第117話 渦巻く嫉妬に思惑

文字数 1,385文字

 メインの説明もあり、この動機を宗平はあり得るものとして受け入れた。他方、別の気になることが心に残った。が、今はとりあえず、残る容疑者の動機を聞いておきたい。
「秘書のジュディ・カークランは、十年ほど前まで被害者と恋仲だった。学生時代に知り合って約三年続いた後に別れている。理由は曖昧だが、当人が言うには発展的解消でどちらが悪いという話ではないそうだ。二年と半年くらい前にカークランがウッズの秘書としてここへ出入りするようになり、偶然にも再会を果たす。ファウストはそのときすでに王女と噂になっていた。カークランが犯人だとすれば、ファウストは自分をふって王女に乗り換えたという風に写り、嫉妬の炎を燃え上がらせた、となる」
 これもまたあまり強力な殺意には思えなかった。
「滅多なこと言うなって怒られそうだけど、そんな動機なら、王女様にも殺意が向けられるんじゃないのかな」
「滅多なこと言わないで!」
 しっかり前置きしたにもかかわらず、チェリーにきつく注意されてしまった。何だか割に合わない。そのあともがみがみ言われたが、宗平が我慢に徹して反論しなかったので、説教タイムは短くてすんだ。
「王女に手をかけようというのは、大胆すぎかつ恐れ多すぎで実行に移すには相当な心理的ハードルがある。その分、恨みが侍従長に向けられたと考えられなくはない」
 メインが言った。この動機も認めるほかないようである。宗平は黙って三人目、マギー王女の動機を聞こうと姿勢を正した。
「さっきも少し触れたように、マギー王女はこの若い侍従長にぞっこん――失礼、恋心を抱き、交際に発展していた。まだ公的には認められていないが、ナイト・ファウストの人となり、家柄や素行といった要素に特段の問題はなく、いずれ結婚を前提とした交際の発表が行われるのではないかというのが、城内でのもっぱらの噂だった」
「一大事の割には、騒ぎの規模が小さいような……」
 この国の制度が全然分からない宗平だが、たとえ非公式とはいえ王女様の婿候補が死んだのなら、もっと大騒動になっていても不思議じゃない。でも実情はどうだ。城の中も外も通常運転しているように見える。事件の捜査だって、他にも関係者が列席して仰々しく会議を開きそうなものなのに、今部屋にいるのは四人だけとさみしい限り。
「事と次第によっては、王女との交際を最初からなかったことにしたいという思惑の表れだろうね」
 メインが言った。彼が言う分にはチェリーも肯定的らしく、嫌がる表情は見せない。
「最悪はマギー王女が事件に関与していたケースだろうけど、それ以外でもたとえば万が一にも侍従長が二股を掛けていたなんてことが発覚したら、王室の沽券にも関わる。近くに置いている使用人の裏切りでもあるし。まあ、想像だけで故人を悪く言うのはやめよう。えっと、王女の動機として考えられるのは、ジュディ・カークランとよりを戻すんじゃないかという疑心からというのが最有力かな。これだと、侍従長がカークランとよりを戻していようがいまいが、疑惑だけでも殺意に発展する可能性がある」
「どうかなあ? カーラクラン秘書のときと同じ理屈になるけど、王女様がよりを戻すことを疑ったのなら、殺意はカークランに向けられるんじゃないの? 今度は、殺すのに心理的ハードルが高いってこともないはず」

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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