第143話 わくわくのポイント
文字数 1,447文字
森君がロールプレイングゲームが得意かどうかとか、そもそも夢で見た世界がロールプレイングゲームのお約束に沿っていたのかどうかとかは横に置くとして。だって前者は今さら済んだことだし、後者は確かめようがないんだし。
私達は、森君の物語る話の続きに耳を傾けることに集中する。
「亡くなったのはナイト・ファウストという男の人で、侍従長と言ってたっけ。現場は彼自身の部屋で、一つしかないドアには鍵が掛かっていた。ただし、窓は一カ所、開閉可能になっていた。でも部屋は三階の高さにあって、しかもお城の中の建物だから、普通に思い描く三階よりもさらに高い気がした」
「具体的にはどのくらいだった?」
尋ねる水原さんは興味津々、口元をきゅっとかみしめている。いつの間に用意したんだろう、手には鉛筆とノートがあった。
「わ、分からねえよ」
「ぱっと見た感じでいいんだけれども」
「それが、さっきちょっと触れたように、俺自身、背の高さがいつもと違ってたんだ。だから目分量というか、ぱっと見で何メートルっていうのが言いづらい。とにかく、普通の人間なら、道具なしでは絶対に上り下りできないって感じた」
「うーん。仕方ありません。要するに犯行現場は一種の密室状態だったと」
「そう、それだ」
「死因は分かっていたんですか」
「死因は毒殺になるか。えーっと、毒というか薬物の名前も聞いたんだ。確か……エルクサムとか何とか言ってた」
「エルクサム? 聞き覚えがないわ……」
水原さん、眉間に軽くしわを使って、困惑顔になる。鉛筆を持ったまま腕組みをし、「その薬物、どんな性質なのかは言ってました?」と追及する。
「ちょっと待ってくれよ、思い出すから。うーん、元々は馬の安楽死用に使う薬とか言ってたかな。馬だけじゃなかったかも。とにかく、筋肉に作用して、呼吸ができなくなるとかどうとか」
「なるほど。筋弛緩剤みたいな薬物を思い描けばいいのね」
「あと、形は円形で、五百円玉ぐらいの大きさ。水には溶けにくく、服用するには直接飲み込む必要がある、だったっけ」
「致死量、みたいなことは言ってました? どれくらい飲めば人が死に至るのか」
「基本的には丸々一錠。その八割ぐらいが致死量だったと思う」
「八割……それは人も馬も同じ?」
「う。……そこまでの話は聞かなかったように思う」
頼りないなー、と朱美ちゃんから声が飛んだ。そんなに追い込まないであげて。
森君の見ていると、その表情がぱっと明るくなった。
「そうそう、代わりに重要なことを思い出した。一度に口にしたのが一錠の八割未満だったら、何の影響も受けないんだとさ」
「え? 体調不良にもならないという意味?」
よっぽど驚いたのか、聞き返したあとも水原さんは口を半開きにしている。私も驚いた。そんな白黒はっきりした毒、現実にはないんじゃあないの? さすが、夢の世界。
「だと思う。実際に飲んで試したわけじゃないからな」
冗談のつもりなのかしら、ちょっぴり笑い声を立てた森君。残念、その笑いは他のみんなには移らなかったよ。
「興味深い性質だわ。――それから?」
「え? ええっと、ファウスト侍従長が死んだとされるのが午後十一時から翌日の午前一時までの二時間だって。ああ、その世界でも一日は二十四時間なんだ。そしてここからがややこしいというか、現実には絶対にないことなんだが、魔法の話が絡んでくる」
魔法。
聞き手である私達は皆、目を輝かせたかもしれない。
つづく
私達は、森君の物語る話の続きに耳を傾けることに集中する。
「亡くなったのはナイト・ファウストという男の人で、侍従長と言ってたっけ。現場は彼自身の部屋で、一つしかないドアには鍵が掛かっていた。ただし、窓は一カ所、開閉可能になっていた。でも部屋は三階の高さにあって、しかもお城の中の建物だから、普通に思い描く三階よりもさらに高い気がした」
「具体的にはどのくらいだった?」
尋ねる水原さんは興味津々、口元をきゅっとかみしめている。いつの間に用意したんだろう、手には鉛筆とノートがあった。
「わ、分からねえよ」
「ぱっと見た感じでいいんだけれども」
「それが、さっきちょっと触れたように、俺自身、背の高さがいつもと違ってたんだ。だから目分量というか、ぱっと見で何メートルっていうのが言いづらい。とにかく、普通の人間なら、道具なしでは絶対に上り下りできないって感じた」
「うーん。仕方ありません。要するに犯行現場は一種の密室状態だったと」
「そう、それだ」
「死因は分かっていたんですか」
「死因は毒殺になるか。えーっと、毒というか薬物の名前も聞いたんだ。確か……エルクサムとか何とか言ってた」
「エルクサム? 聞き覚えがないわ……」
水原さん、眉間に軽くしわを使って、困惑顔になる。鉛筆を持ったまま腕組みをし、「その薬物、どんな性質なのかは言ってました?」と追及する。
「ちょっと待ってくれよ、思い出すから。うーん、元々は馬の安楽死用に使う薬とか言ってたかな。馬だけじゃなかったかも。とにかく、筋肉に作用して、呼吸ができなくなるとかどうとか」
「なるほど。筋弛緩剤みたいな薬物を思い描けばいいのね」
「あと、形は円形で、五百円玉ぐらいの大きさ。水には溶けにくく、服用するには直接飲み込む必要がある、だったっけ」
「致死量、みたいなことは言ってました? どれくらい飲めば人が死に至るのか」
「基本的には丸々一錠。その八割ぐらいが致死量だったと思う」
「八割……それは人も馬も同じ?」
「う。……そこまでの話は聞かなかったように思う」
頼りないなー、と朱美ちゃんから声が飛んだ。そんなに追い込まないであげて。
森君の見ていると、その表情がぱっと明るくなった。
「そうそう、代わりに重要なことを思い出した。一度に口にしたのが一錠の八割未満だったら、何の影響も受けないんだとさ」
「え? 体調不良にもならないという意味?」
よっぽど驚いたのか、聞き返したあとも水原さんは口を半開きにしている。私も驚いた。そんな白黒はっきりした毒、現実にはないんじゃあないの? さすが、夢の世界。
「だと思う。実際に飲んで試したわけじゃないからな」
冗談のつもりなのかしら、ちょっぴり笑い声を立てた森君。残念、その笑いは他のみんなには移らなかったよ。
「興味深い性質だわ。――それから?」
「え? ええっと、ファウスト侍従長が死んだとされるのが午後十一時から翌日の午前一時までの二時間だって。ああ、その世界でも一日は二十四時間なんだ。そしてここからがややこしいというか、現実には絶対にないことなんだが、魔法の話が絡んでくる」
魔法。
聞き手である私達は皆、目を輝かせたかもしれない。
つづく