第140話 夢の中へ行ってみたいと

文字数 1,706文字

 答えて、ぷい、と顔をそらす。嘘が下手だなー。森君てばパズルやクイズが得意な割に、時々、こういう一面が覗くことがある。問題を出して周りのみんなが解けなかったら、得意げにはなっても偉ぶらないし。とにかく憎めない。でも、マジックをやるときは結構、致命的かもしれないと常々感じてるのよね。
 ま、いいか。今はそれが本題じゃない。
「だめだよ。同じサークルの仲間内で、隠しごとはなし」
「そ、そんなルール、初耳だぞ」
「理由は何でもいいから、話してよ。気になるじゃない」
「……俺も気にはなっている。問題篇が終わったぐらいのところで、目が覚めたからな」
 急に話し出した! 何がきっかけか知らないけれども、望ましい傾向なので黙って耳を傾ける。
 ちなみに、ここは教室を出てすぐの廊下で、みんなが行き交っているんだけれども、たいして注目を浴びてはないみたい。マジックサークルでのことを話しているとでも思われたかな。その方が気が楽でいい。
「夢の中で目が覚めたら……あれ? これっておかしな表現かな?」
「ううん。意味は通じる」
「だよな。えっと、夢の中で目が覚めたら、変な世界にいたんだよ。そんで、事件に巻き込まれて」
 森君がそこまで話したときだった。
「事件ですって?」
 水原さんの声と姿が同時に飛んできた。さっすが、推理小説を書くだけあって、事件という言葉には敏感だ。視界にフレームインしてきた彼女は、どちらから話を聞けばいいのかなという風に、私と森君を等分に見つめてくる。
「まあまあ、水原さん。そんなにあわてなくてもいいじゃありませんか」
 いつも以上にのんびりとした口調で言ったのは、不知火さんだった。視線を水原さんから私へと移し、続けて言う。
「私としてはとりあえず、クラブ活動がこのあとあるというのに、佐倉さんが話し込んでいる理由を知りたいです。何にそんなに夢中にさせられているのかって」
「む、夢中ってほどじゃないのよ」
「俺も佐倉さんを夢中にさせたつもりはない」
 その言い方だと、かえって何かあるみたいじゃないのっ。慌てた私は、矢継ぎ早に言葉を足した。
「そう! 夢中じゃなくて、気になるってだけ! これが変なこと口走るから」
 “これ”と言いながら、森君を指差してやった。
「変なこととは?」
 不知火さんが私と森君を見つめながら問う。彼は話すつもりはないみたいだから、私がかいつまんで説明した。
「覚えてねーって」
 不知火さんや水原さんが反応する前に、森君が言う。もう。おかしな流れになってる。折角話してくれそうだったのに、水原さんが達が来た途端、これだもの。他人に聞かれたくないの?
「絶対、言った。さっきまで話しそうになってたのじゃない」
「いや、そこじゃなくってだな。元々の出来事の訂正がしたいんだ。佐倉さんが聞いたのは、俺じゃなくって」
 もめ事が大きくなりそうなところへ、「まあまあ」と改めて割って入って来た不知火さん。
「私達、きっかけにはこだわりません。具体的な中身を聞かせてくださいな。森君も、
『言ってない』とは言わない辺り、話したくなっていたのでしょう?」
「ま、まあ、それはそうなんだけどさ……考えてみたら、話すと長くなる。かなり」
「何とかさわりだけでもうまくまとまりませんか?」
 不知火さんも私に負けず劣らず、熱心だ。ちなみにだけど、不知火さんは言葉には正確だから、今使った「さわり」もよくある誤用「物事の始めの部分」ではなく、「物事の一番重要な部分」として使っている、はず。
「……無理。短くまとまらないし、無理矢理まとめたって、どうせ根掘り葉掘り聞かれそうな予感が」
 森君はどこかふてくされたみたいに答えた。この様子だと、じゃあ明日時間のあるときにでも改め、なんてことにしたら、もう二度と話してくれない気がしてきた。
「仕方がありませんね。――佐倉さん」
 小さくため息をついた不知火さんは、水原さんに何やら目配せしてうなずき合ってから、私の方を向いた。そして私にも素早くウィンク。
「今日のクラブ活動の活動内容は、未定でしたね?」
「えっ?」

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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