第67話 晴れて入会
文字数 1,805文字
さあ、大事な時間を乗り切った。根を詰めたせいで、ちょっと疲れたけれども、終わってみれば、いい経験になった気がする、うん。
次は明日のクラブ授業の内容を、大急ぎで組み立てなくちゃならない。
「なあ、佐倉」
自分達の教室に帰る道すがら、森君が後ろから名前を呼んだ。
「何? クイズとパズルの出来映えをほめて欲しいとか?」
「ちげーよ!」
気分がよくて、つい、軽口が。
「うふふ、ごめんなさい。それで何かしら」
「水原さんがやったカードマジックの種、教えてくれねーのかなと思って」
「えっと、すぐ近くで見てたでしょ、種」
「うぉ? 嘘だろ。全然分かんなかった。ていうか、種って、あれか、みんなして後ろを向いたとき――」
「森君、それ以上喋るのにここはふさわしい場所ではありませんよ」
不知火さんが冷静な口調で、にこにこしながら止めてくれた。確かに、第三者に聞かれる可能性の高い場所で、種明かしにつながる話をするのはよくない。ばれるとしても、三ヶ月は保って欲しいかな。
「明日のクラブ授業でする?」
水原さんが聞いてきた。
「そうだね。実はやること、具体的にはまだ何も思い付いてないし。活動のほとんどが種明かしというのも問題あるな~って思ってるんだけど」
「シュウさんが来られるようになるまでに、これだけは習得しておいてくれというのは言われてないのですか」
これは不知火さんからの質問。
言われてみれば、全く指示を出されていない。急に不安になってきた。シュウさん、まだ試験期間中だったと思うけれども、今日帰ったら電話して聞いてみよう。
「それでは明日は流動的ということですね。私達の方で念のために用意しておくような物とか……?」
「なし。必要になったら、私が責任を持って準備する」
言い切ったはいいけれども、プレッシャーも感じるわ。時間が勿体ない気がしてきた。このあと、五年五組の教室で待ってくれている陽子ちゃん、朱美ちゃん、つちりんに凱旋報告なんだけど、ちょっとでも急ごう。
「――あ、どうだった?」
クラスに入るなり、陽子ちゃんが振り向いて立ち上がる。待ちかねたぞと言わんばかりの勢いで、駆け寄ってきた。朱美ちゃんとつちりんもあとに続く。
「そりゃもうばっちり」
森君が先に言ってしまった。私の口から言おうと思ってたのに~。
まあいいわ。今日、最初にペースを作ってくれたのは森君だった。狙ってのことかどうかは知らないけれども、あの雰囲気になったおかげで、不知火さんも水原さんも、そして私自身も度胸を据えて、思い切ってやれた気がする。
「ほんとに? サクラ?」
「本当だよ。想像していた中で、最高の終わり方をしたと思う」
「おー、よかった」
陽子ちゃんと私は両手でタッチした。横では、つちりんが不知火さんの手を取って、同じく「よかった」を連発している。
「そんなに何度も言うことでは――」
「だって、心配してたんだよ~。特に不知火さん」
「私?」
つちりんの言葉に、目をやや見開き、自らを指差した不知火さん。
「だってだって、三人の中は、一番専門外って感じだったじゃない?」
「それはまあ……」
「私、内緒で占ってみたんだけど、なかなかいい結果が出てくれなくって」
「いい結果が出るまで、何度もやる物じゃないでしょうに」
不知火さんが呆れ口調になると、うつむいていたつちりんは真顔を起こし、
「ううん、一つの占いを何度もやったんじゃないわよ。色んな占いをいくつもやった。時計占い、花占い、タロットにトランプに、ダイスでしょ。それからダウジ――」
「分かった、分かりました。もういいです」
不知火さんは深く息をついた。ちょっと困ったような表情を見せたけど、笑顔になる。
「それだけ心配してくれてたんですね。ありがとう」
「どういたしまして!」
喜色に溢れて表情がほころぶつちりん。
反対側の隣では、朱美ちゃんが水原さんに改めて歓迎の言葉を掛けていた。
「何はともあれ、奇術サークルにようこそ!」
「あ、ありがとう」
「後から入った水原さんの方が早々とマジック一つできるようになってるのは、何だか悔しいんだけどなあ」
「え、そ、そうだったの?」
手の平を口元に当てて覆う水原さん。みんなの間で笑いが起きた。
