第141話 お題『ぼくのゆめ』
文字数 1,768文字
そんなこと言った覚えはないよ? 科学マジックをいくつかやってみるつもりだって、森君に話しただけだけど、だからって未定ってことには……あっ、そっか。
私は不知火さんのウィンクの意味を理解した。そうそう今思い出したわ、みたいな感じで両手を合わせて大げさな動作をする。
「そうだね。予定していた物はあるけれども、準備不足なところがあるから、変更してもかまわないわ」
「それは好都合です。ここはぜひ、森君から話を聞く時間ということにしませんか」
「げ」
森君が踏んづけられたカエルみたいにうめく。顔はげんなり。ここは盛り上げないと。
「ね、森君。みんな聞きたがってるのよ。お願い、いいでしょう?」
「けど、マジックと全然関係ねえから。相田先生に怒られるぞ」
「そうなの?」
とぼけつつ、確かにそこはどうにかしなくちゃ。マジックサークルでやってもおかしくないだけの理由を付ける必要があるよね。
「さっき、事件と言っていたけれども、どんな事件なのかしら」
水原さんが突っ込んで聞いてくる。
「事件は人が死んでて」
「殺人? 誰が、どこで?」
「あのさ、事件と言っても夢の中の話だよ……多分」
言いながら、声が小さくる森君。多分て、どういうことなんだろ。
「気になると言ったのは事件が解決しないまま、目が覚めちまったから」
「未解決事件の謎解きは、マジックの種を見破るのと似ています」
不知火さんが断定口調で言った。強引だな~。でも私もそれに乗っかるとしよう。
「そうだよね。推理小説や漫画やドラマなんかで、探偵が幻想的な謎を全て解き明かしちゃうのを見ると、何てことしてくれるんだと感じることある。幻想が幻滅に変わるっていうか」
「マジシャンは演じたあと、種明かしをしてはならないという鉄則があるんですよね、佐倉さん?」
「うん。どんなに観客からお願いされても、応じちゃいけないって」
「……その理屈だと、俺が見た事件も解かない方がいいってことにならないか?」
「解くとは言ってない。とりあえず、聞いてみたい」
私がしれっとして言うと、森君は根負けしたかのように、頭をくしゃくしゃと掻いて、「ああ、もう、しょうがねえな」と承知してくれた。
「よかった。そうとなったら、気が変わらない内に早く移動しよう!」
私達はクラブ活動で使わせてもらっている教室へと、足早に向かった。ただ一人、森君だけは、向かわされたっていう心地だったかもしれないけれども。
「えーっと、だな」
教卓の脇に立った森君が、自分で用意したノートに何か書き付けたり、上目遣いに天井を見やったりしている。
今日のクラブ活動は、森君が夢で見た事件の報告になった。
首尾よく、顧問の相田先生から了解をもらえた。というか、先生は普段から何でもいいって感じで、ゆるいんだけど。ただし、授業中に居眠りしていたことを知って、森君を注意することだけは忘れなかった。
次に、私はサークルの会長として、先ほどの廊下で槍とした場面に居合わせなかった陽子ちゃん達のために、こうなったいきさつを大まかに伝えた。
「夢の中で佐倉さんの名前を呼んだことは棚上げするとして」
説明を聞いた朱美ちゃんがにやにやしながら言ったものだ。
「事件て何? つちりんに夢占いでもしてもらった方が早くない?」
「必要でしたら、やりますよ」
朱美ちゃんの半分冗談(だと思う)を、つちりんはまともに受け取ったのか、ランドセルの中を覗いて、今日持って来た道具でできるかしら的な仕種を見せた。
「何はともあれ、聞いてみなきゃ始まらないよ。ほら、森君もさっさと話しちゃいなって」
陽子ちゃんにちゃきちゃきと促され、森君が登壇したまではよかったんだけど、まだまとまっていなかったらしくて。思い出すために、ノートに書き付けをすること五分を経過していた。
「よっし。これでどうにかこうにか話せる」
見たばかりの夢の輪郭がはっきりしたのか、ノートをぴしゃりと両手で閉じた森君。いや、ノートは開けたままでいいんじゃないの。
「まず……目が覚めたら森の中にいて。俺の名前と混同して、聞いていてややこしいなら、林ってことにしてもいい」
