第49話 作戦
文字数 1,995文字
それとも言い出せないくらい、六年生の人達って怖い存在なんだろうか。凄く弁が立つ人達で、理詰めで責め立てられそうな印象はあるよね、確かに。
何とかしたい。せめて、水原さんの気持ちを確かめたい。そんな風に思ったとき、教室のドアが大きな音を立てて開けられた。
「や、遅くなってすまん」
相田先生が来た。
「ねえねえ、こんなのはどうかな」
翌日の水曜日、昼休みにつちりんが教室までやって来て、言った。
前振りも何もなかったので、私達――私と陽子ちゃん、不知火さん――はお互いの顔を見合わせてきょとん状態になった。
「つちりん、な、何の話かな?」
「今、水原さんいないよね?」
「この時間は、図書室に行くことが多いよ。多分、今もそうじゃないかな」
陽子ちゃんが答える。
「水原さんのことで、何か思い付いたってわけだ?」
「そうなの。水原さんを占うのってどうかと思って」
「占い?」
まだよく分からない。
「占いなら、相手の考えていることを聞き出せるし、うまくすれば、文芸クラブを抜けてこっちに来る決心を後押しできると思うんだ」
「ああ、そういう」
「すみませんが私は反対させてもらいます」
いち早く表明したのは不知火さん。あまりの早さに、つちりんが不服そうに頬を膨らませた。
「えー、何で?」
「気持ちを確かめるだけならまだしも、占い師の狙い通りに事を運ぼうという点に、賛成できない。それだけです」
「うーん。そうはっきり言われると弱いよ~」
つちりん、意外にも反論しない。元々、ファッション感覚で占いなどをやっているせいかしら。占いやオカルト等のいいところも悪いところも分かっている節がある。
さっきまで咲き誇っていた花が、一気にしおれたみたいになった。そんなつちりんを前に、不知火さんもきっぱり言いすぎたと感じたのか、「でも」と続けた。
「気持ちを確かめるというのは、ありだと思います。水原さんが言い出しにくい状況にあるとしたら、占いは格好のツールと言えます」
「だよね。よかった」
あからさまにほっとするつちりんに、今度は陽子ちゃんが意見を述べる。
「その場合、つちりんがやるの?」
「うん。他にもっと上手くできる人がいるなら、交代するけど」
「あ、そういう意味ではなくてさ。私達サークルの誰かがやると、狙いに気付かれて、本心を言いづらくなる可能性はないのかなって」
「ああ、そっか」
奇術サークルのつちりんが効いたからこそ、正直に言ってくれる可能性もあると思う。というか、もしそうなら、占いの形を取らなくても言ってくれそうだけどね。
そんな風にして四人で額を寄せ合って考えていると、上の方から「ふっふっふ」と変な声が聞こえてきた。
見上げると、森君が腰のサイドに両手首を当て、したり顔で頷いている。
「話は聞かせてもらった」
「お芝居に付き合ってる暇はないんだけどな」
陽子ちゃんが突き放すように言うと、森君は「俺も会員なんだから、意見ぐらい聞けよっ」と返す。私はすかさず言った。
「聞く聞く。名案があるっぽいし」
「あー、名案てほどでもないんだが」
がくっとくるようなこと言わないでよ。こっちは折角フォローに回ってあげたんだからね!
「簡単に言うとだな、奇術サークルとは無関係な男子が占いを趣味にしてるって、水原さんの周りで噂を流せばいいんじゃねえかってこと」
「たとえば誰が」
「水原さんが興味を持ちそうな男子となると……内藤? 委員長ぐらいしかいないか」
「悪くないかも」
陽子ちゃんが即座に反応した。声を潜めて話を続ける。
「私が知る限り、彼女が認めてる男子はほんと、内藤君だけよ」
「それって、水原さんが内藤君のことを好きって意味?」
興味津々なのを隠そうともしないつちりん。まあ、私も気になるけど。
「認めてるってだけで、レンアイの好きと同じかどうかは不明。内藤君に頼んで、水原さんの心配をしてるてことにすればいいかもね」
「それはさっきとは別の意味で、異議を唱えたくなります。何故なら」
不知火さんが顔をしかめる。皆まで言わさず、陽子ちゃんが言葉を被せて来た。
「いいからいいから。固いこと言わないの。委員長が水原さんの心配をしてるのは事実よ」
「本当ですか」
「私の地獄耳、情報網を信じなさい」
「……そんな情報網があるんでしたら、水原さんが入会する意志を持っているかどうかを突き止めてほしいものですが」
訝る不知火さんだけど、深くは追及しなかった。
陽子ちゃんは胸を叩いて、強く請け負った。
「人に対する好意は、他の感情とはまた別。隠しても色に出でけりってやつよ。隠しておきたいけど、相手に知って欲しいという気持ちがあるからね、きっと」
