第166話 種明かしの緊張感
文字数 1,802文字
「そうですね……一つ、質問してもかまいません?」
「ど、どうぞ」
理由は分からないけどプレッシャーを凄く感じるよ~。
「今のマジックをもう一度やってくださいとお願いしたら、受けてくれますか?」
「それは、やれないことはないよ」
どきっとした。平気なふりをして答える。笑顔が強ばりそう。
「うーん、本当に、今ここにいる私達を観客に、もう一度同じマジックをしたいですか?」
「したいってことはないけど。だってほら、色んな演目を見てもらいたいから」
うう、これは感付いているのかなあ。とぼけるの、やめようかしら。
「では、失敗なしに――」
だめだー! これはほぼ正解に辿り着いている。種明かしの格好が付かなくなるので、ここはさっさと白旗を掲げようっと。
「ま、待って。これは種明かしをするためのマジックだから、今からもう一回やるわ」
「そうですか」
私の反応で全てを察したらしい不知火さん。にこっと笑うと、一歩二歩と下がって、種明かしを待つ態勢になった。
私はその様子を見て、思わずそのまま種明かしに入りそうになったが、はたと気付く。まだ手のひらを開けていなかった、つまりマジック自体、まだフィナーレを迎えていないんだったわ。
首筋や背中に冷や汗がにじむのを覚えながら、みんなによく見えるように手を伸ばし、拳を開く。
中から現れたのは、左手に五百円玉三枚、右手に五百円玉一枚。
「おお」
「結果はやっぱりだけど、やり方が分かんねえ」
みんなちゃんと驚いてくれて、ほっとした。不知火さんも小さく拍手している。
「それではこれから種明かしをします。まず、もう一度はじめから、ゆっくりやっていくので、見ていてください」
そして私は同じ手順を繰り返した。本番と寸分違わぬ、同じ流れ。同じとは、そう、コインを一度落とすところも一緒だ。
「あれ? また?」
一番驚いたのは陽子ちゃんだった。最初にやったとき、コインを落としたのを本気で心配してくれてたんだ。だまして本当にごめん。
放り出した五百円硬貨は、今度はうまい具合に陽子ちゃんの方へ転がったので、拾って持って来てもらう。
「さっきみたいに、今度は右手に入れてくれる?」
「分かった」
小指と薬指でコインをホールドしつつ、残りの指三本を開いて、陽子ちゃんからの五百円玉を待ち受ける。
「――あー! 分かった」
疑り深げな目をして五百円玉を置こうとしていた陽子ちゃん、その指がぴたっと停止したかと思ったらいきなり叫んだ。
「サクラ、あんた右手に二枚持ったままでしょ?」
開けなさいとばかり、私の右手を指差してくる。表情に笑みを広げながら、右手を開けた。
「当たり」
五百円玉が二枚分かるよう、きっちり重ねていたのを指でずらす。
「どっ、どゆこと? 落としたのは右手の中にあった一枚じゃないってこと?」
つちりんが舌足らずな口ぶりになって聞いてきたけど、今言ったので正解だよ。
「ここがこのマジックのポイント。今ので言うと、左手の一枚を落としておいて、さも、右手から落としたようにふるまうの。拾った人は右手に入れてくれるっていうわけ」
「それで二枚に一枚プラスされて、三枚に。もう片方の手は、自然と一枚になったということか。なるほどな」
相田先生、感心したのか、しきりにうなずいてる。シンプルなマジックで、同じ人相手には一回しか披露できないけれども、驚かせる効果はかなりあるんだと再認識した。
それとは別に、ほっと息をついていた。マジシャンにとって何がつらいって、種明かしをして「なーんだ、くだらない」って言われるのが一番つらい。受けなかったときと同じぐらいつらい。今のはみんなが感心してくれて、ほんと、やってよかった。ここは気分よく、追加の解説には入れる。
「もちろん使う硬貨は五百円玉じゃなくてもいい。ただし、製造年が同じ物を四枚揃えた方が、ばれる危険性を減らせると思う。十円玉なんかだと、色合いも似たようなのに揃えるのが安全だろうしね」
「なるほどー」
「それから、五百円玉だとちょっとでも手を開いたら絶対に見えてしまうけど、小さなコインなら隠れて見えなくても不思議じゃない。だから、左右に一枚ずつで始めてもできると思うわ」
