第190話 内輪の打ち明け
文字数 2,086文字
「いくら絶対確実でも、その方法、私ならパス」
朱美ちゃんが真っ先に意思表明。理由がまた彼女らしかった。
「どうして」
「だってお金が掛かる。同じカードを五十二枚揃えようと思ったら、まったく同じトランプを五十二個も買わなきゃいけない。無駄すぎ!」
「あはは。なるほどね。確かにそんな揃え方をしていては、費用が掛かりすぎて、その割にできるマジックは一つ増えるだけなんだからコストパフォーマンスがよくない」
シュウさんはくすくす笑いを我慢するのが大変そうだ。
「でもご安心を。商品としてちゃんと売られているんだ。五十二枚か五十四枚か忘れたけれども、一組全部が同じカードっていうセットがね。値段も普通のトランプと変わらなかったんじゃないかな」
「なあんだ。それなら使うかも」
文字通り、げんきんな反応を示して笑顔になる朱美ちゃんに、周囲のみんなも笑った。
「私達がやるには、別の問題点があると思います」
不知火さんが切り出した。
「何かな」
「全てのカードが同じだと、お客さんにカードを渡して、あらためてもらうことができません。それどころか『カードはほら、ばらばらですよ』と開いてみせることすら無理です」
「そうだね。的確な疑問、結構だね」
シュウさんはいい質問だと認めた。当然、このあとに続くのは疑問に対する答、解決策である。だけど、ここでタイムアップ。チャイムが鳴ってしまった。
「残念、時間切れだ。疑問を解消する対策については次週、話そうと思う。いいね?」
この場ですぐさま説明して欲しいのが本音だけれども、ここは我慢。シュウさんにはわがままを言って来てもらっている。厚意に甘えているけれども、無理をさせているに違いないと思うと、本当に感謝しかなった。説明がお預けになったのは、楽しみが延びたと考えればいいんだわ。
「ありがとうございました!」
みんなで声を揃えて礼。感謝の意は伝わったかしら。
さあ、これで今日はおしまい、シュウさんと一緒に帰れる!なんてはしゃぎたい気持ちはあるんだけど、ここはぐっと堪える。今の私にはもっと優先しなくちゃいけないことがあった。
そう。水原さんに、かつて内藤君が行った占いはマジックの仕掛けがあってこその現象なんだよって打ち明けなければいけない。
シュウさんの方針を聞いたときから気になっていて、早く言おうと思っていた。折しも、サークルの活動の方が、特定のカードを相手に引かせる方法の解説に差し掛かっている。委員長の内藤君にやり方を仕込んで、奇跡的な偶然の一致を感じさせるマジックを水原さんに見せたけれども、あのマジックのポイントは相手に特定のカードを引かせるところにある。だから打ち明けるにはちょうど頃合いだと言えた。
種があったんだよと伝えることで、怒り出されとしても仕方がない。たちえマジックサークルをやめると言われてもやむを得ない。覚悟はできている。でもその一方で、水原さんそんなことしないよねとすがりたい気持ちもあった。
「水原さん」
とにもかくにも彼女を呼び止めて、時間があるかどうかを確かめなくちゃ。ないんだったら、また後日ってことになる。できれば今日中に決着させたいな。
「佐倉さん、何?」
水原さんと一緒にいる不知火さんも振り返った。私の顔を見て、「お邪魔でしたら自分はどいておきますが」と言う彼女に、私は少し考え、どちらでもいいよと答えた。不知火さんはもちろんあのときのマジックの種を承知しているから、同席してもらっても問題ない。むしろ、水原さんがもしも感情的になりそうだったら、不知火さんがいることで緩和されるのでは……とちょっと他力本願だけど期待してる。だから本音を言えば是非ともいて欲しいのだけれども、無理強いするのも違うと思う。選択は不知火さんに任せた。
「それでは……離れたところで聞いています」
私と水原さんは廊下の突き当たりまで移動し、不知火さんはそこから五、六メートルほど離れた窓際に立つ。しばらくすると不知火さんの気配を感じなくなった。私が意識を集中できたのか、不知火さんが気配を消すのがうまいのかは分からないけれども、これで随分話し易くなった気がする。
「それで、何でしょう?」
水原さんが小首を傾げる。同学年だけど、相手は会長だからと少し丁寧な言葉遣いになっているのかな。気を遣わせているみたいで、申し訳ない。
ためらっていると言い出しにくくなるのは明らかなので、私は勢いに任せて話し始めた。
「内藤君から占いをしてもらったことがあったよね。カードを使った」
「え?」
予想外の話だったせいか、一瞬きょとんとなる水原さん。私としては勢いを落としたくない。そのまま突っ走る。
「水原さんがサークルに入ってくれる前のことなんだけど、覚えてる?」
「もちろん覚えているわ。とても不思議な、初めての体験をさせてもらって、忘れられるはずがない」
彼女の感想の力強さに私は意を強くした。あれが少なくともマジックとしては大成功だったと改めて確認できたのだから。
