第96話 現場視察
文字数 1,303文字
「……何もかもお忘れのようで、本当に心配です。これは生物の鳥ではなく、木と石から作られたバンバンドリーで、管理室とつながっているのですよ」
「へえ~」
鮮やかで濃い青色の羽根は、本物に見えた。シーラは備え付けの弓形をした用紙に何やら書き込み、二つ折りにするとバンバンドリーのくちばしにくわえさせた。
「はい、これで正規に入城できます」
バンバンドリーを無視して進んだらどうなるんだろう。宗平は気になったけれども、シーラが先へ行くので、とりあえず付き従った。真っ直ぐ王宮の建物に向かうのかと思っていたが、途中、明らかに導線を外れて、植え込みの間をてくてくと歩く。が、それも三分足らずで終わって、再び立ち止まる。近くには王宮とは別の、離れだとしても些か地味な、実用第一みたいな石積みの建物がそびえていた。窓の配置から、多分、五階建てだろう。
「最前転んでましたが、身なりには注意を払ってください。テスト直後とは言っても、泥汚れが目に余るようでは困ります」
「へいへい。このあと、王様にでも会わせてくれるのかな?」
「冗談じゃありません」
何か説明し始めようという身振りのシーラだったが、宗平の軽口に動作を中断して怒った。
「おいそれとお目にかかれる道理がない。このあと会うのは、本来の選抜者である方とです。そこで事件の概要をおさらいし、方針を立てる」
「そんなにも急ぎで解決しなきゃいけないことなんだな」
「無論。先程から記憶喪失みたいにいちいち驚かれてばかりなので、これだけはお城に入る前に言っておきましょう。亡くなったのは、ナイト・ファウストという若き侍従長で、第一容疑者とされているのが王女様」
「王女様が? そりゃ一大事ってのも分かる」
腕組みをして、うんうんと首を縦に振る。
「ところで何でここで立ち止まったんだろ?」
「今から言うつもりでした。あなたは事件発生当時非番で捜査にも関わっていないため、具体的な現場がどこか知らないはずです。それを抜きにしても、記憶が怪しいようですけど……。ちょうどここから、現場となった一室の窓が眺められます」
斜め上の方角を腕で示すシーラ。それなりに気温が高いのに長袖なんだなと、妙な点に意識が向いた。宗平自身は、半袖よりやや長め、肘が隠れる程度のポロシャツみたいな上着を身に着けている。下は半ズボンだと思い込んでいたのだけれども、いつの間にか?長ズボンになっていた。黒革の光沢なのに、手触りはソフトジーンズに近い。頑丈だが動きやすい作りに思えた。
「どこ? 三階辺りか?」
「ええ、三階の角部屋。あとで実際に入れるように手筈は整っています」
宗平は手の平で額に庇を作りながら、眼を細めた。
「……眩しくて見えにくいから、気のせいかな? 壁や窓が、何だか薄汚れていような……やっぱり汚れてる。使用人の建物だからって、手抜きかよ」
シーラは若干、気色ばんだ。
「そのようなことはないはず。あるとしたら、現場保存のため、手を付けないようにした結果だと思いますけど」
「でもほら、三階の窓の五十センチぐらい下、黒っぽい線みたいなのができてるぜ」
つづく
「へえ~」
鮮やかで濃い青色の羽根は、本物に見えた。シーラは備え付けの弓形をした用紙に何やら書き込み、二つ折りにするとバンバンドリーのくちばしにくわえさせた。
「はい、これで正規に入城できます」
バンバンドリーを無視して進んだらどうなるんだろう。宗平は気になったけれども、シーラが先へ行くので、とりあえず付き従った。真っ直ぐ王宮の建物に向かうのかと思っていたが、途中、明らかに導線を外れて、植え込みの間をてくてくと歩く。が、それも三分足らずで終わって、再び立ち止まる。近くには王宮とは別の、離れだとしても些か地味な、実用第一みたいな石積みの建物がそびえていた。窓の配置から、多分、五階建てだろう。
「最前転んでましたが、身なりには注意を払ってください。テスト直後とは言っても、泥汚れが目に余るようでは困ります」
「へいへい。このあと、王様にでも会わせてくれるのかな?」
「冗談じゃありません」
何か説明し始めようという身振りのシーラだったが、宗平の軽口に動作を中断して怒った。
「おいそれとお目にかかれる道理がない。このあと会うのは、本来の選抜者である方とです。そこで事件の概要をおさらいし、方針を立てる」
「そんなにも急ぎで解決しなきゃいけないことなんだな」
「無論。先程から記憶喪失みたいにいちいち驚かれてばかりなので、これだけはお城に入る前に言っておきましょう。亡くなったのは、ナイト・ファウストという若き侍従長で、第一容疑者とされているのが王女様」
「王女様が? そりゃ一大事ってのも分かる」
腕組みをして、うんうんと首を縦に振る。
「ところで何でここで立ち止まったんだろ?」
「今から言うつもりでした。あなたは事件発生当時非番で捜査にも関わっていないため、具体的な現場がどこか知らないはずです。それを抜きにしても、記憶が怪しいようですけど……。ちょうどここから、現場となった一室の窓が眺められます」
斜め上の方角を腕で示すシーラ。それなりに気温が高いのに長袖なんだなと、妙な点に意識が向いた。宗平自身は、半袖よりやや長め、肘が隠れる程度のポロシャツみたいな上着を身に着けている。下は半ズボンだと思い込んでいたのだけれども、いつの間にか?長ズボンになっていた。黒革の光沢なのに、手触りはソフトジーンズに近い。頑丈だが動きやすい作りに思えた。
「どこ? 三階辺りか?」
「ええ、三階の角部屋。あとで実際に入れるように手筈は整っています」
宗平は手の平で額に庇を作りながら、眼を細めた。
「……眩しくて見えにくいから、気のせいかな? 壁や窓が、何だか薄汚れていような……やっぱり汚れてる。使用人の建物だからって、手抜きかよ」
シーラは若干、気色ばんだ。
「そのようなことはないはず。あるとしたら、現場保存のため、手を付けないようにした結果だと思いますけど」
「でもほら、三階の窓の五十センチぐらい下、黒っぽい線みたいなのができてるぜ」
つづく