第24話 テストとクイズとパズルの違い1

文字数 2,063文字

 奇術サークルの残り二人、陽子ちゃんとつちりんは、都合が付かなくてショー観覧は見合わせることになってしまった。残念。
 陽子ちゃんは五月五日にようやく旅行から帰るということだし、つちりんはその前日に帰宅するものの体力的に保たない(ショーを観に行って寝てしまっては申し訳が立たない)のと、宿題が溜まっているのとで無理とのこと。仕方がないわ。次の機会には、もっと早めに伝えよう。シュウさんに掛かってることなんだから、しっかりお願いしなくちゃ。
「さて。これで全員揃ったのかな?」
 そのシュウさんが言った。周りには私の他、不知火さん、森君、朱美ちゃんが適度に間隔を空けて立っている。よそよそしいのではなくて、今日は殊更気温が高い。仲がいいからってそばに立っていると、他人の体温が肌に伝わってきたような気がして、不快さを増す。間隔を取って、風を通す方がいい。
 ここは学校から最寄りの鉄道駅になる木風(きぶ)駅。最寄りと言ってもそれなりに距離はあるため、みんな自転車で来ていた。
 四つ先の妻比良(つまびら)駅まで、乗車券は購入済み。シュウさん所有の携帯端末なら電子マネーで一括払いできるんだけど、今日の思い出にってことで切符を買った。
 利用客数の割には小さな駅なので、待合スペースが混雑しがちだ。私達が全員揃ったのにわざわざ駅舎の外にいるのは、幼稚園ぐらいの子の集団が女性に引率されて、中を占拠しちゃってるから。こどもの日のイベントでもあるのかしら。
「シュウさん、シュウさん。勝負しませんか」
 朱美ちゃんがシュウさんに近寄り、袖を引いてる。さっき自己紹介をしたばかりだというのに、もう親しげだ。
「勝負って?」
「私が聞いていたのは、今日必要なのは電車賃だけだってことでした。でも、実際には自転車の駐輪代も掛かった。その支払いを賭けて」
「うーん。駐輪代に言及しなかったのは、確かに僕のミスだけど」
 苦笑いを浮かべるシュウさん。
 シュウさんは、朱美ちゃんがお金にしっかりしていることを、私の口から聞いていたからまだいいけれど、初対面でいきなりこんなこと言われたら、いくら高校生でもびっくりするだろうな。
「千円オーバーの臨時支出は僕でも痛い」
 ん? 千円オーバーっていうのは……私達全員の分? いつの間にそんな話に。
「でも言った責任、取らなくちゃですよね」
「うーん。しょうがないな。何の勝負を?」
「それはこちらの森君から出題があります」
 朱美ちゃんが指名すると、森君は「え。俺?」ってニュアンスの仕種をした。要するに、自分で自分を指差している。
「クイズマニアの意地と誇りをかけて、難しいのを出してね」
「いや、用意してねーし」
「あるでしょ」
「簡単に言うなよな。そもそも、おまえらはクイズとパズルの違いが分かっているのか」
 何だかますます変な方向に話が行きそう……。
「クイズはクイズでしょ。パズルはクロスワードパズルとかジグソーパズルみたいなイメージ」
 朱美ちゃんが切って捨てる風に言うと、森君は「ほらな。その程度の理解なんだ」とこれまた小馬鹿にする調子。思わず割って入った。
「ちょっとちょっと。二人ともやめよう。これから記念すべきサークル初の活動なんだから」
「……」
 二人とも黙ってはくれたものの、まだわだかまりを残してる様子。困ってしまって、私はシュウさんを見た。それに反応してくれたのかどうか、シュウさんは森君に向けて言った。
「僕も気になる。クイズとパズルの違い、教えてよ」
「……高校生でも知らない?」
「ああ。だから、小学生が知らなくても普通かもね。森君が特別に詳しいってことになる」
 絶妙なほめ言葉に、森君、鼻の下を擦って得意げになった。そしてやおら説明を始めた。
「クイズは知識を問う。パズルは頭を使えば解ける。これが基本」
「知識っていうのは、暗記をしていればいいっていう意味?」
 不知火さんが確認を取る。対して森君は大きく頷いた。
「極端なこと言えば、学校のテストもクイズの仲間。ただ、あんまり面白くない。たとえば……『単位“カロリー”の語源は何か』っていう三択問題があったとして、1.熱量を研究した人の名前 2.ラテン語の『熱』 3.最初に学会が開かれた都市の名前 というのがまあテストだな。正解は2なんだけど、クイズと呼びたいのなら、他の選択肢をもっと面白くしないと。1を“肥満と食事量の関係を科学的に研究した第一人者、貴族のカロリオット伯爵”、3は都市名のままだと人名の二番煎じだから……“クリスマスキャロルのキャロルから。この歌を唄いきったときの平均熱消費量が一キロカロリー”ってな感じにすると、クイズっぽくなると思わない?」
「何となく、感覚では分かる」
 テストは固い、クイズは柔らかい感じだ。
「一方のパズルは」
 森君が調子の波に乗って説明を続けようとしたそのとき、電車が間もなく入ってくることを告げるアナウンスが流れた。
 続きは車内で。

 つづく
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登場人物紹介

佐倉萌莉《さくらもり》。小学五年生。愛称はサクラ。マジック大好き。普段はどちらかと言えば引っ込み思案。

木之元陽子《きのもとようこ》。サクラの同級生。元気印で耳年増。

不知火遥《しらぬいはるか》。同級生。本好きで寡黙。大人びて少しミステリアスなところも。

佐倉秀明《さくらしゅうめい》。高校一年生。マジックが趣味。萌莉の従兄弟で憧れ。

相田克行《あいだかつゆき》。五年五組の担任。ぼさーっとしていて、よく言えば没頭型学者風、悪く言えば居候タイプ。やる気があるのかないのか。

金田朱美《かねだあけみ》。クラスは違うがサクラの友達。宝探しが夢。

土屋善恵《つちやよしえ》。同じくサクラの友達。愛称つちりん。オカルト好きだけど現実的な面もある。

水原玲《みずはられい》。サクラの同級生。推理小説好きが高じて文芸部に。

森宗平《もりそうへい》。サクラの同級生。クイズ・パズルマニア。

内藤肇《ないとうはじめ》。サクラの同級生でクラス委員長。女子からの人気高し。

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