第258話 たまには恋バナっぽいものも
文字数 2,041文字
「もしかしたら桂崎さんも同じイメージをお持ちかもしれません。私達のようなマジックを趣味にしている子供に、宝探しの話を打ち明けてくださるのは、手先の器用さや頭の柔らかさの他に、男性の人手に期待してのことかも」
「男性のヒトデ?」
ぼけたわけじゃなく、ほんとに聞いてすぐには文字が浮かばなかったの。じきに気が付いたけれども、話の真意にはまだ思い至らなかった。
「はい。実際に宝を見付けるつもりなら、土を掘ったり運んだりする必要が出て来そうです」
「いや、さすがにそこまでは期待されてないと思うよ」
つい、苦笑いを浮かべて言った。そこへ、森君が口を挟んできた。男子の話題になってから、話にはいるタイミングを狙っていたみたい。
「掘り出す必要があると分かったら、ちゃんと大人の応援を呼ぶに決まってるぜ。それよか不知火さん、何か変じゃないかー? いつもはもっと理屈で押してくるのに、今日は行き当たりばったりに見える」
「そうでしょうか?」
「ああ。もしかすると今度の日曜、何か大事な用事があるとか? だったらはっきり言ってくれた方が、みんなのためだと思うぜ」
「いえ、時間は空いています」
「じゃあ、俺にマジックをやらせたい訳でもあるのかいな? 男子を含めるとなったら、俺しかいないんだから、そうなるよな?」
「うーん、まあそれもあるのですが……」
言い淀む不知火さん。珍しい。森君の指摘で気が付いたけれども、いつもに比べて歯切れが悪いのがはっきり分かった。
と、不知火さんが私の方を見る。
「変な意味ではなく、女子と男子が仲よくやっているサークルの方が、そうでないグループよりも好感を持たれると思いませんか」
「そりゃまあ、ぎすぎすしているよりはよほどいいけど」
そう答えたんだけど、不知火さんはどことなく不満そう。何か求められている答があるんだろうなとは察したけれども、その答が何かが全然分からない。よっぽど直に聞こうかなと、言葉が出掛かった寸前に、陽子ちゃんが「あ」と小さく手を叩いて、私のそばに駆け寄ってきた。そして耳打ちしてくる。
「何?」
「想像なんだけど、不知火さんてもしかしたら」
陽子ちゃんの“想像”を耳にして、私は自分が多少赤面するのを意識した。その飛躍した“想像”が当たっているかどうかは分からない。とにかく、不知火さんの意見を入れて、私と朱美ちゃんと森君とで桂崎さんのお宅にお邪魔することに決めた。
待ち合わせ場所は最寄りの駅。といっても日常的によく利用している鉄道会社のそれではなく、滅多に乗らない会社の路線だ。
今日は相田先生の都合付かず、私のお母さんをはじめとする保護者各位も同様に忙しい。電車で移動するほかないのだ。十分近く早めに到着すると、その直後に朱美ちゃんが現れた。「おはよ」と挨拶を交わしてから、森君がまだ来ていないことを確かめると、そのままおしゃべりしながら待つ流れに。
「彼が来る前に聞いとこ。金曜のことなんだけどさぁ」
宝探しで頭がいっぱいかなと思っていた朱美ちゃんが、意外にも一昨日の話を切り出してきた。
「木之元さんの耳打ち、何だったのかな」
「あれは……」
「お、すんなり教えてくれるんだ。じゃあ先に当てさせて」
「え? 想像が付いているの?」
ちょっとびっくりして、まじまじと見返す。朱美ちゃんは歯を覗かせ、きししと音が聞こえてきそうな笑みを作った。
「分かんない、勘。ひょっとして、不知火さんが森君とあなたとをくっつけようとしてるんじゃない?みたいな意味のことを、木之元さんは言ったんじゃないかなと思った」
「あ、当たり」
当てられた驚きが、恥ずかしさを上回った。
と、ちょうどのそのとき、自転車によるものと思しきブレーキの音がした。道路の方を振り返ると、自転車置き場に向かう森君の姿が見えた。タイミングがいいというか、間が悪いというか……普段意識しているわけじゃないのに、意識してしまいそう。
幸い、向こうは私達がすでに着いていることに気付いてないみたい。今の内に、自分で自分の頬をほぐして、変な感じを振り払っておこうっと。
「森君、五年生男子の中では、少なくとも半分より上にランクされると思うんだけど、どうかなあ。ときと場合に寄っちゃあ、上位三分の一を狙えるかも」
「な、何の話」
朱美ちゃんがおかしな話を続けるから、なかなか平常心に戻れない。
「だから五年全男子の総合的な評価」
「朱美ちゃん、じゃなくて金田さんてば、そんなこと普段から考えているの?」
ささやかな逆襲のつもりで言ってみた。だけど、朱美ちゃんはけろりとして首を縦に振る。
「もちろんよ。人を見る目っていうのは大事なんだよぉ~。何たって、稼ぎのいい男をつかまえるためにもなるでしょ」
「あ、そういう……」
思わず納得顔をしてしまった、かも。でも朱美ちゃんに気を悪くした様子は見られなくて、ほっとする。
