第161話 魔法遣いが来る金曜日
文字数 1,724文字
さあて。
そんなこんなで、いよいよ来ちゃった、金曜日。
今日の活動で、初めてシュウさんが小学校にやって来る。途中からになるので、まだ正式じゃないとは言っても、やっぱり待ちに待った“マジックの先生”の登場だ。
準備する時間はあまりなかったけれども、この日の内容に統一感を出すために、シュウさんから教えてもらったドラマをモチーフにしてみることに決めた。シュウさんの説明によれば同じシリーズの別のエピソードに、コインを使ったパズルが出てくる。聞いてみたら、森君が好きそうなやつだった。
十枚ずつコインの入った袋が十袋あって、その中の一袋はまるまる偽のコイン、残りは全て本物。偽コインは本物のコインよりも一枚につき十グラム重い。計量秤一つを一回だけ使って、どの袋が偽コインの袋かを確実に特定するにはどうすればいいでしょうか。
――こういった感じで犯人が出題して、刑事が解くという流れが描かれているとか。これをつなぎとして、まず簡単なコインマジックを、種明かしも含めて行う。次にコインのパズルを紹介する辺りでシュウさんが到着してくれるのが理想的。あとはドラマつながりで、前にシュウさんが電話越しに私にやったカレンダーによる数とマーク当てマジックの解説。これで決まり。時間が余れば、トランプの扱い方を見てもらおう。
「それでは……火曜からの流れとは関係なくなるけれども、今日はコインを使います」
やった!と朱美ちゃんが短く叫ぶ。そうだったわ、朱美ちゃんはお金関係のマジックをリクエストしてるんだった。
「普段は外国製の硬貨を使うんですが、人数分ないし、いつでもどこでもやれるマジックがいいだろうから、今日は日本の硬貨にしておきます」
「ていうことは、種明かし付き?」
陽子ちゃんが聞いてきた。あ、そうか。ちゃんと言っておかないと。
「三つやりますけど、種明かしは最後の一つだけです」
「分かった。どうでもいいけど、今日は言葉が変に丁寧だね、サクラ」
「え、そう?」
「うん。みんなもそう思わない?」
陽子ちゃんの問い掛けに、ほぼ全員がうなずいた。首を振らなかったのは、先生と不知火さんくらいで、不知火さんはにこにこしてるからうなずいたも同然だし、先生は今日がシュウさん受け入れ初日だからか、そちらに気を取られてあんまり身を入れて聞いてくれてないみたい。
「ほらね。マジックを演じてるときだけならともかくさ、教えてくれるときはもっとざっくばらんでいいんじゃないの」
「分かった。多分、シュウさんが来ると思うと、見られている気がして、緊張してたんだと思う」
持っていた五百円玉を一旦、テーブルに置き、両手のひらの汗を拭う仕種をしてから深呼吸。
「まずは、前に苦労して見付けてきたマットを、もっと活用しないといけないと思って」
正確にはマットではなく、習字の下敷き。もちろん奇術専用ではないけれども、充分に役立つと分かったので、使ってみよう。
マットを十字に四分割した感じに見立て、それぞれの升に五百円玉を置いていく。
「それともう一つ使う道具が、トランプのカードを四枚」
前もって取り分けておいたカードをポケットから出す。それらをさっきの各五百円玉を隠すようにして、上に置いていく。
「トランプマジックになるんじゃね?」
始めない内から、森君が聞いてきた。
「トランプは目隠しに使うだけだから、コインマジックよ」
本心を言うと、このタイミングであまり話し掛けてこないでほしい。手順の最終確認を頭の中でしてたんだから。もちろん、私が未熟なのは認める。本当に究めた人であれば、考えるよりも先に手が動くんだと思う。
なんて考えている矢先に、ちょっとしたミスに思い当たった。
「あ、本来なら、先に道具をお客さんに渡して、調べてもらってもいいんだけど、今日は省略させてください」
真っ正直に断りを入れて、今度こそスタートよ。さっきも言ったように、まだ熟練の域には達していないので、口上を色々と語る余裕がない。代わりに、「よーく、見ておいて」とみんなの注意を、四つ見えてるカードの一つ、私の側から見て右手前のカードに向けさせた。
