第122話 身分違いの恋かもね
文字数 1,567文字
代わりに心の中で、一通り吐き出しておくことにした。
(だいたい、王女様は魔法の使い道について証言を拒否しておいて、何でこんな形で出て来たんだ? よっぽど怪しい)
そんな疑いを抱きながらマギー王女の横顔を盗み見た。途端に、どきっとする宗平。
(チェリーよりも王女様の方が、佐倉にもっと似ている。性格は、どちらかというとチェリーの方が近いみたいだけど、まあ、王女様とは会ったばかりだから分からない。何にしたって、佐倉と同じ顔の人には容疑を掛けづらいぞ)
参ったなと密かに頭をかく。と、宗平の目の前で、メイド姿のマギー王女とメインが相次いで立ち止まった。
「着いたけれども、質問の方はもういいかな?」
いつの間にか、目的とした四階の部屋の前まで辿り着いていた。宗平は大きな動作で首を縦に振った。
「もちろん。事件解決が先だもんな。でもって、ここは何の部屋?」
この問いには、メインが扉を見ながら応じた。
「ここは倉庫か物置のようだけれども、鍵が掛かっている。普段から使う物を置いておくとしたら、不便なことだ」
メインは王女に顔を向け、「何か大事な物を仕舞ってあるというような、秘密の事情があるのですか? この部屋に出入りできる者が怪しいのではないかと踏んで、我々はここを調べるつもりでいるのですが」と、どこか諭すような響きをにじませて聞いた。
これに対し王女は、相手の口ぶりから微妙なニュアンスを感じ取ったらしく、ちょっとむくれた。
「秘密でも何でもないのだから、きちんと答えるわ。ここは物置としても使われているけれども、本来の目的は緊急時用の入り口。飛行魔法を使って城へ急行した者が、そのままこの部屋に飛び込めるようになっているの」
「ということは、部屋の窓は開けっぱなしで、ドアの鍵は……?」
「鍵は内側から簡単に開く。それで事足りるでしょ」
「不審者が入り込まないのかな」
宗平が聞くと、マギー王女は首を左右に二度振った。
「許可を与えられた者のみが通れるように、魔法が掛けられています。常識です」
やりこめられてくしゅんとなる宗平だったが、今体験している世界についての常識なんて知らないのは、元から承知の上。この程度でくじけていられない。
「窓から入るのは魔法が必要あのは分かった。当然、記録されると。じゃあ、このドアを出入りできる人間は?」
「……私は把握していない。でも、ここは見た目と違って重要な部屋だから、限られた者しか――」
「あ、失礼。ちょっといいですか」
王女がしゃべっているのをメインが遮った。彼は許可を得ると王女にではなく、宗平に向けて話し掛けた。
「重要度から推して、この部屋が普段、ずっと鍵を掛けたままだったことは明白だ」
「うん」
「そして城の部屋の鍵は全て魔法錠。ということは?」
「あ。ロガーに記録が残るんだ!」
すぽっと抜け落ちていたが、確かにそんな話を聞いたばかりだ。
メインは首肯し、続きを代わって答えた。
「犯行時間帯にこの部屋の鍵が解除され、再び閉められた記録があるんだったら、恐らく僕らにも報告されているはず。実際にはないのだから、この部屋は事件とは無関係」
「そっかぁ。く」
くそっと言いそうになったのだが、我慢した。マルタの注意を思い出していた。
「マギー王女。侍従長の部屋の上の階は、こことあと一つだけでしたね? 五階の部屋も同じように鍵が掛かっているのでしょうか。それから、五階の上、つまり屋上には出られる構造なのかどうかも」
「質問の内容だけ聞いていると、城内の見取り図をこしらえて、よからぬことを考えていそうだわ」
「滅相もない」
「ふふ、冗談です」
王女は愛らしく微笑した。その様を目にした宗平は、無意識の内に片手を左胸の辺りに当てた。
つづく
(だいたい、王女様は魔法の使い道について証言を拒否しておいて、何でこんな形で出て来たんだ? よっぽど怪しい)
そんな疑いを抱きながらマギー王女の横顔を盗み見た。途端に、どきっとする宗平。
(チェリーよりも王女様の方が、佐倉にもっと似ている。性格は、どちらかというとチェリーの方が近いみたいだけど、まあ、王女様とは会ったばかりだから分からない。何にしたって、佐倉と同じ顔の人には容疑を掛けづらいぞ)
参ったなと密かに頭をかく。と、宗平の目の前で、メイド姿のマギー王女とメインが相次いで立ち止まった。
「着いたけれども、質問の方はもういいかな?」
いつの間にか、目的とした四階の部屋の前まで辿り着いていた。宗平は大きな動作で首を縦に振った。
「もちろん。事件解決が先だもんな。でもって、ここは何の部屋?」
この問いには、メインが扉を見ながら応じた。
「ここは倉庫か物置のようだけれども、鍵が掛かっている。普段から使う物を置いておくとしたら、不便なことだ」
メインは王女に顔を向け、「何か大事な物を仕舞ってあるというような、秘密の事情があるのですか? この部屋に出入りできる者が怪しいのではないかと踏んで、我々はここを調べるつもりでいるのですが」と、どこか諭すような響きをにじませて聞いた。
これに対し王女は、相手の口ぶりから微妙なニュアンスを感じ取ったらしく、ちょっとむくれた。
「秘密でも何でもないのだから、きちんと答えるわ。ここは物置としても使われているけれども、本来の目的は緊急時用の入り口。飛行魔法を使って城へ急行した者が、そのままこの部屋に飛び込めるようになっているの」
「ということは、部屋の窓は開けっぱなしで、ドアの鍵は……?」
「鍵は内側から簡単に開く。それで事足りるでしょ」
「不審者が入り込まないのかな」
宗平が聞くと、マギー王女は首を左右に二度振った。
「許可を与えられた者のみが通れるように、魔法が掛けられています。常識です」
やりこめられてくしゅんとなる宗平だったが、今体験している世界についての常識なんて知らないのは、元から承知の上。この程度でくじけていられない。
「窓から入るのは魔法が必要あのは分かった。当然、記録されると。じゃあ、このドアを出入りできる人間は?」
「……私は把握していない。でも、ここは見た目と違って重要な部屋だから、限られた者しか――」
「あ、失礼。ちょっといいですか」
王女がしゃべっているのをメインが遮った。彼は許可を得ると王女にではなく、宗平に向けて話し掛けた。
「重要度から推して、この部屋が普段、ずっと鍵を掛けたままだったことは明白だ」
「うん」
「そして城の部屋の鍵は全て魔法錠。ということは?」
「あ。ロガーに記録が残るんだ!」
すぽっと抜け落ちていたが、確かにそんな話を聞いたばかりだ。
メインは首肯し、続きを代わって答えた。
「犯行時間帯にこの部屋の鍵が解除され、再び閉められた記録があるんだったら、恐らく僕らにも報告されているはず。実際にはないのだから、この部屋は事件とは無関係」
「そっかぁ。く」
くそっと言いそうになったのだが、我慢した。マルタの注意を思い出していた。
「マギー王女。侍従長の部屋の上の階は、こことあと一つだけでしたね? 五階の部屋も同じように鍵が掛かっているのでしょうか。それから、五階の上、つまり屋上には出られる構造なのかどうかも」
「質問の内容だけ聞いていると、城内の見取り図をこしらえて、よからぬことを考えていそうだわ」
「滅相もない」
「ふふ、冗談です」
王女は愛らしく微笑した。その様を目にした宗平は、無意識の内に片手を左胸の辺りに当てた。
つづく