「これはもう、明日は水原さんのマジックの種明かしで決まりだね」
つづく
次は明日のクラブ授業の内容を、大急ぎで組み立てなくちゃならない。
「なあ、佐倉」
自分達の教室に帰る道すがら、森君が後ろから名前を呼んだ。
「何? クイズとパズルの出来映えをほめて欲しいとか?」
「ちげーよ!」
気分がよくて、つい、軽口が。
「うふふ、ごめんなさい。それで何かしら」
「水原さんがやったカードマジックの種、教えてくれねーのかなと思って」
「えっと、すぐ近くで見てたでしょ、種」
「うぉ? 嘘だろ。全然分かんなかった。ていうか、種って、あれか、みんなして後ろを向いたとき――」
「森君、それ以上喋るのにここはふさわしい場所ではありませんよ」
不知火さんが冷静な口調で、にこにこしながら止めてくれた。確かに、第三者に聞かれる可能性の高い場所で、種明かしにつながる話をするのはよくない。ばれるとしても、三ヶ月は保って欲しいかな。
「明日のクラブ授業でする?」
水原さんが聞いてきた。
「そうだね。実はやること、具体的にはまだ何も思い付いてないし。活動のほとんどが種明かしというのも問題あるな~って思ってるんだけど」
「シュウさんが来られるようになるまでに、これだけは習得しておいてくれというのは言われてないのですか」
これは不知火さんからの質問。
言われてみれば、全く指示を出されていない。急に不安になってきた。シュウさん、まだ試験期間中だったと思うけれども、今日帰ったら電話して聞いてみよう。
「それでは明日は流動的ということですね。私達の方で念のために用意しておくような物とか……?」
「なし。必要になったら、私が責任を持って準備する」
言い切ったはいいけれども、プレッシャーも感じるわ。時間が勿体ない気がしてきた。このあと、五年五組の教室で待ってくれている陽子ちゃん、朱美ちゃん、つちりんに凱旋報告なんだけど、ちょっとでも急ごう。
「――あ、どうだった?」
クラスに入るなり、陽子ちゃんが振り向いて立ち上がる。待ちかねたぞと言わんばかりの勢いで、駆け寄ってきた。朱美ちゃんとつちりんもあとに続く。
「そりゃもうばっちり」
森君が先に言ってしまった。私の口から言おうと思ってたのに~。
まあいいわ。今日、最初にペースを作ってくれたのは森君だった。狙ってのことかどうかは知らないけれども、あの雰囲気になったおかげで、不知火さんも水原さんも、そして私自身も度胸を据えて、思い切ってやれた気がする。
「ほんとに? サクラ?」
「本当だよ。想像していた中で、最高の終わり方をしたと思う」
「おー、よかった」
陽子ちゃんと私は両手でタッチした。横では、つちりんが不知火さんの手を取って、同じく「よかった」を連発している。
「そんなに何度も言うことでは――」
「だって、心配してたんだよ~。特に不知火さん」
「私?」
つちりんの言葉に、目をやや見開き、自らを指差した不知火さん。
「だってだって、三人の中は、一番専門外って感じだったじゃない?」
「それはまあ……」
「私、内緒で占ってみたんだけど、なかなかいい結果が出てくれなくって」
「いい結果が出るまで、何度もやる物じゃないでしょうに」
不知火さんが呆れ口調になると、うつむいていたつちりんは真顔を起こし、
「ううん、一つの占いを何度もやったんじゃないわよ。色んな占いをいくつもやった。時計占い、花占い、タロットにトランプに、ダイスでしょ。それからダウジ――」
「分かった、分かりました。もういいです」
不知火さんは深く息をついた。ちょっと困ったような表情を見せたけど、笑顔になる。
「それだけ心配してくれてたんですね。ありがとう」
「どういたしまして!」
喜色に溢れて表情がほころぶつちりん。
反対側の隣では、朱美ちゃんが水原さんに改めて歓迎の言葉を掛けていた。
「何はともあれ、奇術サークルにようこそ!」
「あ、ありがとう」
「後から入った水原さんの方が早々とマジック一つできるようになってるのは、何だか悔しいんだけどなあ」
「え、そ、そうだったの?」
手の平を口元に当てて覆う水原さん。みんなの間で笑いが起きた。
「これはもう、明日は水原さんのマジックの種明かしで決まりだね」
つづく