第180話 最も疑り深い人募集中
文字数 1,957文字
「なるほどなあ。ほんとの最初で全ての仕込みは終わっていたのか、すげえ巧妙」
感嘆の声をいの一番に上げたのはいつものように?森君である。
「そう。一度目のファイブカードを作るときに紛れさせて、一緒にやっていた。あとは途中でお客からまたカード切ってとか言われないよう、スピーディに最後までやりきるのがこつと言えるかもしれない」
「マジックをやる人自身を入れて、五人でなければできないのかな、これって」
陽子ちゃんが指を折って数える仕種をしながら、疑問を口にした。そうやって数えているところを見ると、すでに答は見付けている気もするけれど。
「いや、五人じゃなくてもできるよ。ただ、セッティングが一気にややこしくなるから」
「あ、やっぱり」
「うん、さっきみたいに四枚のエースとジョーカーを選ぶ動作に紛れさせて、複雑な順序にスペードの10からキングを並べていくのは難しいだろうね。時間を掛ければできるに決まっているけれども、そんなもたもたしていたらお客に怪しまれてしまう」
「そっかー、残念だわ」
「五名以外の人数でどうしてもやりたいときは、最初からカードの順番をセットして、舞台に上がるしかないかな。カードをシャッフルする動作ができなくなるけれども」
シュウさんはそう言ったけれども、カードをシャッフルしたように見せ掛けて実際には順番は変わっていない、というテクニックはある。私はまだ練習中でできないけど。このマジックサークルの活動の中でマスターできたらいいな。
「さて、今のマジックは手順さえ覚えれば割と簡単にできると思うので、ここではいちいちレクチャーしないよ。一週間練習してみてここが分からない、ここがうまく行かないという箇所があれば言ってきて。教えるから」
「はーい」
返事が揃ったところで、シュウさんが私の方を見た。
「では次は、萌莉が、いや佐倉がお待ちかねの予言マジックの実演及び解説と行こうか」
やった。ほんと、待ってました!だよ。
でも……この教室には月めくりタイプのカレンダーはあっても、固定電話がないんだけれどもシュウさん、どうするつもりなんだろう? 携帯端末でも使うのかしら。
「誰か一人、手伝ってほしいんだけどどうしようかな」
教卓を両腕でサイドからがっしり掴み、私達を見回すシュウさん。だんだん先生っぽく見えてきたわ。今は師匠だけどね。
「佐倉はすでに一度体験しているわけだから、遠慮願うとして」
だよね~。分かっていますとも。
「それじゃあ残る五人の中で一番、僕のことを信用してない人、一番疑り深い人は手を挙げて。はい!?」
「その言われ方だと挙手しづらいです」
不知火さんが尤もな指摘をした。実際、誰も手を挙げちゃいない。と、ここで陽子ちゃんが口を開く。
「シュウさん師匠を最も信用していないというのは、森君で決まりだと思うけど」
「し、信用はしてるさ。ただ何となく……」
否定した森君に、陽子ちゃんが「何となく?」とおうむ返しに尋ねる。
「ときと場合によっちゃあ、気に入らないこともあるってだけだ」
「はは。そりゃすまないが、僕の力ではどうにもならない。直しようがないな」
シュウさんの表情いっぱいに苦笑いが広がる。
「ところで木之元さん」
「ははい?」
相変わらず意表を突いて名を呼ばれると弱い陽子ちゃん。がたがたっと机と椅子が音を立てた。
「今の言い方だと、僕を信用していない人と、疑り深い人を分けてくれたみたいだけど、サークルで一番疑り深い人は誰なんだろう?」
「うーん、疑り深さっていうのは様々な物差しがあると思ってるから……」
答えながら朱美ちゃんの方を向き、目で呼び掛けるようにしてから話を再開する。
「たとえばの話、お金が絡むと疑り深さがますでしょう?」
「もっちろん。お金は大事だもの」
「推理小説を読んでいるときなら水原さんが多分一番。言葉に関わることなら不知火さん」
「じゃあ私は?」
つちりんが自らを指差しながら、陽子ちゃんの方へ振り返る。
「うーんとね。つちりんは占いに凝ってる割に、意外と素直で騙されやすいところがあると見た」
「え、ていうことは」
「この中では一番疑り深くない、素直な子だよ」
「わーい。って喜んでいていいのかな?」
何とも言えない微妙な顔をして、小首を傾げるつちりん。
「よし、じゃあ、それだけ人間観察力に優れた木之元さん、君にお手伝いを頼もう」
「あれ、そう来ましたか」
「観察力と疑り深さはそこそこ近いと思うんだ。気に入らなければ辞退してくれてもいいよ」
「ううん。やります。サクラが引っ掛かった上に面白がるマジックを、私も体験してみたかったんだよね」
