことなの」
つちりんが机に近付き、不知火さんが指差した物と私の顔の間で不思議がる視線を行き来させた。
つづく
「トランプはごく普通のカードだよ。ご家庭にある物でできる」
「種を教えてくれ」
相田先生が一番子供っぽいことを言ってる。児童みんなで、じろっと見やる。すると先生は取り繕うように付け足した。
「も、もちろん、今すぐにって意味じゃない。今後の活動を通してだよ」
「――不知火さんは?」
私は座ったままでいる彼女に聞いた。普段の不知火さんに戻ったみたいに静かにしているけど。どうかしたのかな。
私が顔を覗き込もうとすると、不知火さんは俯きがちだった面を起こした。
「……喋ってしまいそうなのを我慢してます」
実際、両手を拳にして口元に当てている。
「え、というともしかして」
「すみません、種が分かってしまったかもしれません」
あちゃー。ばれた? 失敗はしなかったと思うんだけど、確かに位置的には、不知火さんの席が見破る可能性が最も高いかも。
「ほんと? 教えて」
つちりんと朱美ちゃんが求めるも、不知火さんは首を横に振った。
「いけません。外れているかもしれないし、佐倉さんの手際は見事でしたから」
それから今度は森君の方を向く不知火さん。
「森君は分かった?」
「へ? いや、全然」
ハトが豆鉄砲を食らったようなとはこのことかしらと思えるほど、森君は目を丸くしている。不知火さんからそんなことを聞かれるなんて、想像してなかったんだろう。
「ここで種を見破ったら、入部を賭けた対決での借りを返せると思ったんですが」
「うー、嫌なことを思い出させてくれるぜ」
頭をかいて渋い顔の森君。事情を知らない相田先生だけが「何言ってるんだ?」という風に、森君と不知火さんを等分に見ている。
「考えるつもりがあるのなら、来週までの宿題にしてはどう?」
不知火さんが持ち掛けてきた。うん、それも面白いかも。ただ、解けるかどうかとなると……録画した映像でもあればともかく、記憶だけではしんどいかな。
「ヒントをくれ、ヒント」
「そうですね。私の想像が当たっているとしての話ですが、『物事には意味がある』というのでどうでしょう、佐倉さん?」
「いいと思う」
不知火さん、多分正解している。こっちは内心、冷や汗でびっしょりの気分だわ、ほんと。
「よしそれじゃあ、最後のカード当ては、考えてみっかな」
「成り行きで、次週は答合わせになってしまいそうですが、佐倉さん、よかったんでしょうか」
不知火さんに聞かれて、そういえばそうなんだと気付かされた。でも、元々、もったいぶっていつまでも秘密にしておく気はなかった。
「みんながいいのなら、今からでも種明かしと解説をするよ。時間あるし、初めてのクラブ授業だから、色々試したいし」
「さっきのやつの種明かしするのなら、俺、帰るわ」
森君が言い出した。自力で解きたいってことなんだろう。それは分かるんだけど、これは授業であって、先生の前でそれを言うのはまずいよぉ。
「だめだぞ。今の時点で帰るのなら、出席簿に早引きって書かなきゃならなくなる」
「う」
森君は考えて、「じゃあ、トイレに行ったことにして、五分後ぐらいに戻ってくるから、その間に種明かししておくというのは」という案を出してきた。何でこんなに執念を燃やすんだろ、おかしくて笑ってしまいそうになる。
「相田先生の許しが出るのなら、私はそれでもかまわないけど」
と、先生の方を見る。
「おまえら、自由にも程があるな。ま、頭が柔らかいのはいいことだし、子供の特権だ。しょうがない、言って来い。五分、いや往復の時間を入れて六分で戻ってこいよ」
「先生、あんがと」
舌足らずなお礼をして、森君は一年四組の教室をそそくさと出て行った。
「サクラ、まだ始めちゃだめだよ」
陽子ちゃんが廊下の方を見ながら言う。
「声が聞こえるかもしれないから」
「そんなにこだわらなくたって」
「いや、あいつの本気度が分からない? 一週間後に正解しても、あのとき盗み聞きしてたんだろうって言われるような状況じゃ、不憫でしょ」
そういうものかと納得。およそ三十秒待って、足音が完全に聞こえなくなってから、種明かしを始めた。
「――と、その前に、不知火さんに質問しておこっかな」
「何でしょうか?」
「不知火さんも見破っていたことの証明がほしいかなと思って。さっきのカードマジックで、一番のポイントになる物あるいは事を答えてみてください」
「それなら簡単です」
不知火さんはテーブル上の一点を指さした。
「これですよね」
不知火さん、種を見破っていたことが完全に確定。私は手の先で小さく拍手のポーズをしながら、「お見事」と言った。
「えっと、どういうことなの」
つちりんが机に近付き、不知火さんが指差した物と私の顔の間で不思議がる視線を行き来させた。
つづく