第213話 臨時謎解き大会
文字数 2,084文字
「間違えてはいないぞ。誰も解けないような問題は下の下だと思ってるんでな。だからといって、分かり易すぎるのを出そうなんて思うな。判定は先生がする」
そう宣告して、にやりと笑う相田先生。宗平は思わず泣き言を口にした。
「そんな~、ずるい」
「公平に判定するから安心しろ。だいたい、さぼっておいておまえに対して救済のチャンスをやってるんだから、ありがたく思ってくれないとこっちがばからしくなる」
「はーい、ありがたいですぅ。まったく、しょうがないなあ……」
宗平はノートのページを戻って、書き付けて間もないパズルを見下ろした。
(先生を引っ掛けるんだったら、問3が一番だろうな。絶対、ビールにこだわる。ただ、『授業中に小学生がビールのこと考えていたか!』って怒鳴られる可能性、なきにしもあらず。それに正解を出してくれる人がいるかどうか。多分、大丈夫と思うんだけど)
「まだか。あんまり時間取るな~」
「はいはい、分かってるって。もうちょっとだけ待って」
授業の時間を潰しているのだから、先生に睨まれてもしょうがない。それは分かってるのだが、パズルのこととなると妥協はしたくなかった。
(やっぱり、最後のが出来映えではいいよな。このくらいの英語なら、誰だって知ってるだろうし)
「迷うほどたくさんできたのか? しょうがない奴だな。全部言っていいぞ」
「へ?」
「おまえに選ばせる時間がもったいない。三つか四つぐらいなら全部出題してみろ。かまわんぞ」
「あのー、五問あるんですけど」
「五つもあるのか。まあかまわん」
そこまで先生が言うのならと、宗平も肝を据えた。
「第一問。ある人が自己紹介で『自分の名前はサ行のサです。別の言い方をするとナ行のナでもあります』と言った。ずばり、名前は何?」
似たようなのを聞いた覚えある、という声がそこかしこで上がった。予想通りであるから宗平に焦りはない。むしろ解いてくれないと困る。
「そういう問題なら、先生も聞いたことあるな。あれに当てはめていいのなら……答は横田か」
「ピンポーン。相田先生、正解。ちなみに理由も教えてください」
「サ行のサもナ行のナも、タ行のタの横にある。タの横だから横田、だろ」
「大正解」
答の分かっていなかったクラスメートから「なんだー」という声と「なるほど」という声が半々ぐらいに聞こえた。
「悪くない問題だったぞ。次、行こうか」
「第二問。パソコン、ラジコン、ミスコン、大根、エアコン、糸こんの中で仲間外れを一つ選ぶとしたらどれ?」
今度は先生もすぐには答えられない。何と、“パソコン、ラジコン、ミスコン、大根、エアコン、糸こん”と板書した。
「字はこれで合っているか?」
「う、うん」
「この中で仲間外れか」
「ミスコンは世の中からなくなっていってるみたいだけど」
女子の一人の声がした。なるほど、そういう見方もあるなあと少し感心した。
「ミスコンが間際らしいんだったら、なしにする。残りの五つから仲間外れはなーんだ?」
「……食べ物と機械に分けられるけれども、2対3でそれ以下にならない……」
「ギブアップ? 誰も答えられないと、俺の立場がまずくなるんだけど」
苦笑いの上に冷や汗をかく宗平。と、ここで女子が手を挙げた。同じ奇術サークルからの救いの手だ。
「私でよければ」
(不知火さん~。頼むよ、おい)
心の中で念じつつ、うんうんと首を縦に振った宗平。正式には、先生が不知火を当てた。
「よし、答えてみて」
「答は大根だと思われます。根拠は、大根以外の言葉は、ミスコンも含めてすべて略語です」
「お? ……パーソナルコンピュータ、ラジオコントローラー、ミスコンテスト、エアーコンディショナー、糸こんにゃく。おお、なるほどなっ。どうだ正解か?」
「ピンポン、だよ」
宗平は心中、胸をなで下ろしていた。正解者の出ない問題が一つくらいあっても大丈夫とは思うけれども、二問目で躓かれていたら焦る。
「次のは、まず先生に答えてもらいたいんだけど」
「いいぞ」
「第三問。キリンにあってゾウにない オリオンにあってシーザーにない おとめにあってえびすにない。これなーんだ?」
「なーんだって、そりゃおまえ、ビー……ルじゃないようだな」
答える途中で気が付いたらしい。最後の文章が「えびすにあっておとめにない」だったら答はビールになるだろう。それこそが引っ掛けポイントだ。
「分からん……うーむ」
「クラス全体では多分、分かる人もいると思うけど、実は次の第四問と同じだから、ついでに出すよ」
「どういうことだ?」
「答が同じになる問題を、別に作ったんです。第四問。えーっと、先生、ありなしを読み上げるから、黒板に書いてよ」
「しょうがないな」
相田先生が準備できたのを見て取り、宗平はしゃべり出した。第三問の分もあわせて、先生の板書は次のようになった。
