第148話 後ろ盾あれこれ
文字数 1,624文字
「仮にそうだとして、どんなトレーニングが有効だとお考えなんでしょう?」
不知火さんが重ねて聞く。相田先生はたじたじになりながらも、きちんと答えようとしてくれる。
「難しい質問が続くな、おい。ま、常識を剥がすことかな。脳に新鮮な体験による刺激を当たることは、少なくとも脳に悪くはないと思うぞ。先生はその道の研究者でも何でもないから、ただの願望込みの感想だけどな」
「ということは、マジックも、いいですよね」
不知火さんが言った。そっか。その言葉を引き出したかったのかしら。
「ああ、もちろんだとも。マジックだけでなく、森のやっているパズルもいいな。水原の推理小説も、不知火、おまえさんの言葉遊びもいいんじゃないかと思う」
「ありがとうございました。――だそうですよ、佐倉さん。これで自信が持てるのではありませんか」
にこっと微笑みかけてくる不知火さん。私も思わず顔がほころぶのが分かった。
「うん。ただ、お墨付きをもらえたのはいいんだけど、マジックも推理小説もいいということは、結局、悩みは解消しないんだよねぇ」
家に帰ってから、宿題とかご飯とかが片付いたあと、クラブ(サークル)活動についての考えを改めてまとめてみようと思った。
とりあえずの方針として、金曜日のコマはマジックに絞ろう。ここでいうマジックは狭い意味、つまり手品や奇術という意味でのマジックね。サークルを作った本来の目的を忘れちゃいけない。
一方、火曜日はどうするかというと。
基本的には、やっぱりマジックをするべきだけど、チャンスがあれば、マジックに役に立ちそうな他のことなんかも積極的に取り入れてみたい。ただ、何でもかんでも取り入れてしまえるのは、先生にしても私自身も示しが付かない気がする。基準を設けておきたいな。
そんな風なことを考え、頭を捻っていると、電話が掛かってきた。シュウさんからだった。
「シュウさん? 久しぶりな気がするんだけど。私達、忘れられたんじゃないよね?」
「ごめんごめん。もっと早くに連絡を入れるつもりでいたんだけど、メールなんかだと文章を考えるのがおっくうに感じてしまって、つい。電話もタイミングがなかなかね」
「えっ、忙しいの?」
不安に駆られ、受話器を両手で持ち直した。教えてもらうっていう話、なくなったりしない?
「イレギュラーな用事や約束が入ることはあるけど、大丈夫。基本的に火曜日がいいって言ってたよね? だからまずは来週の火曜日、正式に参加させてもらおうと思う」
「それは教えてくれるっていう意味?」
「もちろん。あとそ――」
「やったー!」
シュウさんが言葉を続けるのが耳に届いたけれど、喜びを止められなかった。思わず、万歳。多分、シュウさんからは私の声が遠ざかって聞こえたわよね。いやでもその分ボリュームが大きくなったから、差し引きゼロかしら。
「ありがとう、シュウさん!」
「はいはい。驚いた。前から決まっていた約束を果たすってだけで、そこまで感謝されるなんて」
「だって、ほんとに嬉しいんだもん。それで、何か言い掛けてみたいだったけれども」
「ああ。火曜日に出る前に、金曜日のクラブ授業にも顔を出したいと思ってる」
「え、じゃあ、その日からにしてくれてもいいのに」
「残念なことに、僕の方の学校の都合で、その日はどうしても遅れそうなんだ。三十分近く。というかここからが本題になる。金曜日は基本的に遅くなる気配が濃厚なんだよね。授業のコマ割りのせいなんだけど」
「ふうん。分かった。全然かまわないから。もしシュウさんがいいんだったら、金曜日の途中からでもぜひ来てほしいくらい」
「僕もそうするよ。たとえば僕ら二人であらかじめ演目やテーマを決めておいて、前半は萌莉が実演して、後半は僕が種明かしを含めた解説をする、なんてこともできなくはないと思うしね」
