第223話 専門外でも興味があるのは仕方がない
文字数 2,083文字
(俺もあとで検索してみようっと。その本が図書室にあるとしたら、取り合いになるな。最初っから町の図書館に行った方が早いかな)
メモ書きした内容を再確認しつつ、本を手に入れる算段をする宗平。そんな彼に、佐倉が声を掛けてきた。
「でもまあ、森君にとったらどっちでもいいわよね」
「どっちでもいい? そんなことあるもんかよ。さっきやってくれた技が使われたのなら、おまえ、じゃないや、チェリーが犯人になるけれども、別の方法でコイン型の毒が天井に張り付けられるんだとしたら、またやり直しになっちまうじゃん」
「けど、夢の中に出て来たチェリーは元々、マジックが得意なんでしょう?」
「あ、ああ」
「だったら問題ないじゃない。チェリーはきっと、水原さんが小説で読んで知ったのと同じやり方もマスターしていたのよ」
「……そう言われてみれば……」
何となく変な気もする。だいいち、夢の中の登場人物であるチェリーとそっくりな佐倉が言うと、彼女自身が自らを追い詰めているみたいで、おかしな感覚に囚われる。
「推理の結論は変わらない気もしてきた」
「でしょ」
白い歯を覗かせた佐倉は、知らない内に宗平をどぎまぎさせたあと、他のメンバーに向けて言った。
「ひとまず、この夢の中の事件については決着っていうことにしていい?」
「うん、まあいいんじゃない」
「別の方法があるというのは気になるけれども、結論が同じなら」
「なし崩しな感じはありますが、森君の夢の中の話故、新たに尋問するわけにも行きませんしね」
「だいいち、奇術サークルだもんねえ、ここ」
という風に程度の差こそあったものの、全員が賛成の意向を表した。
「改めて聞くけど森君は?」
くるっと、髪をなびかせて再び向き直る佐倉。
「これで一人だけ反対できるわけないだろ。それに、俺だって新しいマジックは知りたいし、身に付けたいし」
「そんな投げやりにならなくても、続けたかったらこう言えばいいじゃないかしら」
水原が椅子に座り直しながら口を開く。
「『夢の続きを見た。チェリーに質問したら、そんな奇術は知らないと言っていた』と、こういう場面があったことにすれば、まだまだ事件は解決しないままだから続けられるわ」
なかなか悪知恵が働くな~、お見それしましたと頭の中ではとても感心しつつ、表向きは首を左右に振った宗平。
「嘘をつくのは気が進まないけど、アイディアは悪くないな。けど、続けたくてももうこれ以上、トリックが多分思い浮かばねー」
お手上げのポーズを付け加える。それから佐倉に軽く頭を下げた。
「その、悪かったな」
「うん? 何が」
「おまえのサークルの貴重な時間を長々と使わせてもらって。やりたいことの計画っていうか日程、ずれまくっただろ?」
「なーんだ。そんなこと。いきなり謝るからびっくりしちゃったじゃないの」
小首を傾げてきょとんとしていたのが転じて、けらけら笑った。
「予定はあってないようなものだから、そうでもない。マジックが身に付くスピードなんて、予測できないんだからね。それに、みんなには言ってなかったっけ? 私自身、種明かしできるマジックの数には限界があるから、あんまり早く進みすぎるのも困るなあって思ってたの」
「じゃあ、俺みたいなのがいて、ちょうどよかったってか?」
「ちょうどよかったって言うのはちょっと違うわ。元々、マジックの他にも色んなことをやるつもりで作ったサークルでしょ。目的にかなった活動ができていいじゃないって思ってる」
「そういうことなら……」
改めてほっとする宗平だったが、ふと、水原のことが頭に浮かんだ。
「じゃあ、俺は本当はパズルについて取り上げる方がよかったとか? こういう推理小説っぽいことは水原さんの専門……」
「言われてみればその通りだわ」
水原は二、三度、首を縦に振った。
「次にミステリについてサークル活動でやってもらうには、間を置かないといけない感じ?」
「……悪い」
宗平は頭を垂れた。今日は主役になるはずが、後半になって謝ってばかりだ。
「別に怒ってはいないから。でも、どうしてもお詫びがしたいっていうのなら、森君の思い付いたトリック、使わせてもらうことで勘弁してあげる」
「何でそうなるんだよ。てか、俺の思い付いたトリックって、毒をマジックの技で天井に貼り付ける? 使い物になるのかいな、現実に」
「現実にじゃなくて、現実の推理小説で、よ。貼り付ける場所は天井じゃなくなるだろうし、貼り付ける物も毒とかじゃなく、がらっと形を変えることになると思うけれど」
「だったら許可を出すのは佐倉さんじゃん」
佐倉の方を見ると、残り時間で何ができるかを考えていたらしく、ほとんど聞いていないようだった。水原がひときわ声を大きくして呼び掛けた。
「ねえ、佐倉さん。ついでだから聞いておきたいことがあるんだけれど、いい?」