「もち、高学歴高収入高身長っていうだけで異性を測るなんてばかな真似はしないわよ」
朱美ちゃんはどうしてだか胸を張った。
「男性のヒトデ?」
ぼけたわけじゃなく、ほんとに聞いてすぐには文字が浮かばなかったの。じきに気が付いたけれども、話の真意にはまだ思い至らなかった。
「はい。実際に宝を見付けるつもりなら、土を掘ったり運んだりする必要が出て来そうです」
「いや、さすがにそこまでは期待されてないと思うよ」
つい、苦笑いを浮かべて言った。そこへ、森君が口を挟んできた。男子の話題になってから、話にはいるタイミングを狙っていたみたい。
「掘り出す必要があると分かったら、ちゃんと大人の応援を呼ぶに決まってるぜ。それよか不知火さん、何か変じゃないかー? いつもはもっと理屈で押してくるのに、今日は行き当たりばったりに見える」
「そうでしょうか?」
「ああ。もしかすると今度の日曜、何か大事な用事があるとか? だったらはっきり言ってくれた方が、みんなのためだと思うぜ」
「いえ、時間は空いています」
「じゃあ、俺にマジックをやらせたい訳でもあるのかいな? 男子を含めるとなったら、俺しかいないんだから、そうなるよな?」
「うーん、まあそれもあるのですが……」
言い淀む不知火さん。珍しい。森君の指摘で気が付いたけれども、いつもに比べて歯切れが悪いのがはっきり分かった。
と、不知火さんが私の方を見る。
「変な意味ではなく、女子と男子が仲よくやっているサークルの方が、そうでないグループよりも好感を持たれると思いませんか」
「そりゃまあ、ぎすぎすしているよりはよほどいいけど」
そう答えたんだけど、不知火さんはどことなく不満そう。何か求められている答があるんだろうなとは察したけれども、その答が何かが全然分からない。よっぽど直に聞こうかなと、言葉が出掛かった寸前に、陽子ちゃんが「あ」と小さく手を叩いて、私のそばに駆け寄ってきた。そして耳打ちしてくる。
「何?」
「想像なんだけど、不知火さんてもしかしたら」
陽子ちゃんの“想像”を耳にして、私は自分が多少赤面するのを意識した。その飛躍した“想像”が当たっているかどうかは分からない。とにかく、不知火さんの意見を入れて、私と朱美ちゃんと森君とで桂崎さんのお宅にお邪魔することに決めた。
待ち合わせ場所は最寄りの駅。といっても日常的によく利用している鉄道会社のそれではなく、滅多に乗らない会社の路線だ。
今日は相田先生の都合付かず、私のお母さんをはじめとする保護者各位も同様に忙しい。電車で移動するほかないのだ。十分近く早めに到着すると、その直後に朱美ちゃんが現れた。「おはよ」と挨拶を交わしてから、森君がまだ来ていないことを確かめると、そのままおしゃべりしながら待つ流れに。
「彼が来る前に聞いとこ。金曜のことなんだけどさぁ」
宝探しで頭がいっぱいかなと思っていた朱美ちゃんが、意外にも一昨日の話を切り出してきた。
「木之元さんの耳打ち、何だったのかな」
「あれは……」
「お、すんなり教えてくれるんだ。じゃあ先に当てさせて」
「え? 想像が付いているの?」
ちょっとびっくりして、まじまじと見返す。朱美ちゃんは歯を覗かせ、きししと音が聞こえてきそうな笑みを作った。
「分かんない、勘。ひょっとして、不知火さんが森君とあなたとをくっつけようとしてるんじゃない?みたいな意味のことを、木之元さんは言ったんじゃないかなと思った」
「あ、当たり」
当てられた驚きが、恥ずかしさを上回った。
と、ちょうどのそのとき、自転車によるものと思しきブレーキの音がした。道路の方を振り返ると、自転車置き場に向かう森君の姿が見えた。タイミングがいいというか、間が悪いというか……普段意識しているわけじゃないのに、意識してしまいそう。
幸い、向こうは私達がすでに着いていることに気付いてないみたい。今の内に、自分で自分の頬をほぐして、変な感じを振り払っておこうっと。
「森君、五年生男子の中では、少なくとも半分より上にランクされると思うんだけど、どうかなあ。ときと場合に寄っちゃあ、上位三分の一を狙えるかも」
「な、何の話」
朱美ちゃんがおかしな話を続けるから、なかなか平常心に戻れない。
「だから五年全男子の総合的な評価」
「朱美ちゃん、じゃなくて金田さんてば、そんなこと普段から考えているの?」
ささやかな逆襲のつもりで言ってみた。だけど、朱美ちゃんはけろりとして首を縦に振る。
「もちろんよ。人を見る目っていうのは大事なんだよぉ~。何たって、稼ぎのいい男をつかまえるためにもなるでしょ」
「あ、そういう……」
思わず納得顔をしてしまった、かも。でも朱美ちゃんに気を悪くした様子は見られなくて、ほっとする。
「もち、高学歴高収入高身長っていうだけで異性を測るなんてばかな真似はしないわよ」
朱美ちゃんはどうしてだか胸を張った。