第１３３話　仲よきことは

　かみついてきそうな勢いで問われ、メインも宗平も思わずのけぞった。苦笑と、それ以上の困惑を顔に浮かべて、宗平が答える。
「マギー王女様自身がメイドの格好をして現れたんだ。俺達ががんばってるのを見たせいか、割と色々しゃべってくれたよ」
　と、ありのままを伝えた。瓜二つのチェリーに向けて話していると、どこかしら妙な心地になったが、気にしないでおこうと努める。チェリー自身がマギー王女にどんな感情を抱いているのか、全然見えていないからだ。
「それでは、ねえさ――マギー王女への嫌疑は晴れたのね」
　宗平の方で避けていても、チェリー自身が王女の話を持ち出した。そのこぼれるような笑みの表情から、姉妹仲が決して悪くないことが窺われる。たったこれだけで、別に気に病む必要なかったじゃんと思えるくらいに、喜びにあふれている。
「百パーセント完全に晴れた、と言い切るのは早すぎる気がするけれど、魔法の使い道が分かったし、証言に不自然な箇所は見当たらなかったからってことで」
「それなら早いとこ、次の段階に進みましょうよ」
　宗平が話を続けたことにより、何となくチェリーの方が宗平のパートナーみたいになっている。
　そのことを知ってか知らずか、メインはこほんと咳払いをし、割って入る。
「次の段階というのなら、他の二人の容疑者にも早く会って、話を聞きたいね」
「そのことなんですが」
　間が悪いというか、今度答えるのはマルタ。
「先ほどまでの調査の最中、二人がひそひそ話をしている場面を目撃したのです」
「二人って？」
　宗平は肩越しに振り向いて、マルタに尋ねた。
「決まっています。イルゲン・フィリポとジュディ・カークランです」
　何が「決まっている」のか分かりにくかったけど、宗平を驚かせるには充分な目撃証言だった。驚いたのはメインも似たり寄ったりで、目を丸くし、口はアルファベットのオーの字になっている。
「それはまた意外というか、解決を見ない内に怪しげな行動を取るもんだなあ。もちろん、容疑者扱いされている者同士で情報交換したとも考えられるけど」
「そもそも、普段なら馭者と秘書の人って、会うもんなのかな？」
　宗平の質問にマルタが応じる。やれやれ世話が焼けるといった体で。
「普通はありません。馬車を前回利用した際に何らかの不都合や不手際、改善点が見付かった場合、注意や要望の形で接触することはあり得ますが、それとてウッズ政務官がフィリポの操る馬車に乗ることは滅多にないので、希であると言えます」
「ふうん、ありがとう。だったらすぐさま聞きに行こう。できたら話をしているとこを押さえたい」
「うん、警戒されて口が堅くなるかもしれないが、仕方がないかな」
　マルタとチェリーの先導で、二人の探偵師はジュディとフィリポの内緒話する姿が見られたという地点へ向かう。城の裏庭と呼ぶべきスペースで、人通りがない訳ではないが、花や樹木が多く植えられていることもあり、目隠しには事欠かない。
　走った甲斐あってか、ジュディとフィリポが相次いで裏庭から屋根の下に戻ろうとするところを捉えることができた。
「お話を」
　さすがに息が切れた様子で、短く告げたメイン。チェリーが補足する形で、「こちらは民間から選抜されて探偵師を務めるシュール・メイン氏です」と簡単に説明した。宗平の方は紹介されないままだが、宗平、つまりはモリ探偵師の方は元々衛士として城勤めしている訳だから、ジュディとフィリポ両名と面識があってもおかしくない。
　対する容疑者二人の内、ジュディ・カークランの方は、散歩から戻って来たという風な自然体で「何か？」と首をかしげ、足を止めた。対照的にイルゲン・フィリポは、表情が傍目にも強張り、かかとを合わせて気を付けの姿勢を取った。

　つづく