魅力的な提案に思えた。ただ、不安もあるなあ。
つづく
不知火さんが重ねて聞く。相田先生はたじたじになりながらも、きちんと答えようとしてくれる。
「難しい質問が続くな、おい。ま、常識を剥がすことかな。脳に新鮮な体験による刺激を当たることは、少なくとも脳に悪くはないと思うぞ。先生はその道の研究者でも何でもないから、ただの願望込みの感想だけどな」
「ということは、マジックも、いいですよね」
不知火さんが言った。そっか。その言葉を引き出したかったのかしら。
「ああ、もちろんだとも。マジックだけでなく、森のやっているパズルもいいな。水原の推理小説も、不知火、おまえさんの言葉遊びもいいんじゃないかと思う」
「ありがとうございました。――だそうですよ、佐倉さん。これで自信が持てるのではありませんか」
にこっと微笑みかけてくる不知火さん。私も思わず顔がほころぶのが分かった。
「うん。ただ、お墨付きをもらえたのはいいんだけど、マジックも推理小説もいいということは、結局、悩みは解消しないんだよねぇ」
家に帰ってから、宿題とかご飯とかが片付いたあと、クラブ(サークル)活動についての考えを改めてまとめてみようと思った。
とりあえずの方針として、金曜日のコマはマジックに絞ろう。ここでいうマジックは狭い意味、つまり手品や奇術という意味でのマジックね。サークルを作った本来の目的を忘れちゃいけない。
一方、火曜日はどうするかというと。
基本的には、やっぱりマジックをするべきだけど、チャンスがあれば、マジックに役に立ちそうな他のことなんかも積極的に取り入れてみたい。ただ、何でもかんでも取り入れてしまえるのは、先生にしても私自身も示しが付かない気がする。基準を設けておきたいな。
そんな風なことを考え、頭を捻っていると、電話が掛かってきた。シュウさんからだった。
「シュウさん? 久しぶりな気がするんだけど。私達、忘れられたんじゃないよね?」
「ごめんごめん。もっと早くに連絡を入れるつもりでいたんだけど、メールなんかだと文章を考えるのがおっくうに感じてしまって、つい。電話もタイミングがなかなかね」
「えっ、忙しいの?」
不安に駆られ、受話器を両手で持ち直した。教えてもらうっていう話、なくなったりしない?
「イレギュラーな用事や約束が入ることはあるけど、大丈夫。基本的に火曜日がいいって言ってたよね? だからまずは来週の火曜日、正式に参加させてもらおうと思う」
「それは教えてくれるっていう意味?」
「もちろん。あとそ――」
「やったー!」
シュウさんが言葉を続けるのが耳に届いたけれど、喜びを止められなかった。思わず、万歳。多分、シュウさんからは私の声が遠ざかって聞こえたわよね。いやでもその分ボリュームが大きくなったから、差し引きゼロかしら。
「ありがとう、シュウさん!」
「はいはい。驚いた。前から決まっていた約束を果たすってだけで、そこまで感謝されるなんて」
「だって、ほんとに嬉しいんだもん。それで、何か言い掛けてみたいだったけれども」
「ああ。火曜日に出る前に、金曜日のクラブ授業にも顔を出したいと思ってる」
「え、じゃあ、その日からにしてくれてもいいのに」
「残念なことに、僕の方の学校の都合で、その日はどうしても遅れそうなんだ。三十分近く。というかここからが本題になる。金曜日は基本的に遅くなる気配が濃厚なんだよね。授業のコマ割りのせいなんだけど」
「ふうん。分かった。全然かまわないから。もしシュウさんがいいんだったら、金曜日の途中からでもぜひ来てほしいくらい」
「僕もそうするよ。たとえば僕ら二人であらかじめ演目やテーマを決めておいて、前半は萌莉が実演して、後半は僕が種明かしを含めた解説をする、なんてこともできなくはないと思うしね」
魅力的な提案に思えた。ただ、不安もあるなあ。
つづく