「よし、じゃあ決まりだ。みんな拍手~」
つづく
感嘆の声をいの一番に上げたのはいつものように?森君である。
「そう。一度目のファイブカードを作るときに紛れさせて、一緒にやっていた。あとは途中でお客からまたカード切ってとか言われないよう、スピーディに最後までやりきるのがこつと言えるかもしれない」
「マジックをやる人自身を入れて、五人でなければできないのかな、これって」
陽子ちゃんが指を折って数える仕種をしながら、疑問を口にした。そうやって数えているところを見ると、すでに答は見付けている気もするけれど。
「いや、五人じゃなくてもできるよ。ただ、セッティングが一気にややこしくなるから」
「あ、やっぱり」
「うん、さっきみたいに四枚のエースとジョーカーを選ぶ動作に紛れさせて、複雑な順序にスペードの10からキングを並べていくのは難しいだろうね。時間を掛ければできるに決まっているけれども、そんなもたもたしていたらお客に怪しまれてしまう」
「そっかー、残念だわ」
「五名以外の人数でどうしてもやりたいときは、最初からカードの順番をセットして、舞台に上がるしかないかな。カードをシャッフルする動作ができなくなるけれども」
シュウさんはそう言ったけれども、カードをシャッフルしたように見せ掛けて実際には順番は変わっていない、というテクニックはある。私はまだ練習中でできないけど。このマジックサークルの活動の中でマスターできたらいいな。
「さて、今のマジックは手順さえ覚えれば割と簡単にできると思うので、ここではいちいちレクチャーしないよ。一週間練習してみてここが分からない、ここがうまく行かないという箇所があれば言ってきて。教えるから」
「はーい」
返事が揃ったところで、シュウさんが私の方を見た。
「では次は、萌莉が、いや佐倉がお待ちかねの予言マジックの実演及び解説と行こうか」
やった。ほんと、待ってました!だよ。
でも……この教室には月めくりタイプのカレンダーはあっても、固定電話がないんだけれどもシュウさん、どうするつもりなんだろう? 携帯端末でも使うのかしら。
「誰か一人、手伝ってほしいんだけどどうしようかな」
教卓を両腕でサイドからがっしり掴み、私達を見回すシュウさん。だんだん先生っぽく見えてきたわ。今は師匠だけどね。
「佐倉はすでに一度体験しているわけだから、遠慮願うとして」
だよね~。分かっていますとも。
「それじゃあ残る五人の中で一番、僕のことを信用してない人、一番疑り深い人は手を挙げて。はい!?」
「その言われ方だと挙手しづらいです」
不知火さんが尤もな指摘をした。実際、誰も手を挙げちゃいない。と、ここで陽子ちゃんが口を開く。
「シュウさん師匠を最も信用していないというのは、森君で決まりだと思うけど」
「し、信用はしてるさ。ただ何となく……」
否定した森君に、陽子ちゃんが「何となく?」とおうむ返しに尋ねる。
「ときと場合によっちゃあ、気に入らないこともあるってだけだ」
「はは。そりゃすまないが、僕の力ではどうにもならない。直しようがないな」
シュウさんの表情いっぱいに苦笑いが広がる。
「ところで木之元さん」
「ははい?」
相変わらず意表を突いて名を呼ばれると弱い陽子ちゃん。がたがたっと机と椅子が音を立てた。
「今の言い方だと、僕を信用していない人と、疑り深い人を分けてくれたみたいだけど、サークルで一番疑り深い人は誰なんだろう?」
「うーん、疑り深さっていうのは様々な物差しがあると思ってるから……」
答えながら朱美ちゃんの方を向き、目で呼び掛けるようにしてから話を再開する。
「たとえばの話、お金が絡むと疑り深さがますでしょう?」
「もっちろん。お金は大事だもの」
「推理小説を読んでいるときなら水原さんが多分一番。言葉に関わることなら不知火さん」
「じゃあ私は?」
つちりんが自らを指差しながら、陽子ちゃんの方へ振り返る。
「うーんとね。つちりんは占いに凝ってる割に、意外と素直で騙されやすいところがあると見た」
「え、ていうことは」
「この中では一番疑り深くない、素直な子だよ」
「わーい。って喜んでいていいのかな?」
何とも言えない微妙な顔をして、小首を傾げるつちりん。
「よし、じゃあ、それだけ人間観察力に優れた木之元さん、君にお手伝いを頼もう」
「あれ、そう来ましたか」
「観察力と疑り深さはそこそこ近いと思うんだ。気に入らなければ辞退してくれてもいいよ」
「ううん。やります。サクラが引っ掛かった上に面白がるマジックを、私も体験してみたかったんだよね」
「よし、じゃあ決まりだ。みんな拍手~」
つづく