第138話 ふりだしに戻る、のか?
文字数 1,444文字
「……必要となったらそうする。今は、これまでの捜査やメイン探偵師の調べを信頼して進めてるんだ」
宗平は力込めて言った。前はなかった自信がちょっとずつではあるが宿ってきた、そんな気がする。
「なるほど。理解しました。私風情が申し述べるのもなんですが、クライケン王子は大変穏やかな方で、とても人を殺めるようなことは」
「でも、戦になったら剣を取るだろう? 王子なんだから」
「まあ、腕は確かだと聞いています」
「動機の有無だけでいいんだ。あるいは絶対確実なアリバイでもあって、疑うのが無駄だっていうのなら早く言ってくれ」
「お一人でお休みになっていたとのことですから、アリバイはなし。動機は……ないと思いますが。王女の相手としてふさわしいか否か、侍従長の人となりを見極めるべく、フラットな立場を取っていたと言えますから」
「……お供の人っていうのは、どんな存在なんだろう。命令を受けたら絶対服従とか、主の気持ちを察して先に行動するとか?」
「考えていることは分かりますが、それはあり得ません。お供の者達はまだお若い王子をサポートするのが役目です。手助けするというだけでなく、導き、指導する意味も込められています。いわば、先生ですね」
マルタがそこまで明言するのなら、お供が先走ってしでかした犯行、なんてことはないと見てよさそうだ。ただ、動機については微妙じゃないかと思う。侍従長の人となりがふさわしくないと判断したが、王女と別れそうにないのであれば強引にでも排除しよう……そんな考えに至らないとも限らない。
「あの、まだいないとだめですか」
フィリポが遠慮がちに聞いてきた。
「天気が悪くなりそうだから、干し草を片付けときたいなと思いまして」
「あれっ、謹慎中じゃ?」
「それは馭者の仕事に限ってのことでして」
そういうことなら拒む理由はない。むしろ早く行ってもらおう。オーケーを出そうとする宗平だったが、マルタが止めた。
「正直な感想を言うなら、我々がフィリポから聞き出した内容について、彼からジョディ・カークランに伝わる可能性があるので、それを避けるためには見張りが必要では」
「そっか。伝わったらまずいか」
そこまで気が回らなかった己を反省しつつ、マルタに頼む。
「じゃあ、本当に干し草の片付けだけなのか、君が着いて行ってくれる?」
「かまいませんけど、あなたはどうするんです、モリ探偵師?」
「メイン探偵師と合流したい。ここにいた方が早く会えそうな気がするんだ」
「分かりました。私は彼になるべく張り付いています」
「マルタ、何かあったら、僕らは多分、最初の部屋に戻ることになると思うから」
そう言って送り出したのと同時に、雨粒がぽつ、ぽつ、と落ちてきた。
「降り出したか」
壁の汚れがいよいよ気になる。そちらの方向を見当づけて見やった。と、宗平の視界に、こちらへ駆けてくるチェリーとメインが入る。
「あ、来なくていいよ! 新たな発見はなかったから! 俺がそっちに行く!」
声を張り上げたつもりだったが、急に雨脚が強まり、音も激しくなった。さっきの声が届いたかどうか怪しい。実際、チェリーとメインはそのまま走ってきている様子だ。
「しょうがないな」
つぶやき、鼻で息をした宗平。
その刹那――見える範囲が全て白くなった。続いてすさまじい音がとどろく。宗平は身体も心臓もどきりとした。
雷が落ちた? そう理解したときには、もう意識が薄れ掛けて……。
つづく
宗平は力込めて言った。前はなかった自信がちょっとずつではあるが宿ってきた、そんな気がする。
「なるほど。理解しました。私風情が申し述べるのもなんですが、クライケン王子は大変穏やかな方で、とても人を殺めるようなことは」
「でも、戦になったら剣を取るだろう? 王子なんだから」
「まあ、腕は確かだと聞いています」
「動機の有無だけでいいんだ。あるいは絶対確実なアリバイでもあって、疑うのが無駄だっていうのなら早く言ってくれ」
「お一人でお休みになっていたとのことですから、アリバイはなし。動機は……ないと思いますが。王女の相手としてふさわしいか否か、侍従長の人となりを見極めるべく、フラットな立場を取っていたと言えますから」
「……お供の人っていうのは、どんな存在なんだろう。命令を受けたら絶対服従とか、主の気持ちを察して先に行動するとか?」
「考えていることは分かりますが、それはあり得ません。お供の者達はまだお若い王子をサポートするのが役目です。手助けするというだけでなく、導き、指導する意味も込められています。いわば、先生ですね」
マルタがそこまで明言するのなら、お供が先走ってしでかした犯行、なんてことはないと見てよさそうだ。ただ、動機については微妙じゃないかと思う。侍従長の人となりがふさわしくないと判断したが、王女と別れそうにないのであれば強引にでも排除しよう……そんな考えに至らないとも限らない。
「あの、まだいないとだめですか」
フィリポが遠慮がちに聞いてきた。
「天気が悪くなりそうだから、干し草を片付けときたいなと思いまして」
「あれっ、謹慎中じゃ?」
「それは馭者の仕事に限ってのことでして」
そういうことなら拒む理由はない。むしろ早く行ってもらおう。オーケーを出そうとする宗平だったが、マルタが止めた。
「正直な感想を言うなら、我々がフィリポから聞き出した内容について、彼からジョディ・カークランに伝わる可能性があるので、それを避けるためには見張りが必要では」
「そっか。伝わったらまずいか」
そこまで気が回らなかった己を反省しつつ、マルタに頼む。
「じゃあ、本当に干し草の片付けだけなのか、君が着いて行ってくれる?」
「かまいませんけど、あなたはどうするんです、モリ探偵師?」
「メイン探偵師と合流したい。ここにいた方が早く会えそうな気がするんだ」
「分かりました。私は彼になるべく張り付いています」
「マルタ、何かあったら、僕らは多分、最初の部屋に戻ることになると思うから」
そう言って送り出したのと同時に、雨粒がぽつ、ぽつ、と落ちてきた。
「降り出したか」
壁の汚れがいよいよ気になる。そちらの方向を見当づけて見やった。と、宗平の視界に、こちらへ駆けてくるチェリーとメインが入る。
「あ、来なくていいよ! 新たな発見はなかったから! 俺がそっちに行く!」
声を張り上げたつもりだったが、急に雨脚が強まり、音も激しくなった。さっきの声が届いたかどうか怪しい。実際、チェリーとメインはそのまま走ってきている様子だ。
「しょうがないな」
つぶやき、鼻で息をした宗平。
その刹那――見える範囲が全て白くなった。続いてすさまじい音がとどろく。宗平は身体も心臓もどきりとした。
雷が落ちた? そう理解したときには、もう意識が薄れ掛けて……。
つづく