そんなわけで、作戦が決まった。内藤君にとってはいい迷惑かもしれないけれども。
つづく
何とかしたい。せめて、水原さんの気持ちを確かめたい。そんな風に思ったとき、教室のドアが大きな音を立てて開けられた。
「や、遅くなってすまん」
相田先生が来た。
「ねえねえ、こんなのはどうかな」
翌日の水曜日、昼休みにつちりんが教室までやって来て、言った。
前振りも何もなかったので、私達――私と陽子ちゃん、不知火さん――はお互いの顔を見合わせてきょとん状態になった。
「つちりん、な、何の話かな?」
「今、水原さんいないよね?」
「この時間は、図書室に行くことが多いよ。多分、今もそうじゃないかな」
陽子ちゃんが答える。
「水原さんのことで、何か思い付いたってわけだ?」
「そうなの。水原さんを占うのってどうかと思って」
「占い?」
まだよく分からない。
「占いなら、相手の考えていることを聞き出せるし、うまくすれば、文芸クラブを抜けてこっちに来る決心を後押しできると思うんだ」
「ああ、そういう」
「すみませんが私は反対させてもらいます」
いち早く表明したのは不知火さん。あまりの早さに、つちりんが不服そうに頬を膨らませた。
「えー、何で?」
「気持ちを確かめるだけならまだしも、占い師の狙い通りに事を運ぼうという点に、賛成できない。それだけです」
「うーん。そうはっきり言われると弱いよ~」
つちりん、意外にも反論しない。元々、ファッション感覚で占いなどをやっているせいかしら。占いやオカルト等のいいところも悪いところも分かっている節がある。
さっきまで咲き誇っていた花が、一気にしおれたみたいになった。そんなつちりんを前に、不知火さんもきっぱり言いすぎたと感じたのか、「でも」と続けた。
「気持ちを確かめるというのは、ありだと思います。水原さんが言い出しにくい状況にあるとしたら、占いは格好のツールと言えます」
「だよね。よかった」
あからさまにほっとするつちりんに、今度は陽子ちゃんが意見を述べる。
「その場合、つちりんがやるの?」
「うん。他にもっと上手くできる人がいるなら、交代するけど」
「あ、そういう意味ではなくてさ。私達サークルの誰かがやると、狙いに気付かれて、本心を言いづらくなる可能性はないのかなって」
「ああ、そっか」
奇術サークルのつちりんが効いたからこそ、正直に言ってくれる可能性もあると思う。というか、もしそうなら、占いの形を取らなくても言ってくれそうだけどね。
そんな風にして四人で額を寄せ合って考えていると、上の方から「ふっふっふ」と変な声が聞こえてきた。
見上げると、森君が腰のサイドに両手首を当て、したり顔で頷いている。
「話は聞かせてもらった」
「お芝居に付き合ってる暇はないんだけどな」
陽子ちゃんが突き放すように言うと、森君は「俺も会員なんだから、意見ぐらい聞けよっ」と返す。私はすかさず言った。
「聞く聞く。名案があるっぽいし」
「あー、名案てほどでもないんだが」
がくっとくるようなこと言わないでよ。こっちは折角フォローに回ってあげたんだからね!
「簡単に言うとだな、奇術サークルとは無関係な男子が占いを趣味にしてるって、水原さんの周りで噂を流せばいいんじゃねえかってこと」
「たとえば誰が」
「水原さんが興味を持ちそうな男子となると……内藤? 委員長ぐらいしかいないか」
「悪くないかも」
陽子ちゃんが即座に反応した。声を潜めて話を続ける。
「私が知る限り、彼女が認めてる男子はほんと、内藤君だけよ」
「それって、水原さんが内藤君のことを好きって意味?」
興味津々なのを隠そうともしないつちりん。まあ、私も気になるけど。
「認めてるってだけで、レンアイの好きと同じかどうかは不明。内藤君に頼んで、水原さんの心配をしてるてことにすればいいかもね」
「それはさっきとは別の意味で、異議を唱えたくなります。何故なら」
不知火さんが顔をしかめる。皆まで言わさず、陽子ちゃんが言葉を被せて来た。
「いいからいいから。固いこと言わないの。委員長が水原さんの心配をしてるのは事実よ」
「本当ですか」
「私の地獄耳、情報網を信じなさい」
「……そんな情報網があるんでしたら、水原さんが入会する意志を持っているかどうかを突き止めてほしいものですが」
訝る不知火さんだけど、深くは追及しなかった。
陽子ちゃんは胸を叩いて、強く請け負った。
「人に対する好意は、他の感情とはまた別。隠しても色に出でけりってやつよ。隠しておきたいけど、相手に知って欲しいという気持ちがあるからね、きっと」
そんなわけで、作戦が決まった。内藤君にとってはいい迷惑かもしれないけれども。
つづく