第144話 森の中の王女様
文字数 1,528文字
「魔法が存在する世界で、いかにして捜査が成り立つのか、興味あるなあ」
陽子ちゃんが言うと、つちりんが呼応して、
「いえ、それを言うのなら、捜査に魔法をどう役立てるか、だと思う」
と意見を述べる。そこへ朱美ちゃんが、
「私が想像するに、きっと魔法捜査官がいて、特別料金で受けるんだよ。お金持ちほど早く事件解決」
と、らしいことを述べた。不知火さんは水原さんとアイコンタクトして、
「密室くらい、魔法で簡単に作れそうです」
と誰もが一番に考えそうなことを敢えて言った。それを受けて私が、森君に聞く。
「でも実際に違うんでしょ? 魔法で密室を作ってた、なんて解決があり得るんだったら、森君も気にしてないと思うから」
「ん、まあ、そうなんだ。お城全体にはロガーというものが張り巡らされていて――違ったかな? 張り巡らせるというか、防犯装置みたいなもので、何時台に誰が魔法を使ったかが、いちいち記録されるっていう道具らしい」
「へえー、ふうん、それは便利です。ご都合主義を感じるけど、面白い」
水原さんが何だか作家さん的立場から評価したみたい。
「その装置は当然、改竄は不可能なんでしょう」
「かいざん?」
水原さんの口にした単語に首を傾げた森君。すかさず、不知火さんが説明する。
「今の場合だと、記録した内容を勝手に書き換える、という風な意味です」
「ああ。それだったら多分、改竄は不可能だよ。書き換えられるようなら、みんながみんなあんな具合に全面的に信頼しちゃいないだろうな」
夢の話、しかも森君自身が見た夢について言っているのに、多分と表現するのはどことなくおかしかった。
「では犯行があったと推定される時間帯に、ロガーに魔法を使ったと記録された人物がいたんですね」
「うん、三人いた」
そのあと森君が話した“容疑者”達は、
@イルゲン・フィリポ
:馭者。ギャンブル好きで被害者から多額の借金。0時台に壁を作る魔法
@ジュディ・カークラン
:政務官の秘書。被害者のかつての恋人。0時台に水を操る魔法
@マギー・セイクリッド
:王の二番目の子で王女。二十三時台に人の体内の異物を同じ重さの物体と交換する魔法
とのことだった。うーん、ぱっと飲み込めないことがたくさんあるわね。それはみんなも同じで、
「とりあえず、フィリポって人の壁を作る魔法って何?」「王女の、体内の異物と同じ重さなんとかかんとかっていうのも、イメージできないわ」「王女には動機があるの?」「この三名は、誰かに似ている?」
というような疑問・質問の矢が雨あられとなって、森君に降り注ぐ。
これらに対し、一つ一つ答えていったあと、最後の、事件解決には多分役に立ちそうにない容疑者達は現実の世界の誰かに似ているのかっていう話に差し掛かる。と、それまで割とすらすら答えていた森君が、急ブレーキが掛かったみたいに言い淀む。
「それはちょっと答えづらいものが」
天井を斜めに見上げてやり過ごそうとするけれども、全然効果なし。
「何でよ。いないならいないでいいじゃない」
「答えづらいと言うからには、誰か似ている人がいるのですね」
「夢の話なんだし、本人に知られたとしたって、怒りゃしないわよ」
「そうそう。私達が責任持つから」
などと調子のいい言葉を挟んで促すが、森君も案外口が重い。とうとう、それまで静かに傍観していた相田先生が会話に入って来た。
「大方、先生に似てるんじゃないのか。差し詰め、この相田克之がその馭者辺りで、極悪人の顔にデフォルメされてるんだろ?」
気楽な調子で想像を述べる。これが当たっているのなら、森君も話しやすくなるはず、だよね?
つづく
陽子ちゃんが言うと、つちりんが呼応して、
「いえ、それを言うのなら、捜査に魔法をどう役立てるか、だと思う」
と意見を述べる。そこへ朱美ちゃんが、
「私が想像するに、きっと魔法捜査官がいて、特別料金で受けるんだよ。お金持ちほど早く事件解決」
と、らしいことを述べた。不知火さんは水原さんとアイコンタクトして、
「密室くらい、魔法で簡単に作れそうです」
と誰もが一番に考えそうなことを敢えて言った。それを受けて私が、森君に聞く。
「でも実際に違うんでしょ? 魔法で密室を作ってた、なんて解決があり得るんだったら、森君も気にしてないと思うから」
「ん、まあ、そうなんだ。お城全体にはロガーというものが張り巡らされていて――違ったかな? 張り巡らせるというか、防犯装置みたいなもので、何時台に誰が魔法を使ったかが、いちいち記録されるっていう道具らしい」
「へえー、ふうん、それは便利です。ご都合主義を感じるけど、面白い」
水原さんが何だか作家さん的立場から評価したみたい。
「その装置は当然、改竄は不可能なんでしょう」
「かいざん?」
水原さんの口にした単語に首を傾げた森君。すかさず、不知火さんが説明する。
「今の場合だと、記録した内容を勝手に書き換える、という風な意味です」
「ああ。それだったら多分、改竄は不可能だよ。書き換えられるようなら、みんながみんなあんな具合に全面的に信頼しちゃいないだろうな」
夢の話、しかも森君自身が見た夢について言っているのに、多分と表現するのはどことなくおかしかった。
「では犯行があったと推定される時間帯に、ロガーに魔法を使ったと記録された人物がいたんですね」
「うん、三人いた」
そのあと森君が話した“容疑者”達は、
@イルゲン・フィリポ
:馭者。ギャンブル好きで被害者から多額の借金。0時台に壁を作る魔法
@ジュディ・カークラン
:政務官の秘書。被害者のかつての恋人。0時台に水を操る魔法
@マギー・セイクリッド
:王の二番目の子で王女。二十三時台に人の体内の異物を同じ重さの物体と交換する魔法
とのことだった。うーん、ぱっと飲み込めないことがたくさんあるわね。それはみんなも同じで、
「とりあえず、フィリポって人の壁を作る魔法って何?」「王女の、体内の異物と同じ重さなんとかかんとかっていうのも、イメージできないわ」「王女には動機があるの?」「この三名は、誰かに似ている?」
というような疑問・質問の矢が雨あられとなって、森君に降り注ぐ。
これらに対し、一つ一つ答えていったあと、最後の、事件解決には多分役に立ちそうにない容疑者達は現実の世界の誰かに似ているのかっていう話に差し掛かる。と、それまで割とすらすら答えていた森君が、急ブレーキが掛かったみたいに言い淀む。
「それはちょっと答えづらいものが」
天井を斜めに見上げてやり過ごそうとするけれども、全然効果なし。
「何でよ。いないならいないでいいじゃない」
「答えづらいと言うからには、誰か似ている人がいるのですね」
「夢の話なんだし、本人に知られたとしたって、怒りゃしないわよ」
「そうそう。私達が責任持つから」
などと調子のいい言葉を挟んで促すが、森君も案外口が重い。とうとう、それまで静かに傍観していた相田先生が会話に入って来た。
「大方、先生に似てるんじゃないのか。差し詰め、この相田克之がその馭者辺りで、極悪人の顔にデフォルメされてるんだろ?」
気楽な調子で想像を述べる。これが当たっているのなら、森君も話しやすくなるはず、だよね?
つづく