第82話 対抗心
文字数 1,532文字
日にちは少し飛んで、日曜日のお昼過ぎ。
かねてから約束していた通り、シュウさんが我が家に来てくれた。食事の時間が過ぎたばかりなので、お茶は後回しにして、私の部屋に招き入れた。
「早速だけど、アンケートの方を見せてもらおうかな」
「いいよ。――はい、これ」
ひとまとめに封筒ごと渡す。
入れ替わりに、トランプ十組の入った紙袋を渡された。
「前に電話したときに言ってたやつ。ちょっとでも早めにと思って、持ってきた」
「わぁ、ありがとう」
「忘れてるかもしれないけど、用意したのは僕じゃないからね。今度、お伝えしておくよ。サイズはブリッジサイズのが八つで、一応、ポーカーサイズのも二つ入れておいたと仰ってた。小学生ぐらいの子達にはブリッジサイズの方がいいだろうって」
日本ではあんまり意識されていないけれども、正式なトランプカードの大きさには二種類ある。一つはブリッジサイズと言って横幅が約五十七ミリあり、もう一つはポーカーサイズと言って横幅は約六十三ミリになっている。縦の長さはどちらも約八十九ミリに定められてるの。ちなみにブリッジサイズはカードゲームのブリッジ用、ポーカーサイズはポーカー用というわけではなく、何にだって使っていい。
マジックに用いる場合、ポーカーサイズの方が大きいから見栄えがするという理由で好まれる傾向があると聞いてる。でも私達のような子供がマジックをするときは、小さめの方が扱いやすい。そういう理屈で、ブリッジサイズの方を多めにしてくれたってことみたい。
「金田さんのは特徴的で、分かり易くていいねえ」
笑いを堪えるようにしながら、シュウさんが言った。
「あ、それ、私も本人から聞いた。おかしいんだけど、らしさ全開で」
「思わずあの人を連想した。ああっと、漫才師で金ぴかの服を着て出て来る、お坊ちゃまキャラの、横山たかしひろしのたかしの方」
「あ、何となく分かる。ハンカチ持ってる人だよね」
「うん。ああいったキャラクターのマジシャンもありかも。舞台でどんどんお金を出すけど貧乏っていう」
「面白そうだけど、朱美ちゃんはやりたがらないだろうなあ」
でも、思い浮かべてみると……縦巻きロールの髪をしたお嬢様風マジシャンが、マジックでコインやお札を増やしに増やして、財布に入れてからまた開けてみると、空っぽになっている。頭を抱える朱美ちゃん、じゃなくてマジシャン……結構行けるんじゃないかな。
「森君……宗平君はザ・王道って感じだな。好みのジャンルはハトとか動物とか出すやつ、だって。これまで観た中で一番は、猛獣が人間になるか、人間が猛獣になるかしたマジック。略しすぎだけど、だいたい分かる」
「おかしいな。森君はクイズとかパズルが好きだから、予言マジックか、クロースアップ系の演目かと思ってた」
「ははん。もしかすると彼は、僕を試したいのかも。動物使ったマジックができるのかって」
「えー、そんな意地悪を考えてたなんて」
私の不服顔がおかしかったのか、シュウさんは「今のは僕の勝手な想像だからね」と苦笑交じりに念押しした。
「それよりも、予言マジックは……やっぱり、土屋って子が書いている。占いが趣味の子だったよね、確か」
「うん。つちりんなら予言マジックを覚えても、悪用しないって保証する」
「そんな保証、いいって。えっと他は、一番印象に残ったマジック、事細かに書いてくれてる……これは霊媒師の手とか魔女の手とか称される演目だな」
ミイラみたいに干からびた片腕が板の上で独りでに動いて、かたんかたんと音を立てることで、メッセージを発するというマジックだ。怪奇趣味たっぷりで、つちりんが好むのはよく理解できる。
つづく
かねてから約束していた通り、シュウさんが我が家に来てくれた。食事の時間が過ぎたばかりなので、お茶は後回しにして、私の部屋に招き入れた。
「早速だけど、アンケートの方を見せてもらおうかな」
「いいよ。――はい、これ」
ひとまとめに封筒ごと渡す。
入れ替わりに、トランプ十組の入った紙袋を渡された。
「前に電話したときに言ってたやつ。ちょっとでも早めにと思って、持ってきた」
「わぁ、ありがとう」
「忘れてるかもしれないけど、用意したのは僕じゃないからね。今度、お伝えしておくよ。サイズはブリッジサイズのが八つで、一応、ポーカーサイズのも二つ入れておいたと仰ってた。小学生ぐらいの子達にはブリッジサイズの方がいいだろうって」
日本ではあんまり意識されていないけれども、正式なトランプカードの大きさには二種類ある。一つはブリッジサイズと言って横幅が約五十七ミリあり、もう一つはポーカーサイズと言って横幅は約六十三ミリになっている。縦の長さはどちらも約八十九ミリに定められてるの。ちなみにブリッジサイズはカードゲームのブリッジ用、ポーカーサイズはポーカー用というわけではなく、何にだって使っていい。
マジックに用いる場合、ポーカーサイズの方が大きいから見栄えがするという理由で好まれる傾向があると聞いてる。でも私達のような子供がマジックをするときは、小さめの方が扱いやすい。そういう理屈で、ブリッジサイズの方を多めにしてくれたってことみたい。
「金田さんのは特徴的で、分かり易くていいねえ」
笑いを堪えるようにしながら、シュウさんが言った。
「あ、それ、私も本人から聞いた。おかしいんだけど、らしさ全開で」
「思わずあの人を連想した。ああっと、漫才師で金ぴかの服を着て出て来る、お坊ちゃまキャラの、横山たかしひろしのたかしの方」
「あ、何となく分かる。ハンカチ持ってる人だよね」
「うん。ああいったキャラクターのマジシャンもありかも。舞台でどんどんお金を出すけど貧乏っていう」
「面白そうだけど、朱美ちゃんはやりたがらないだろうなあ」
でも、思い浮かべてみると……縦巻きロールの髪をしたお嬢様風マジシャンが、マジックでコインやお札を増やしに増やして、財布に入れてからまた開けてみると、空っぽになっている。頭を抱える朱美ちゃん、じゃなくてマジシャン……結構行けるんじゃないかな。
「森君……宗平君はザ・王道って感じだな。好みのジャンルはハトとか動物とか出すやつ、だって。これまで観た中で一番は、猛獣が人間になるか、人間が猛獣になるかしたマジック。略しすぎだけど、だいたい分かる」
「おかしいな。森君はクイズとかパズルが好きだから、予言マジックか、クロースアップ系の演目かと思ってた」
「ははん。もしかすると彼は、僕を試したいのかも。動物使ったマジックができるのかって」
「えー、そんな意地悪を考えてたなんて」
私の不服顔がおかしかったのか、シュウさんは「今のは僕の勝手な想像だからね」と苦笑交じりに念押しした。
「それよりも、予言マジックは……やっぱり、土屋って子が書いている。占いが趣味の子だったよね、確か」
「うん。つちりんなら予言マジックを覚えても、悪用しないって保証する」
「そんな保証、いいって。えっと他は、一番印象に残ったマジック、事細かに書いてくれてる……これは霊媒師の手とか魔女の手とか称される演目だな」
ミイラみたいに干からびた片腕が板の上で独りでに動いて、かたんかたんと音を立てることで、メッセージを発するというマジックだ。怪奇趣味たっぷりで、つちりんが好むのはよく理解できる。
つづく