簡単に言い切ってみたけれども、みんなは首を傾げ気味だ。あんまりぴんと来ていないみたい。
つづく
「ど、どうぞ」
理由は分からないけどプレッシャーを凄く感じるよ~。
「今のマジックをもう一度やってくださいとお願いしたら、受けてくれますか?」
「それは、やれないことはないよ」
どきっとした。平気なふりをして答える。笑顔が強ばりそう。
「うーん、本当に、今ここにいる私達を観客に、もう一度同じマジックをしたいですか?」
「したいってことはないけど。だってほら、色んな演目を見てもらいたいから」
うう、これは感付いているのかなあ。とぼけるの、やめようかしら。
「では、失敗なしに――」
だめだー! これはほぼ正解に辿り着いている。種明かしの格好が付かなくなるので、ここはさっさと白旗を掲げようっと。
「ま、待って。これは種明かしをするためのマジックだから、今からもう一回やるわ」
「そうですか」
私の反応で全てを察したらしい不知火さん。にこっと笑うと、一歩二歩と下がって、種明かしを待つ態勢になった。
私はその様子を見て、思わずそのまま種明かしに入りそうになったが、はたと気付く。まだ手のひらを開けていなかった、つまりマジック自体、まだフィナーレを迎えていないんだったわ。
首筋や背中に冷や汗がにじむのを覚えながら、みんなによく見えるように手を伸ばし、拳を開く。
中から現れたのは、左手に五百円玉三枚、右手に五百円玉一枚。
「おお」
「結果はやっぱりだけど、やり方が分かんねえ」
みんなちゃんと驚いてくれて、ほっとした。不知火さんも小さく拍手している。
「それではこれから種明かしをします。まず、もう一度はじめから、ゆっくりやっていくので、見ていてください」
そして私は同じ手順を繰り返した。本番と寸分違わぬ、同じ流れ。同じとは、そう、コインを一度落とすところも一緒だ。
「あれ? また?」
一番驚いたのは陽子ちゃんだった。最初にやったとき、コインを落としたのを本気で心配してくれてたんだ。だまして本当にごめん。
放り出した五百円硬貨は、今度はうまい具合に陽子ちゃんの方へ転がったので、拾って持って来てもらう。
「さっきみたいに、今度は右手に入れてくれる?」
「分かった」
小指と薬指でコインをホールドしつつ、残りの指三本を開いて、陽子ちゃんからの五百円玉を待ち受ける。
「――あー! 分かった」
疑り深げな目をして五百円玉を置こうとしていた陽子ちゃん、その指がぴたっと停止したかと思ったらいきなり叫んだ。
「サクラ、あんた右手に二枚持ったままでしょ?」
開けなさいとばかり、私の右手を指差してくる。表情に笑みを広げながら、右手を開けた。
「当たり」
五百円玉が二枚分かるよう、きっちり重ねていたのを指でずらす。
「どっ、どゆこと? 落としたのは右手の中にあった一枚じゃないってこと?」
つちりんが舌足らずな口ぶりになって聞いてきたけど、今言ったので正解だよ。
「ここがこのマジックのポイント。今ので言うと、左手の一枚を落としておいて、さも、右手から落としたようにふるまうの。拾った人は右手に入れてくれるっていうわけ」
「それで二枚に一枚プラスされて、三枚に。もう片方の手は、自然と一枚になったということか。なるほどな」
相田先生、感心したのか、しきりにうなずいてる。シンプルなマジックで、同じ人相手には一回しか披露できないけれども、驚かせる効果はかなりあるんだと再認識した。
それとは別に、ほっと息をついていた。マジシャンにとって何がつらいって、種明かしをして「なーんだ、くだらない」って言われるのが一番つらい。受けなかったときと同じぐらいつらい。今のはみんなが感心してくれて、ほんと、やってよかった。ここは気分よく、追加の解説には入れる。
「もちろん使う硬貨は五百円玉じゃなくてもいい。ただし、製造年が同じ物を四枚揃えた方が、ばれる危険性を減らせると思う。十円玉なんかだと、色合いも似たようなのに揃えるのが安全だろうしね」
「なるほどー」
「それから、五百円玉だとちょっとでも手を開いたら絶対に見えてしまうけど、小さなコインなら隠れて見えなくても不思議じゃない。だから、左右に一枚ずつで始めてもできると思うわ」
簡単に言い切ってみたけれども、みんなは首を傾げ気味だ。あんまりぴんと来ていないみたい。
つづく