第76話 修行はインドの山奥で

文字数 1,395文字

「トランプって本来、切り札という意味だから、厳密にはこれはトランプじゃなく、カードと呼ぶことに統一してもいいんだけど、私自身、トランプと言っちゃうことが多いから、その辺りは適当に」
 持ってきたトランプを示しながら、説明を始める。アンケートは回収を終えて、あとでシュウさんに見せる予定。
「練習しておいてほしいって頼まれたのは、カードさばきの基本で、まずシャッフル。ヒンズーシャッフルはできるよね」
 念のため、皆の顔を見渡す。と、不知火さんが何か言いたげに口元をむずむずさせているのに気がついた。
「不知火さん、何か?」
「え、いえ、本題とは全く関係のないことです」
「いいよ別に。言ってみて」
「……言葉に関する疑問なのですが、何をもってヒンズーなのかなと」
「うん?」
 反応しながら、私は笑顔が強ばるのを自覚した。考えたことなかったなー。ヒンズーシャッフルはなぜヒンズーなのか。ヒンズーって、インド?
 次回の宿題だわと思っていたら、先生が携帯端末を使って、検索してくれた。
「ほほう。東洋、特にインド人マジシャンが好んで使ったシャッフルだから、ヒンズーシャッフルと呼ぶようになったらしい」
 へー。
「俗説っぽい気がするが、それ以上のことは出てこないな。インド人はどうしてこの切り方をするようになったのか、とかも分からん」
「東洋というと、花札でも似た切り方をするよね。関係あるのかな」
 つちりんが言った。確かにそうだ。ただ、トランプ遊びでのヒンズーシャッフルが広まったから花札でもそうなったのか、元々花札であの切り方をしていたから、トランプでも同じ切り方をするようになったのかは分からない。
 って、だめだ、OKを出しておきながら、話が見事に脱線してしまったじゃないの。
「先生、ついでにリフルシャッフルも検索をお願いします」
 話をそらすよりも、どうせこのあとやるのだからと、先生に頼んだ。
「人使いが荒いな。えっと、リフルってのはパラパラと弾くという意味だそうだ。よかったな、こっちは見たまんまの名称だ」
「――だそうです」
 皆の笑いを誘って、とりあえず名称の話はひとまずおしまい。
「リフルシャッフルがどんなものか分からない人がいるかもしれないけれども、見たことはあると思うから、とりあえずやってみるね。『あー、あれか』ってなるはず」
 私はトランプ一組をテーブル――麻雀マットを敷いた――に置き、まずはだいたい半分ずつになるよう上下に分けた。
 次にそれらを裏向きにして左右の手に持ち、角と角の一つを近づけて構えたら、互い違いに重なるように一枚ずつ落としていく。最後まで落としきったら、カードを左右から寄せてアーチ状というかドーム状になるように膨らませる。そこから力を抜くと、カードがきれいに落ちて重なる、というもの。
 文字で説明すると、分かりにくいところもあるかもしれないけれども、多分、日本ではヒンズーシャッフルに次いで有名な切り方だと思う。
 実際、やってみせると「あ、知ってる」という反応があった。
「やったことあるけれど、そんなにきれいにならなかったよ」
 朱美ちゃんが言いながら、自身もやって見せてくれた。言葉の通り、パラパラと落とすべきところではばさっと崩れて、アーチ状になるはずのところでは重なっていたカードがまとめて離れてしまった。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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