第98話 ライバル登場

文字数 1,325文字

(不知火さんには何だか苦手意識があるけど、こっちのシーラはそうでもないぞ)
 気分がよくなったところへ、ドアを通って人が入ってきた。
「いやあ、遅れてすみません」
 宗平は声に振り返り、悠然と入って来る男の顔を正面から見る格好になった。
「え、あんたは」
 思わず、声が出た。
 何故って相手は宗平の知っている顔だったから。いや、シーラがそうだったように、他の“登場人物”が全員、宗平の見知っている顔だったとしても、不思議じゃない。少なくともこの“物語”の法則には反していないんだろう。
 だから、真の意味で宗平に声を上げさせたのは、相手の男が佐倉秀明だったことが大きい。
「うん? あなたは僕をご存知で?」
「え、いや、知り合いの顔にようく似ていたものだから、つい」
「そうでしたか。では正式にご挨拶と行きましょうか。僕の名はシュール・メインと言って、自然観察学の博士をしています。あなたはこちらの衛士の……?」
「シャ、シャーロック・モリアーティ」
 慣れない名前を名乗って、自己紹介した宗平は、目の前の佐倉秀明によく似た男が、現実の佐倉秀明よりも五つ六つは老けているようだと見て取った。
(それでも博士には早いよな、普通。だいたい自然観察学って一体何なんだ。そんな科目、聞いたことない)
「では、モリアーティ衛士、お待たせしてすみませんでした。僕よりもお若いようですが、捜査に関してはそちらの方が経験豊富でしょう。よろしくお願いします」
「いや、そんなことはない。自分は護衛もまだ一人前じゃない上に、捜査は未経験だ。こちらこそよろしくお願いします」
 肩書き・立場がなさしめるのか、宗平の口からは当人が意識していないことまで語られた。
(つまり俺は、衛士の一年生かよ。そんな奴が立候補して、王宮の中で起きた殺人事件の捜査だなんて、どうかしてる)
「おや、そうでしたか。でしたら、僕と同じように助手を早々に定められるのがよいのでは」
「助手?」
 急な話におうむ返しする宗平。シュール・メインは、肩越しに背後を見やりながら、
「ええ。僕が一旦この部屋を出て、遅れてしまった理由でもあるのですが。――おーい」
 声を掛けると、返事はなく、ただ新たに人影が入って来た。メインよりはだいぶ小柄で、宗平やシーラと同じくらい。
 その顔と姿を目の当たりにして、宗平はまたまた声を上げることになる。
「おまっ。ABCじゃねーか?」
 かつて夢の中に出て来た、佐倉萌莉そっくりの、レオタードに燕尾服を羽織った少女だった。今回は付け耳がなくてバニーガールっぽさが消えているが、フレアスカートもない。その上、多少成長している。つまり、色気は前よりも増している。
「ABCって誰のこと? 私はチェリー・ブラムストーク。強いて言えば、CBよ」
 中学三年ぐらいに成長した佐倉萌莉が、何故だか誇らしげに言った。
(アーサー・B・クラークじゃないのか。ま、前は“僕っ子”みたいな振る舞いで戸惑ったけれども、今度の佐倉はちゃんと女だ)
 何はともあれほっとする。ところが、チェリーが両手をメインの左腕に絡ませるのを見て、気が動転した。
「な、なにしてるんだ?」

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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