第91話 いつの間に?

文字数 1,262文字

 どういった理屈から、人がこの辺りにいると宗平は判断を下したのか?
 蛇は頭の方から測って四分の一ぐらいの辺りで、切断されているのが見て取れた。地面にうっすら残る痕跡から、金属製の平べったい物で押し切ったように思える。人間が道具を用いてやったのは間違いようのない事実だと言える。
 どうしてこんな状況に自分が置かれているのかはさっぱり分からないものの、他に人がいるのなら、多少は気が休まる。
(これを食べてないってことは、その人は遭難しているとかじゃなく、普通に蛇退治したことになる、多分。ここは通り道なのかな?)
 そう思って目を凝らすと、ぼんやりとではあるが獣道っぽいルートがあるようなないような。
(これに沿ってどちらかに行けば、人に会える?)
 問題はどちらを目指すかだが。
 より一層目を凝らしてみて、靴跡でも見付からないかと思ったが、無理だった。へこみはいくつかあるが、丸っこいばかりで人間の足跡かどうか判然としない上に、向きも不明。
(俺、冴えてる!と思ったのもここまでかー。こんな森に来た覚えは人だけど、迷子だの行方不明だのは勘弁)
 自力で脱出すべく、もうちょっとがんばって頭を働かせてみよう。
(その人は蛇をやっつけた道具を持っていた。長い柄の先っぽに金属を取り付けた道具だとしたら、普段歩くときは杖代わりに、手で持つ側を下向きに、地面を突きながらになるんじゃないか)
 その閃きに従い、再々度、道らしき長いくぼみを凝視する。やがて、道からは若干離れたところに、直径が約二センチの丸い跡がぽつん、ぽつんとほぼ一定の間隔――大人の歩幅よりはやや長め――を空けて、続いていた。
 これが杖代わりに使った痕跡だとしたら、穴のへこみ具合で前後は分かるかも。
 果たして、宗平の立っている位置から見て小さな穴はどれも向かって右側がより深くへこんでいた。
(これは! 右が進行方向じゃないか?)
 体重を掛けて歩くとすれば、前側により多くの力が加わるはず。
 ある程度の確信は持てたものの、気掛かりも残った。それはすなわち、結構日にちが経っているんじゃないかってこと。
(生き物の肉って、死んでからどのくらいでここまで腐るんだろう。一日か二日? 一週間てことはないと思うけど、でも気温とか水分とか絶対関係してるだろうな。ここ、寒くはないけど、日が当たってない)
 と、ここまで考えて、気が付く。考えても仕方がないことまで考えていた、と。
 生き物の死骸が腐臭を放つようになるまでの時間は、条件によって異なるに決まっている。条件は知りようがない。そもそも何日経っていようが関係ない。人がいるであろう方向に歩いて行くだけだ。
 飲み物も食べ物も持ってない、武器や防具もなしというのは不安だったが、じっとしていても始まらない。覗き見える太陽の感じから、きっと今はちょうど正午頃。少なくとも四時間は明るいだろう。
 宗平が意を決して右の方角に進路を取ったその刹那――。
「はい、合格」
 女の声が耳に届いた。

 つづく

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み