つづく
そんなこんなで、いよいよ来ちゃった、金曜日。
今日の活動で、初めてシュウさんが小学校にやって来る。途中からになるので、まだ正式じゃないとは言っても、やっぱり待ちに待った“マジックの先生”の登場だ。
準備する時間はあまりなかったけれども、この日の内容に統一感を出すために、シュウさんから教えてもらったドラマをモチーフにしてみることに決めた。シュウさんの説明によれば同じシリーズの別のエピソードに、コインを使ったパズルが出てくる。聞いてみたら、森君が好きそうなやつだった。
十枚ずつコインの入った袋が十袋あって、その中の一袋はまるまる偽のコイン、残りは全て本物。偽コインは本物のコインよりも一枚につき十グラム重い。計量秤一つを一回だけ使って、どの袋が偽コインの袋かを確実に特定するにはどうすればいいでしょうか。
――こういった感じで犯人が出題して、刑事が解くという流れが描かれているとか。これをつなぎとして、まず簡単なコインマジックを、種明かしも含めて行う。次にコインのパズルを紹介する辺りでシュウさんが到着してくれるのが理想的。あとはドラマつながりで、前にシュウさんが電話越しに私にやったカレンダーによる数とマーク当てマジックの解説。これで決まり。時間が余れば、トランプの扱い方を見てもらおう。
「それでは……火曜からの流れとは関係なくなるけれども、今日はコインを使います」
やった!と朱美ちゃんが短く叫ぶ。そうだったわ、朱美ちゃんはお金関係のマジックをリクエストしてるんだった。
「普段は外国製の硬貨を使うんですが、人数分ないし、いつでもどこでもやれるマジックがいいだろうから、今日は日本の硬貨にしておきます」
「ていうことは、種明かし付き?」
陽子ちゃんが聞いてきた。あ、そうか。ちゃんと言っておかないと。
「三つやりますけど、種明かしは最後の一つだけです」
「分かった。どうでもいいけど、今日は言葉が変に丁寧だね、サクラ」
「え、そう?」
「うん。みんなもそう思わない?」
陽子ちゃんの問い掛けに、ほぼ全員がうなずいた。首を振らなかったのは、先生と不知火さんくらいで、不知火さんはにこにこしてるからうなずいたも同然だし、先生は今日がシュウさん受け入れ初日だからか、そちらに気を取られてあんまり身を入れて聞いてくれてないみたい。
「ほらね。マジックを演じてるときだけならともかくさ、教えてくれるときはもっとざっくばらんでいいんじゃないの」
「分かった。多分、シュウさんが来ると思うと、見られている気がして、緊張してたんだと思う」
持っていた五百円玉を一旦、テーブルに置き、両手のひらの汗を拭う仕種をしてから深呼吸。
「まずは、前に苦労して見付けてきたマットを、もっと活用しないといけないと思って」
正確にはマットではなく、習字の下敷き。もちろん奇術専用ではないけれども、充分に役立つと分かったので、使ってみよう。
マットを十字に四分割した感じに見立て、それぞれの升に五百円玉を置いていく。
「それともう一つ使う道具が、トランプのカードを四枚」
前もって取り分けておいたカードをポケットから出す。それらをさっきの各五百円玉を隠すようにして、上に置いていく。
「トランプマジックになるんじゃね?」
始めない内から、森君が聞いてきた。
「トランプは目隠しに使うだけだから、コインマジックよ」
本心を言うと、このタイミングであまり話し掛けてこないでほしい。手順の最終確認を頭の中でしてたんだから。もちろん、私が未熟なのは認める。本当に究めた人であれば、考えるよりも先に手が動くんだと思う。
なんて考えている矢先に、ちょっとしたミスに思い当たった。
「あ、本来なら、先に道具をお客さんに渡して、調べてもらってもいいんだけど、今日は省略させてください」
真っ正直に断りを入れて、今度こそスタートよ。さっきも言ったように、まだ熟練の域には達していないので、口上を色々と語る余裕がない。代わりに、「よーく、見ておいて」とみんなの注意を、四つ見えてるカードの一つ、私の側から見て右手前のカードに向けさせた。
つづく