ようやく語り始めた森君の夢の内容は、アニメか何かの設定みたいだった。
つづく
私は不知火さんのウィンクの意味を理解した。そうそう今思い出したわ、みたいな感じで両手を合わせて大げさな動作をする。
「そうだね。予定していた物はあるけれども、準備不足なところがあるから、変更してもかまわないわ」
「それは好都合です。ここはぜひ、森君から話を聞く時間ということにしませんか」
「げ」
森君が踏んづけられたカエルみたいにうめく。顔はげんなり。ここは盛り上げないと。
「ね、森君。みんな聞きたがってるのよ。お願い、いいでしょう?」
「けど、マジックと全然関係ねえから。相田先生に怒られるぞ」
「そうなの?」
とぼけつつ、確かにそこはどうにかしなくちゃ。マジックサークルでやってもおかしくないだけの理由を付ける必要があるよね。
「さっき、事件と言っていたけれども、どんな事件なのかしら」
水原さんが突っ込んで聞いてくる。
「事件は人が死んでて」
「殺人? 誰が、どこで?」
「あのさ、事件と言っても夢の中の話だよ……多分」
言いながら、声が小さくる森君。多分て、どういうことなんだろ。
「気になると言ったのは事件が解決しないまま、目が覚めちまったから」
「未解決事件の謎解きは、マジックの種を見破るのと似ています」
不知火さんが断定口調で言った。強引だな~。でも私もそれに乗っかるとしよう。
「そうだよね。推理小説や漫画やドラマなんかで、探偵が幻想的な謎を全て解き明かしちゃうのを見ると、何てことしてくれるんだと感じることある。幻想が幻滅に変わるっていうか」
「マジシャンは演じたあと、種明かしをしてはならないという鉄則があるんですよね、佐倉さん?」
「うん。どんなに観客からお願いされても、応じちゃいけないって」
「……その理屈だと、俺が見た事件も解かない方がいいってことにならないか?」
「解くとは言ってない。とりあえず、聞いてみたい」
私がしれっとして言うと、森君は根負けしたかのように、頭をくしゃくしゃと掻いて、「ああ、もう、しょうがねえな」と承知してくれた。
「よかった。そうとなったら、気が変わらない内に早く移動しよう!」
私達はクラブ活動で使わせてもらっている教室へと、足早に向かった。ただ一人、森君だけは、向かわされたっていう心地だったかもしれないけれども。
「えーっと、だな」
教卓の脇に立った森君が、自分で用意したノートに何か書き付けたり、上目遣いに天井を見やったりしている。
今日のクラブ活動は、森君が夢で見た事件の報告になった。
首尾よく、顧問の相田先生から了解をもらえた。というか、先生は普段から何でもいいって感じで、ゆるいんだけど。ただし、授業中に居眠りしていたことを知って、森君を注意することだけは忘れなかった。
次に、私はサークルの会長として、先ほどの廊下で槍とした場面に居合わせなかった陽子ちゃん達のために、こうなったいきさつを大まかに伝えた。
「夢の中で佐倉さんの名前を呼んだことは棚上げするとして」
説明を聞いた朱美ちゃんがにやにやしながら言ったものだ。
「事件て何? つちりんに夢占いでもしてもらった方が早くない?」
「必要でしたら、やりますよ」
朱美ちゃんの半分冗談(だと思う)を、つちりんはまともに受け取ったのか、ランドセルの中を覗いて、今日持って来た道具でできるかしら的な仕種を見せた。
「何はともあれ、聞いてみなきゃ始まらないよ。ほら、森君もさっさと話しちゃいなって」
陽子ちゃんにちゃきちゃきと促され、森君が登壇したまではよかったんだけど、まだまとまっていなかったらしくて。思い出すために、ノートに書き付けをすること五分を経過していた。
「よっし。これでどうにかこうにか話せる」
見たばかりの夢の輪郭がはっきりしたのか、ノートをぴしゃりと両手で閉じた森君。いや、ノートは開けたままでいいんじゃないの。
「まず……目が覚めたら森の中にいて。俺の名前と混同して、聞いていてややこしいなら、林ってことにしてもいい」
ようやく語り始めた森君の夢の内容は、アニメか何かの設定みたいだった。
つづく