つづく
朱美ちゃんが真っ先に意思表明。理由がまた彼女らしかった。
「どうして」
「だってお金が掛かる。同じカードを五十二枚揃えようと思ったら、まったく同じトランプを五十二個も買わなきゃいけない。無駄すぎ!」
「あはは。なるほどね。確かにそんな揃え方をしていては、費用が掛かりすぎて、その割にできるマジックは一つ増えるだけなんだからコストパフォーマンスがよくない」
シュウさんはくすくす笑いを我慢するのが大変そうだ。
「でもご安心を。商品としてちゃんと売られているんだ。五十二枚か五十四枚か忘れたけれども、一組全部が同じカードっていうセットがね。値段も普通のトランプと変わらなかったんじゃないかな」
「なあんだ。それなら使うかも」
文字通り、げんきんな反応を示して笑顔になる朱美ちゃんに、周囲のみんなも笑った。
「私達がやるには、別の問題点があると思います」
不知火さんが切り出した。
「何かな」
「全てのカードが同じだと、お客さんにカードを渡して、あらためてもらうことができません。それどころか『カードはほら、ばらばらですよ』と開いてみせることすら無理です」
「そうだね。的確な疑問、結構だね」
シュウさんはいい質問だと認めた。当然、このあとに続くのは疑問に対する答、解決策である。だけど、ここでタイムアップ。チャイムが鳴ってしまった。
「残念、時間切れだ。疑問を解消する対策については次週、話そうと思う。いいね?」
この場ですぐさま説明して欲しいのが本音だけれども、ここは我慢。シュウさんにはわがままを言って来てもらっている。厚意に甘えているけれども、無理をさせているに違いないと思うと、本当に感謝しかなった。説明がお預けになったのは、楽しみが延びたと考えればいいんだわ。
「ありがとうございました!」
みんなで声を揃えて礼。感謝の意は伝わったかしら。
さあ、これで今日はおしまい、シュウさんと一緒に帰れる!なんてはしゃぎたい気持ちはあるんだけど、ここはぐっと堪える。今の私にはもっと優先しなくちゃいけないことがあった。
そう。水原さんに、かつて内藤君が行った占いはマジックの仕掛けがあってこその現象なんだよって打ち明けなければいけない。
シュウさんの方針を聞いたときから気になっていて、早く言おうと思っていた。折しも、サークルの活動の方が、特定のカードを相手に引かせる方法の解説に差し掛かっている。委員長の内藤君にやり方を仕込んで、奇跡的な偶然の一致を感じさせるマジックを水原さんに見せたけれども、あのマジックのポイントは相手に特定のカードを引かせるところにある。だから打ち明けるにはちょうど頃合いだと言えた。
種があったんだよと伝えることで、怒り出されとしても仕方がない。たちえマジックサークルをやめると言われてもやむを得ない。覚悟はできている。でもその一方で、水原さんそんなことしないよねとすがりたい気持ちもあった。
「水原さん」
とにもかくにも彼女を呼び止めて、時間があるかどうかを確かめなくちゃ。ないんだったら、また後日ってことになる。できれば今日中に決着させたいな。
「佐倉さん、何?」
水原さんと一緒にいる不知火さんも振り返った。私の顔を見て、「お邪魔でしたら自分はどいておきますが」と言う彼女に、私は少し考え、どちらでもいいよと答えた。不知火さんはもちろんあのときのマジックの種を承知しているから、同席してもらっても問題ない。むしろ、水原さんがもしも感情的になりそうだったら、不知火さんがいることで緩和されるのでは……とちょっと他力本願だけど期待してる。だから本音を言えば是非ともいて欲しいのだけれども、無理強いするのも違うと思う。選択は不知火さんに任せた。
「それでは……離れたところで聞いています」
私と水原さんは廊下の突き当たりまで移動し、不知火さんはそこから五、六メートルほど離れた窓際に立つ。しばらくすると不知火さんの気配を感じなくなった。私が意識を集中できたのか、不知火さんが気配を消すのがうまいのかは分からないけれども、これで随分話し易くなった気がする。
「それで、何でしょう?」
水原さんが小首を傾げる。同学年だけど、相手は会長だからと少し丁寧な言葉遣いになっているのかな。気を遣わせているみたいで、申し訳ない。
ためらっていると言い出しにくくなるのは明らかなので、私は勢いに任せて話し始めた。
「内藤君から占いをしてもらったことがあったよね。カードを使った」
「え?」
予想外の話だったせいか、一瞬きょとんとなる水原さん。私としては勢いを落としたくない。そのまま突っ走る。
「水原さんがサークルに入ってくれる前のことなんだけど、覚えてる?」
「もちろん覚えているわ。とても不思議な、初めての体験をさせてもらって、忘れられるはずがない」
彼女の感想の力強さに私は意を強くした。あれが少なくともマジックとしては大成功だったと改めて確認できたのだから。
つづく