第111話 推理の否定
文字数 1,316文字
「ほう」
感心を露わにするメイン。彼の傍らで控えるチェリーも「いいこと言うじゃないの」と呟いた。彼女はそのままメインの方を向いた。
「王女様が犯人ならもっと簡単に、先程言われたような刃物や金属、ガラスなんかでも充分です。裏を返すと、死因は毒殺という事実が、王女様の無実を証明している。この推理を中心に組み立てればよいのではないでしょうか」
「チェリー、君の気持ちは分かるが、それは早計というものだよ」
助手の頭を撫でながら、諭すように言ったメイン。「どうしてですー?」とチェリーが若干、すねたような声で抗議する。
(う。何やってんだ!?)
宗平の内で、また嫉妬みたいなものがメラメラと立ち上がる。
(おまえら背の高さに差があんまりないのに、不自然じゃないかっ。元々の佐倉と秀明の身長差なら頭を撫でてもいいけど……いや、よくはない)
宗平は隣のマルタを見やった。
「何か?」
「あの、出せるんだったら、氷を一つ。頭を冷やしたい」
「前に言った通り、水があれば作れるけれども。休憩を提案する?」
「……いや、彼の話がまだ途中だから、きりのいいところまで待つ」
宗平が頭を切り替えると、メインは待っていたかのように話を再開した。
「早計と言った理由は、仮説の検討が甘いからだ。さっきモリ探偵師が言ったように、王女が犯人なら仕舞い込んであった毒をわざわざ使うはずがない、との推測は悪くない。ただ、殺人行為を効率第一で考えてよいのかという点が抜け落ちている。――モリ探偵師。人を殺した場合、犯人が最も避けたいことは何だろう?」
「捕まること」
「そうだろう。今度の事件で遺体を解剖した結果、仮に刃物やガラス片なんかが出て来たら、捜査員はどう考える?」
「えっと、刺した痕はなく、体内から出て来たってことだよな。それってつまり、王女様の魔法が使われたって疑うことになると思う」
「だろ?」
満足げに首肯するメイン。宗平自身、先程述べた推理が浅かったことを悟った。
「王女様が、楽だからと言って、自分がやりましたと丸分かりになる方法で犯行をやるはずがないって意味か。納得」
「そうなんだ。その点、毒を服用させるという方法を選べば、多くの人に容疑が広がる。よってこれらの考察により、王女を容疑の枠から外すことはかなわない」
言い切ったメインは、窓の方を振り向き、宗平とマルタに話し掛けた。
「休憩という言葉が聞こえたけれども、時間を無駄にできない。かといって、僕も喋り続けて喉がカラカラだ。何か飲みながら続けたいのだけれども、異議はあるかな?」
もちろん、誰も異議は唱えなかった。
お城のメイドによって飲み物と焼き菓子が運び込まれた。宗平にとって、飲み物はともかく、焼き菓子の方はヒトデの姿焼きみたいな毒々しい色のも混ざっていて、ちょっと手を出しづらかった。
「美味しいのに」
マルタやチェリーが問題の焼き菓子を頬ばりながら、不思議そうな目を向けてくる。
宗平は一番ましな色合いの菓子を手に取り、思った。
(できるのなら、これ写真に撮って、元に戻ったときに佐倉達に見せてやりたい。そうして感想を聞いてやるんだ)
つづく
感心を露わにするメイン。彼の傍らで控えるチェリーも「いいこと言うじゃないの」と呟いた。彼女はそのままメインの方を向いた。
「王女様が犯人ならもっと簡単に、先程言われたような刃物や金属、ガラスなんかでも充分です。裏を返すと、死因は毒殺という事実が、王女様の無実を証明している。この推理を中心に組み立てればよいのではないでしょうか」
「チェリー、君の気持ちは分かるが、それは早計というものだよ」
助手の頭を撫でながら、諭すように言ったメイン。「どうしてですー?」とチェリーが若干、すねたような声で抗議する。
(う。何やってんだ!?)
宗平の内で、また嫉妬みたいなものがメラメラと立ち上がる。
(おまえら背の高さに差があんまりないのに、不自然じゃないかっ。元々の佐倉と秀明の身長差なら頭を撫でてもいいけど……いや、よくはない)
宗平は隣のマルタを見やった。
「何か?」
「あの、出せるんだったら、氷を一つ。頭を冷やしたい」
「前に言った通り、水があれば作れるけれども。休憩を提案する?」
「……いや、彼の話がまだ途中だから、きりのいいところまで待つ」
宗平が頭を切り替えると、メインは待っていたかのように話を再開した。
「早計と言った理由は、仮説の検討が甘いからだ。さっきモリ探偵師が言ったように、王女が犯人なら仕舞い込んであった毒をわざわざ使うはずがない、との推測は悪くない。ただ、殺人行為を効率第一で考えてよいのかという点が抜け落ちている。――モリ探偵師。人を殺した場合、犯人が最も避けたいことは何だろう?」
「捕まること」
「そうだろう。今度の事件で遺体を解剖した結果、仮に刃物やガラス片なんかが出て来たら、捜査員はどう考える?」
「えっと、刺した痕はなく、体内から出て来たってことだよな。それってつまり、王女様の魔法が使われたって疑うことになると思う」
「だろ?」
満足げに首肯するメイン。宗平自身、先程述べた推理が浅かったことを悟った。
「王女様が、楽だからと言って、自分がやりましたと丸分かりになる方法で犯行をやるはずがないって意味か。納得」
「そうなんだ。その点、毒を服用させるという方法を選べば、多くの人に容疑が広がる。よってこれらの考察により、王女を容疑の枠から外すことはかなわない」
言い切ったメインは、窓の方を振り向き、宗平とマルタに話し掛けた。
「休憩という言葉が聞こえたけれども、時間を無駄にできない。かといって、僕も喋り続けて喉がカラカラだ。何か飲みながら続けたいのだけれども、異議はあるかな?」
もちろん、誰も異議は唱えなかった。
お城のメイドによって飲み物と焼き菓子が運び込まれた。宗平にとって、飲み物はともかく、焼き菓子の方はヒトデの姿焼きみたいな毒々しい色のも混ざっていて、ちょっと手を出しづらかった。
「美味しいのに」
マルタやチェリーが問題の焼き菓子を頬ばりながら、不思議そうな目を向けてくる。
宗平は一番ましな色合いの菓子を手に取り、思った。
(できるのなら、これ写真に撮って、元に戻ったときに佐倉達に見せてやりたい。そうして感想を聞いてやるんだ)
つづく