「――え? あ、いいよ。もう今日はずっと推理小説の話で行きましょ」
* *
つづく
メモ書きした内容を再確認しつつ、本を手に入れる算段をする宗平。そんな彼に、佐倉が声を掛けてきた。
「でもまあ、森君にとったらどっちでもいいわよね」
「どっちでもいい? そんなことあるもんかよ。さっきやってくれた技が使われたのなら、おまえ、じゃないや、チェリーが犯人になるけれども、別の方法でコイン型の毒が天井に張り付けられるんだとしたら、またやり直しになっちまうじゃん」
「けど、夢の中に出て来たチェリーは元々、マジックが得意なんでしょう?」
「あ、ああ」
「だったら問題ないじゃない。チェリーはきっと、水原さんが小説で読んで知ったのと同じやり方もマスターしていたのよ」
「……そう言われてみれば……」
何となく変な気もする。だいいち、夢の中の登場人物であるチェリーとそっくりな佐倉が言うと、彼女自身が自らを追い詰めているみたいで、おかしな感覚に囚われる。
「推理の結論は変わらない気もしてきた」
「でしょ」
白い歯を覗かせた佐倉は、知らない内に宗平をどぎまぎさせたあと、他のメンバーに向けて言った。
「ひとまず、この夢の中の事件については決着っていうことにしていい?」
「うん、まあいいんじゃない」
「別の方法があるというのは気になるけれども、結論が同じなら」
「なし崩しな感じはありますが、森君の夢の中の話故、新たに尋問するわけにも行きませんしね」
「だいいち、奇術サークルだもんねえ、ここ」
という風に程度の差こそあったものの、全員が賛成の意向を表した。
「改めて聞くけど森君は?」
くるっと、髪をなびかせて再び向き直る佐倉。
「これで一人だけ反対できるわけないだろ。それに、俺だって新しいマジックは知りたいし、身に付けたいし」
「そんな投げやりにならなくても、続けたかったらこう言えばいいじゃないかしら」
水原が椅子に座り直しながら口を開く。
「『夢の続きを見た。チェリーに質問したら、そんな奇術は知らないと言っていた』と、こういう場面があったことにすれば、まだまだ事件は解決しないままだから続けられるわ」
なかなか悪知恵が働くな~、お見それしましたと頭の中ではとても感心しつつ、表向きは首を左右に振った宗平。
「嘘をつくのは気が進まないけど、アイディアは悪くないな。けど、続けたくてももうこれ以上、トリックが多分思い浮かばねー」
お手上げのポーズを付け加える。それから佐倉に軽く頭を下げた。
「その、悪かったな」
「うん? 何が」
「おまえのサークルの貴重な時間を長々と使わせてもらって。やりたいことの計画っていうか日程、ずれまくっただろ?」
「なーんだ。そんなこと。いきなり謝るからびっくりしちゃったじゃないの」
小首を傾げてきょとんとしていたのが転じて、けらけら笑った。
「予定はあってないようなものだから、そうでもない。マジックが身に付くスピードなんて、予測できないんだからね。それに、みんなには言ってなかったっけ? 私自身、種明かしできるマジックの数には限界があるから、あんまり早く進みすぎるのも困るなあって思ってたの」
「じゃあ、俺みたいなのがいて、ちょうどよかったってか?」
「ちょうどよかったって言うのはちょっと違うわ。元々、マジックの他にも色んなことをやるつもりで作ったサークルでしょ。目的にかなった活動ができていいじゃないって思ってる」
「そういうことなら……」
改めてほっとする宗平だったが、ふと、水原のことが頭に浮かんだ。
「じゃあ、俺は本当はパズルについて取り上げる方がよかったとか? こういう推理小説っぽいことは水原さんの専門……」
「言われてみればその通りだわ」
水原は二、三度、首を縦に振った。
「次にミステリについてサークル活動でやってもらうには、間を置かないといけない感じ?」
「……悪い」
宗平は頭を垂れた。今日は主役になるはずが、後半になって謝ってばかりだ。
「別に怒ってはいないから。でも、どうしてもお詫びがしたいっていうのなら、森君の思い付いたトリック、使わせてもらうことで勘弁してあげる」
「何でそうなるんだよ。てか、俺の思い付いたトリックって、毒をマジックの技で天井に貼り付ける? 使い物になるのかいな、現実に」
「現実にじゃなくて、現実の推理小説で、よ。貼り付ける場所は天井じゃなくなるだろうし、貼り付ける物も毒とかじゃなく、がらっと形を変えることになると思うけれど」
「だったら許可を出すのは佐倉さんじゃん」
佐倉の方を見ると、残り時間で何ができるかを考えていたらしく、ほとんど聞いていないようだった。水原がひときわ声を大きくして呼び掛けた。
「ねえ、佐倉さん。ついでだから聞いておきたいことがあるんだけれど、いい?」
「――え? あ、いいよ。もう今日はずっと推理小説の話で行きましょ」
* *
つづく