あり:キリン オリオン おとめ 顕微鏡 コンパス コップ
なし:ゾウ シーザー えびす 双眼鏡 ホッチキス ビーカー
つづく
そう宣告して、にやりと笑う相田先生。宗平は思わず泣き言を口にした。
「そんな~、ずるい」
「公平に判定するから安心しろ。だいたい、さぼっておいておまえに対して救済のチャンスをやってるんだから、ありがたく思ってくれないとこっちがばからしくなる」
「はーい、ありがたいですぅ。まったく、しょうがないなあ……」
宗平はノートのページを戻って、書き付けて間もないパズルを見下ろした。
(先生を引っ掛けるんだったら、問3が一番だろうな。絶対、ビールにこだわる。ただ、『授業中に小学生がビールのこと考えていたか!』って怒鳴られる可能性、なきにしもあらず。それに正解を出してくれる人がいるかどうか。多分、大丈夫と思うんだけど)
「まだか。あんまり時間取るな~」
「はいはい、分かってるって。もうちょっとだけ待って」
授業の時間を潰しているのだから、先生に睨まれてもしょうがない。それは分かってるのだが、パズルのこととなると妥協はしたくなかった。
(やっぱり、最後のが出来映えではいいよな。このくらいの英語なら、誰だって知ってるだろうし)
「迷うほどたくさんできたのか? しょうがない奴だな。全部言っていいぞ」
「へ?」
「おまえに選ばせる時間がもったいない。三つか四つぐらいなら全部出題してみろ。かまわんぞ」
「あのー、五問あるんですけど」
「五つもあるのか。まあかまわん」
そこまで先生が言うのならと、宗平も肝を据えた。
「第一問。ある人が自己紹介で『自分の名前はサ行のサです。別の言い方をするとナ行のナでもあります』と言った。ずばり、名前は何?」
似たようなのを聞いた覚えある、という声がそこかしこで上がった。予想通りであるから宗平に焦りはない。むしろ解いてくれないと困る。
「そういう問題なら、先生も聞いたことあるな。あれに当てはめていいのなら……答は横田か」
「ピンポーン。相田先生、正解。ちなみに理由も教えてください」
「サ行のサもナ行のナも、タ行のタの横にある。タの横だから横田、だろ」
「大正解」
答の分かっていなかったクラスメートから「なんだー」という声と「なるほど」という声が半々ぐらいに聞こえた。
「悪くない問題だったぞ。次、行こうか」
「第二問。パソコン、ラジコン、ミスコン、大根、エアコン、糸こんの中で仲間外れを一つ選ぶとしたらどれ?」
今度は先生もすぐには答えられない。何と、“パソコン、ラジコン、ミスコン、大根、エアコン、糸こん”と板書した。
「字はこれで合っているか?」
「う、うん」
「この中で仲間外れか」
「ミスコンは世の中からなくなっていってるみたいだけど」
女子の一人の声がした。なるほど、そういう見方もあるなあと少し感心した。
「ミスコンが間際らしいんだったら、なしにする。残りの五つから仲間外れはなーんだ?」
「……食べ物と機械に分けられるけれども、2対3でそれ以下にならない……」
「ギブアップ? 誰も答えられないと、俺の立場がまずくなるんだけど」
苦笑いの上に冷や汗をかく宗平。と、ここで女子が手を挙げた。同じ奇術サークルからの救いの手だ。
「私でよければ」
(不知火さん~。頼むよ、おい)
心の中で念じつつ、うんうんと首を縦に振った宗平。正式には、先生が不知火を当てた。
「よし、答えてみて」
「答は大根だと思われます。根拠は、大根以外の言葉は、ミスコンも含めてすべて略語です」
「お? ……パーソナルコンピュータ、ラジオコントローラー、ミスコンテスト、エアーコンディショナー、糸こんにゃく。おお、なるほどなっ。どうだ正解か?」
「ピンポン、だよ」
宗平は心中、胸をなで下ろしていた。正解者の出ない問題が一つくらいあっても大丈夫とは思うけれども、二問目で躓かれていたら焦る。
「次のは、まず先生に答えてもらいたいんだけど」
「いいぞ」
「第三問。キリンにあってゾウにない オリオンにあってシーザーにない おとめにあってえびすにない。これなーんだ?」
「なーんだって、そりゃおまえ、ビー……ルじゃないようだな」
答える途中で気が付いたらしい。最後の文章が「えびすにあっておとめにない」だったら答はビールになるだろう。それこそが引っ掛けポイントだ。
「分からん……うーむ」
「クラス全体では多分、分かる人もいると思うけど、実は次の第四問と同じだから、ついでに出すよ」
「どういうことだ?」
「答が同じになる問題を、別に作ったんです。第四問。えーっと、先生、ありなしを読み上げるから、黒板に書いてよ」
「しょうがないな」
相田先生が準備できたのを見て取り、宗平はしゃべり出した。第三問の分もあわせて、先生の板書は次のようになった。
あり:キリン オリオン おとめ 顕微鏡 コンパス コップ
なし:ゾウ シーザー えびす 双眼鏡 ホッチキス ビーカー
つづく