第104話 魔法遣いに気を遣う

文字数 1,315文字

「改めて、よろしく」
 宗平はやっと決まった助手、マルタ・ソラールとがっちり握手した。
 もうすでにシーラはそばにいない。探偵師の選抜隊が事件についての結論を出す場にはまた現れると言っていた。
「何で私を選んだのかしら、えっと、モリアーティ?」
「名前は森か宗平でいいよ」
「モリアーティのモリだね。じゃあ、モリ。選んだ理由は」
 会議のために用意された部屋に向かいつつ、改めて聞いてきた。
「……気を悪くしないでもらいたいんだけど、シーラが決めたんだ。ライバルのことをよく知っているのに加えて、今度の事件についても一通り説明できるくらいに詳しいだろうって聞いた」
「なるほど。一番美人だから選んだのではないと」
「――」
「冗談だ」
 さっさと先を歩くマルタ。彼女の後ろ姿を見ながら、宗平は首を傾げた。
(木之元さんてこんな感じだったか? もっと真面目で、サクラのお守り役みたいに見てたんだが。いや、もちろん、マルタと木之元さんは似てるだけで、同一人物ではないんだけれども)
 王宮で最初に通された部屋に戻ってきた。扉が開け放たれたままだったので、そのドアの表面をノックしながら言う。
「待たせたかな」
「待ったわよ」
 サクラ、もとい、チェリーがややつっけんどんに言う。待たされてご機嫌斜めになっているようだ。両手で掴んでいる書類に、ちょっとしわが寄っている。
「待つ時間は思索に当てていた。何も気に病む必要はない」
 一方、余裕たっぷりのシュール・メイン。続けて、「事件の概要は聞いたかい?」と言った。
「いや、まだ」
「だったらここは、僕に説明させてくれないか」
 メインの表情は朗らかそのもので、余裕たっぷりに見えた。しゃべり口調も、最前は職務上の気遣いが感じられたのに対し、今では年下の者に対する気さくさが露わになっている。
「そうすれば僕の見解も合わせて伝えられるから、効率的だと思うんだ」
「……いいけど」
「けど、何?」
「あなたの意見に反論がある場合、どのタイミングですればいいのかと思って」
「うーん、途中で一つ一つ聞いていたら煩雑になる恐れが高い。あとでまとめて聞くことにしてよいかな?」
「了解。――マルタもよく聞いておいて」
 こうして微妙な緊張感が漂う中、メインが上座に立って、話し始めた。

「事件が発覚したのは七日前。王宮内で関係者の変死という前代未聞の事態に一刻も早い真相解明と犯人逮捕が望まれるも、四日間が経過しても解決への目処が立たないため、こうして僕らが選抜された」
「目処が立たないのは、最有力容疑者が王女様だからでしょう?」
 いきなり割って入ったのはマルタ。反論とは言えないかもしれないが、途中で口を挟むのはまずい。察した宗平は、マルタに注意した。
「マ、マルタ。その辺のことは後回しに。できれば相手にも謝ってくれないかなーと」
「これは失礼を。先程の決め事は、メイン探偵師とモリ探偵師の間のみで成立したものと解釈しておりました」
 慇懃無礼に頭を下げるマルタ。メインとの間に何か因縁でもあるのか? 勘繰りたくなるほど競争心剥き出しだ。ただ、表情は冷静沈着に見えるが。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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