第100話 求む!ワトソン

文字数 1,266文字

 シーラが助手の候補として集めてくれた面々は全員、女だった。
 本当は男もいるのに、
「今度の場合、何事も公平であることが、後顧の憂いを取り除く最善の準備だと思えますので」
 これが理由で、最初から女性に絞ったのだという。その数、十三名。
「……縁起悪くねえ?」
「何の話でしょうか」
「いや、十三て」
「言ってる意味が理解できないのですが、説明を願えます?」
「いや、もういい」
 宗平はさっさとあきらめて、首を横に振った。
(どうやらこの世界では、忌み嫌う不吉な数に十三は入ってないんだな。この分だと、四や九も関係なさそうだ)
 元々持っている常識の通用しない部分があるとなれば、捜査によくない影響が及びそう。宗平はまたも不安に駆られた。
「それなら、なるべく速やかに選んでください」
「わーってるって」
 横並びに列をなす候補者十三人、その年代は様々で、下は宗平と同じくらいの十代、上は多分六十に届いているように見受けられた。そして全員が、宗平の知っている(実際に会ったことのある)顔の持ち主であった。
(母さんやばあちゃんまでいるよ、おい)
 彼女らからは自然と目をそらしてしまう。他の大人の女性にしたって、小学校や幼稚園の先生、親戚、近所のおばさんと、どちらかといえば気後れしがちな人ばかり。
 一人、芸能人が混じっているのにも驚いた。クイズ番組で人気に火が着いた“Qアイドル”、甲斐野栄子(かいのえいこ)だ。愛称はカイン。一度だけ、テレビ局の夏祭り的イベントに行って、会ったことがある。
(カインなら、知識が豊富で助けてくれそう)
 甲斐野栄子の印象からそう考え、即決しようとした。だが、不安がなくはない。
(イベントのとき、裏で答を一生懸命覚えてるの見ちまったんだよなあ。再確認してたっていうレベルじゃなかった)
 当時は今よりもずっと小さく、完全には理解していなかった宗平だが、小学五年生ともなると、テレビの表と裏も段々分かってくる。
(閃きが必要ななぞなぞは得意だけど、論理的なパズルは苦手というキャラクター……あれも本人とどこまで重なってるのか)
 そこを疑うくらいなら、まず、この世界の人達と、元々知っている現実世界の人達とが、顔が同じだからと言って中身も似ている保証はどこにもないのだが。まあ、これまでに接した三人は、程度の差はあるものの、よく知っている不知火遙、佐倉秀明、佐倉萌莉に近いと感じたから、あながち的外れな推量だとも言い切れない。
「となると……」
 呟きを声に出した。宗平の目が一人の同年代の子に向く。列には、つちりんこと土屋善恵のそっくりさんもいた。こちらの世界での彼女は、ずっと大人びていて、髪は長くソバージュが掛かっている。渋い柿色の枯れ葉をデザインしたスカーフを頭に巻き、衣服も同系統で揃えている。ジプシー系の占い師といった雰囲気だ。
(土屋さんが占い得意だから、こっちの人も占いで何でも見通すとか? 魔法があるくらいだから、この世界の占いと言ったらそりゃあ凄いものかも)

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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