第134話 容疑者二人に探偵二人

文字数 1,502文字

 男の方が表情に出やすいということか。しかし、王室の命を受けて動いている探偵師二人が目の前に現れたのだから、たとえ犯人でなくとも緊張したとしても不思議ではない。フィリポの方が当たり前の反応を示したという解釈も成り立つのだ。
「何かと問われるとは思ってもいませんでした」
 ジュディを相手に、メインが笑みを浮かべつつ言った。手振りを交え、驚いた演技をしている。そう、明らかに演技だ。
「事件について聞きに来た。それぐらい、お分かりでしょう。このあとのご予定は?」
「……本当はスケジュールが詰まっていましたわ。でも、容疑者扱いを受けて、お休みをいただいています。お城から出さえしなければ自由に動き回れるだけ、ありがたく思わなければいけないんでしょうね」
「なるほど。休みはフィリポさんも?」
「そうですとも」
 直立不動の姿勢を解き、馭者はかすかにうなずく。目がきょどきょどと落ち着かない。犯人か、でなければ極度の緊張体質か。
「お二人で話をされていたのを目撃したと、助手達から報告を受け、押っ取り刀で駆けつけたんですが。わけを話してもらえます?」
「いいですよ」
 ジュディが先に口を開いた。それを見て、間髪入れずにメインは「お二人別々に」と言葉をねじ込んだ。
「とりあえず、ジュディ・カークランさん、あなたの話は私が聞きます。フィリポさんは、そちらのモリ探偵師が担当しますよ」
 これが最初からの決めごと、役割分担であったかのようにすらすらと述べるメイン。傍から成り行きを見守っていた宗平は、急な話に焦りつつも、感心していた。
 有無を言わせぬ畳み掛けに、ジュディも抗弁はあきらめた様子で、素直に従う。チェリーとメインとで彼女を前後からサンドイッチする並びになり、建物に入って行く。
「マルタ、他に使える部屋に心当たりはある?」
「なくはないですが、イルゲン・フィリポに事情聴取するのでしたら、どんな場所よりもふさわしいところがあるのでは?」
「ふさわしい……」
 謎掛けみたいに言われ、考え込んでしまう。時間を無駄にしている暇は与えられていないのだから、マルタに答を請うべきかもしれないが、当のマルタには宗平を試したがっている節が見受けらる。
「この事件の証拠について現段階で一番確かなことを考慮すれば、自ずと正解に辿り着ける。そういう観点で考えて」
「……あ」
 宗平は表情を明るくし、ほぼほったらかしにしていたフィリポへ顔を向けた。
「お待たせした。フィリポさん、あなたの部屋で話を聞かせてもらいましょう。それに、小屋の方もついでに覗きたいな。馬具やエルクサムを保管する小屋を」
 フィリポは一瞬ためらったようだったけれども、そこを乗り越えると案外あっさりと承知した。
「どうぞ」
 彼の案内で広い庭を通り抜け、仕切りを越えた向こうのさらに広い運動場を横切って、厩舎に辿り着いた。馬は出払っていて、一頭もいない。馬車の方は一台だけ少し離れた場所に置いてある。
「いつもこんな状況なの?」
「いえ、今は特別でさあ。何せ、馬の世話を主導していた自分が謹慎みたいな扱いでしょ。他に主導できる者を臨時で雇うのも引き継ぎだのやり方だので何かと手間だからってんで、馬の方をよその信頼されているところへ出したるんですよ。尤も、自分の本来の仕事である馭者――運転手はそうも行かないので、不足分は、退役された兵士さん達の中から腕に覚えのある方にお声掛けしてやってもらっているとか」
 そう語るフィリポは、借金を重ねてまでギャンブルにはまるような輩には見えない。どこにでもいる、人当たりのよい男だった。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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