第260話 出迎えは別の人?

文字数 2,083文字

 私達三人はその駅で降りた二十人足らずのお客さんが駅を出るまで、待つことにした。年配の女性が窓口の駅員さんに声を掛け、精算機の使い方を尋ねたこともり、ちょっと時間を取ったかな。でも約束の時刻にはまだ少しある。
 他の降り客がいなくなったところで、朱美ちゃん、満を持して駅員さんに切符を持ち帰りたいと希望を伝える。私と森君は後ろで見守っていた。すると、駅員さんは優しい口調で「いいですよ」と言い、切符にハサミを入れた。拍子抜けするほど、あっさりOKがもらえた。
 朱美ちゃんはお礼を早口で言うと、続けて私達の方を振り向き、指差してきた。何事?と思ったら。
「二人の分も同じくお願いしまーす」
 私と森君の切符ももらうつもりだった。オークションにでも出すのかしら。
 そんなこんなで駅舎を出たのは、電車が到着してから五分ほど経っていたかな。初めての場所だけに、きょろきょろしてしまう。タクシーを待っているんじゃないことが分かるよう、乗り場の方は見ないように気を付けたけど。
 すると、駅を出て左側の道の脇に、すでに停車していた白い乗用車のドアが開いた。
茶色っぽいサングラスを掛けた男の人が降りてきて、明らかに私達三人に向かって歩いてくる。途中でサングラスを外し、距離が二メートルくらいになったところで「もしかして、マジックサークルの……?」と片手を差し伸べるようなポーズで言った。白シャツにブルーのジャケットを羽織り、下は使い古したスーツかな。長めの髪の毛はもじゃもじゃだけど、清潔感を保っている。割とハンサム……というよりかは、野性味のある個性派俳優って感じかしら。顎の辺りに、短いひげがあるのが分かるんだけど、剃り残しなのか、わざとなのか判断つかない。
「あ、はい、そうです。私が部長の佐倉萌莉です」
 初対面の緊張もあって返事が若干、早口になっちゃった。厳密には会長だけど、まあ分かり易い方がいいと思って。
 続けて、他の二人を紹介しようとしたら、森君が態度で待ったを掛けてきた。一歩前に出て、私達の前に立つと、鋭い口調で聞いた。
「と、その前に。おじさんが桂崎さん? なんか、前もって聞いてたのと違う気がするんだけど。若すぎない?」
 あ、言われてみれば。確か高校の先生を引退された方だって聞いてる。はっきり、定年退職とまでは言ってなかったかもしれないけれども、年配の人というイメージで間違ってはいないはずよね。シュウさんが確か、大昔勤めていた、と言っていたくらいだから。
 それに対して今、目の前にいる男性は見たところ、三十代? 少なくとも定年を迎えていないのは絶対確実。
「これは失礼をした」
 若い男の人はちょっぴりおどけた物腰になって応じた。口元をかすかに緩め、サングラスを畳んで胸ポケットに仕舞うと、髪をひとなでしてから懐に手をやった。
 けど、何故かしかめ面になり、何も取り出さずに手を戻す。
「あちゃー、名刺を持ってくるのを忘れた。休日だからだな。――僕は桂崎篤仁の甥で桂崎実朝(さねとも)と言います。証拠として、何を見せればいいんだろうな。免許証と……ああ、伯父とやり取りしたスマホを見せたら、信じてくれるだろうか?」
「それならまあ、いいのかな……」
 森君がこちらを振り返る。どうする?と、目で聞いてくるのが読み取れた。最終判断を任された私は、実を言うと森君ほど、目の前の男の人に警戒心を抱いてはいない。だって、この時間に私達がここに来ると知っているのは、待ち合わせ相手だけ。さらに、私達がマジックサークルのメンバーだということも知っていた。以上の事実から、九分九厘、桂崎さんと関係のある人なのは間違いないと思う。それに何たって、シュウさんに紹介された話だもの。
 ただ一つ、気に掛かるとすれば……宝探しが絡んでいるってこと。どんな宝物かはまだ知らされていないけれども、価値の高い物だとしたら、たとえ桂崎さんの身内の人だって、桂崎さんを裏切るなんて場合も考えられるんじゃないかしら――と、こんな見方もあるんだと教えてくれたのは、不知火さんだ。出発前に不知火さんから電話が掛かってきて、もしかしたらと前置きした上で、「宝やお金が関係してくると、いい歳した大人でも目の色が変わることがあるみたいです。なので充分に気を付けてください」と、注意をしてくれたの。そのときはまさかと笑い飛ばしたし、だから森君や朱美ちゃんにも言わないでいたんだけど、桂崎篤仁さん以外の人が待ち合わせ場所に姿を現したということは……多少は警戒をしておくべきなのかなあ。でも、私達が宝探しについて有力な情報を持っている訳ではないし、確実に宝を見付ける保証もない……うーん、分かんない。
 私は少し考え、やっぱり慎重を期すことにした。
「できれば今ここで、桂崎篤仁さんに電話をしてもらえないですか。画像付きで」
「かまわない。けど、君達は伯父の顔を知らないんじゃないか?」
「はい。でも相手の人の顔が見えていた方が、安心できるかなって」
 会話している間にも短縮ダイヤルのボタンを押したのかな、実朝と名乗った人は電話をしてくれた。

 つづく

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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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