第121話 王女錯乱、じゃなくてサクランボ

文字数 1,364文字

「とにかく、跪いて」
 ズボンを引っ張られて、訳が分からないまま仕方なしに、メインと同じ姿勢を取ろうととした宗平。だが、王女マギーは「しなくていいわ」とあっけらかんとも評せる調子で言った、いや、許可した、か?
「探偵が容疑者に跪いて敬意を表すなんて、してはいけません。もし第三者に見られたら公明正大さを疑われるでしょう。そんなの、私の本意じゃない」
「そんじゃあ」
 折りかけた膝を伸ばして、元のように立つ宗平。横ではメインが恭しい態度を残しつつ、ゆっくりと立った。そしてこの機を逃すまいとばかり、確約を取りに出る。
「それではマギー王女。捜査にご協力くださいますか?」
「全面的にとまでは約束できませんが、可能な範囲で応えるつもりで来ました。まず、私の方の用事を済ませてよいですか?」
「そうですね。我らの方の用は急ぎではなくなりました。城内の特定の場所を見るためにお城の方に許可を得るつもりでいたので。王女が協力をしてくださるのでしたら、もう果たせたも同然かと」
「分かりました。では――」
「ちょい待ち」
 ストップを掛けたのは宗平。流れをぶった切る行為なのは理解していたけれども、はっきり言って、このまま説明がないのは落ち着かない。マギー王女とチェリーが似ているのは血縁関係があるのか、他人のそら似なのかだけても聞いておきたいと思った。
 その旨をメインに訴えると、メイン自身はいい顔をしなかったが、ありがたくも王女は率先して応じる態度を見せてくれた。
「他の者に耳に入ると、不都合な事どももあるので、話せる範囲で、掻い摘まんでお話しするわ」
「ご随意に」
 目当ての部屋に向かいつつ、ひそひそ声による説明を拝聴する。
「チェリーは私の双子の妹。王の直系の子は、男にせよ女にせよ、双子や三つ子のような形で生まれた場合、弟・妹は平時は使用人などとして側に仕え、いざというときには影武者となって生きる。弟や妹を担いで謀反を企む動きがあれば、幼くして処置するのも法で認められています」
「げ」
「安心して。幸いにも我が国では適用された例は皆無」
「何だ……」
 角を曲がる直前、ほっと胸を撫で下ろす宗平。次の瞬間、王女がさらりと言い足す。
「ただ、記録を残していないだけで、実際がどうだったかは誰にも分からないだけかも。早逝した者や死産の記録ならそれなりの数がある」
「え? ――痛ぇっ!」
 壁と壁のつなぎ目、角張った箇所に鼻っ柱をぶつけてしまった。鼻を押さえて歩みの鈍る宗平に、王女の声が「何を驚いているの。当たり前のことです」と聞こえた。暗に急かされているようだ。宗平は鼻を押さえたまま、目尻から涙がにじむを自覚し、空いている手で拭った。
「私はチェリーを信用しているし、妹の方もこれまでだけでも陰に日向に役立ってくれている。あの子が今回の事件捜査に加わることを認めたのも、私からの信頼の証のつもりです」
 王女のその言葉に、メインが「それはそれは。チェリーさんは大変力になってくれていますよ」と深めに頭を下げる。
 宗平は、あれこれ疑問に思う点はあったが、口をつぐんだ。
(兄弟姉妹間の信頼って、そんなものじゃないと思うんだけどな。信じることに理由がいるようなら、そりゃあほんとの信頼じゃない気がする)

 つづく

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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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