第120話 思わぬ遭遇
文字数 1,259文字
「いや、別に遠回りになるわけじゃない。大前提として我々探偵師は捜査に関し、基本的には完全に独立しており、自由なんだか、どこを調べてもいい。とはいえ、守るべきマナーや暗黙の了解はある。それには、城の者が一人同行していればいいんだ。使用人を掴まえて頼んでみよう。チェリーかマルタ、あるいは最初に君といたシーラだったか、彼女達の内の誰かをよこしてくれるように」
「その頼む相手を探す手間が掛かりそうだ。あっ」
宗平が言った矢先、突き当たりの廊下の角を折れて、メイドらしき若い女性――女子が通りかかった。俯きがちで、かつ、大きな眼鏡を掛けており、表情はよく見えない。ともあく、これ幸いと宗平が声を掛ける。
「おーい! ちょっといいかな。忙しそうなところを悪いんだけど」
宗平が言うように、そのメイドはスカートを翻さんばかりの勢いで歩いてくる。力強い急ぎ足に宗平だけでなくメインまでもやや怯んだ様子になる。が、ここで道を空けては通り過ぎてしまうと思い、宗平は敢えて立ちはだかった。
「頼む、止まって、ストップ」
そういえばこの世界でも、日本語に英語が混じっていようが全く問題なしに通じてるなと、遅まきながら意識した。
そんな宗平のすぐ目の前で、メイドはピタッと立ち止まった。そして面を上げることなく、早口でしゃべる。
「言われなくとも立ち止まります。私の方があなた方に用があったのですから」
宗平は気持ち、身を後ろにそらしつつ思った。メイドさんにしてはやけに高圧的だな。言葉遣いも、丁寧語を入れているのに何故か居丈高な風に聞こえる、と。
「用? すまないけど、あとで聞く。先にこちらの用事を言付かってほしい」
交渉する宗平の横で、メインがメイドの顔を覗き込んだ。彼は一瞬眉根を寄せて訝しんだかと思うと、「あ」と息の漏れるような声で言った。
「モリ探偵師。彼女の顔をよく見るんだ」
「え、顔?」
言われた宗平が、メインと同様に覗き込もうとしたが、相手が顔を上げる方が早かった。
「うん? チェリー?」
チェリーによく似た顔立ちの女子が、大ぶりな眼鏡にメイド服姿でいる。
宗平はすぐに気がついた。
「いや、チェリーじゃないな。あの子の姉妹かな?」
「初対面で見分けるとは、なかなかの慧眼。感心しました」
“上から目線”をにじませた口ぶりのメイドは、眼鏡を外してゆるりとした動作で畳み、服の前ポケットに仕舞った。
「モリ探偵師。君はまさか知らないのか」
無反応でいる宗平を心配したように、メインが言い、肘で脇腹をつついてきた。いつの間にか片膝を床に着いて、敬意を示すポーズを取っている。その対象は、メイドのようだ。
「えっ、何なに? このメイドさん、実はメイドさんじゃなくて偉い人?」
「――まったく、信じられない反応だな。マギー王女その人だよ」
「ほわ?」
頭の中で混乱が渦を巻く。佐倉萌莉とそっくりなチェリーのそのまたそっくりのメイドが、実は王女様だって? 何だよその設定は。意味分かんねー。
つづく
「その頼む相手を探す手間が掛かりそうだ。あっ」
宗平が言った矢先、突き当たりの廊下の角を折れて、メイドらしき若い女性――女子が通りかかった。俯きがちで、かつ、大きな眼鏡を掛けており、表情はよく見えない。ともあく、これ幸いと宗平が声を掛ける。
「おーい! ちょっといいかな。忙しそうなところを悪いんだけど」
宗平が言うように、そのメイドはスカートを翻さんばかりの勢いで歩いてくる。力強い急ぎ足に宗平だけでなくメインまでもやや怯んだ様子になる。が、ここで道を空けては通り過ぎてしまうと思い、宗平は敢えて立ちはだかった。
「頼む、止まって、ストップ」
そういえばこの世界でも、日本語に英語が混じっていようが全く問題なしに通じてるなと、遅まきながら意識した。
そんな宗平のすぐ目の前で、メイドはピタッと立ち止まった。そして面を上げることなく、早口でしゃべる。
「言われなくとも立ち止まります。私の方があなた方に用があったのですから」
宗平は気持ち、身を後ろにそらしつつ思った。メイドさんにしてはやけに高圧的だな。言葉遣いも、丁寧語を入れているのに何故か居丈高な風に聞こえる、と。
「用? すまないけど、あとで聞く。先にこちらの用事を言付かってほしい」
交渉する宗平の横で、メインがメイドの顔を覗き込んだ。彼は一瞬眉根を寄せて訝しんだかと思うと、「あ」と息の漏れるような声で言った。
「モリ探偵師。彼女の顔をよく見るんだ」
「え、顔?」
言われた宗平が、メインと同様に覗き込もうとしたが、相手が顔を上げる方が早かった。
「うん? チェリー?」
チェリーによく似た顔立ちの女子が、大ぶりな眼鏡にメイド服姿でいる。
宗平はすぐに気がついた。
「いや、チェリーじゃないな。あの子の姉妹かな?」
「初対面で見分けるとは、なかなかの慧眼。感心しました」
“上から目線”をにじませた口ぶりのメイドは、眼鏡を外してゆるりとした動作で畳み、服の前ポケットに仕舞った。
「モリ探偵師。君はまさか知らないのか」
無反応でいる宗平を心配したように、メインが言い、肘で脇腹をつついてきた。いつの間にか片膝を床に着いて、敬意を示すポーズを取っている。その対象は、メイドのようだ。
「えっ、何なに? このメイドさん、実はメイドさんじゃなくて偉い人?」
「――まったく、信じられない反応だな。マギー王女その人だよ」
「ほわ?」
頭の中で混乱が渦を巻く。佐倉萌莉とそっくりなチェリーのそのまたそっくりのメイドが、実は王女様だって? 何だよその設定は。意味分かんねー。
つづく