第153話 思いも寄らない指摘
文字数 1,608文字
主導権を取って進行する水原さん。特に反論するようなことじゃないし、皆、うなずく。
「じゃあ、魔法が使われた場合と使われなかった場合それぞれを仮定して、考えてみるね。まず、魔法が使われたとしたら、容疑者は三人に絞られている。繰り返しになるけど、馭者のフィリポ、秘書のジュディ、そしてマギー王女。この中で、とりあえず怪しかったのは、マギー王女だったと言えるわ」
「サクラにそっくりなね」
陽子ちゃんが付け加える。も~、そこ、関係ある?
水原さんは少し含みがあるような、秘密めかした微笑をちらっと見せて、また話に戻った。
「王女は魔法を何に使ったのかを積極的に証言しないでいたけれども、途中でダイエットのためと打ち明けた。証人も一応いるみたい。ただし、その確認を取る前に、森君の目が覚めてしまった」
「ふつーに考えたら、怪しかったヒロインが実は犯人でも何でもなく、ダイエットのために秘密にしていたっていうのは、男子目線から言えばきゅんとなるポイントじゃないのかな」
意見を述べ始めたのは朱美ちゃん。男子でも「きゅん」を使うのが合っているのかどうかは意見が割れそうだけれども、意味は分かる。
「物語的にも、ヒロインがピンチを脱してよかったね。王女のターン終わり、ってところだと思う」
「そこまで森君が無意識の内に考えていたということ?」
つちりんが疑わしそうに言った。
「わざわざ気になる女子を王女に見立てた上に、ピンチに陥れるのが分かんないなあ。そこまでやるんだったら、もっと颯爽と助ければいいのに」
「はい? ちょっとちょっと。つちりんは何を言ってるのかな?」
あまりに変なこと言うから、こっちも調子おかしくなっちゃったじゃない。唇の両端を上げた作り笑顔で、目を見開いたまま私は聞いた。
するとつちりんはつちりんで、意外そうに目を丸くした。
「え。だってそうでしょ。間違ってるのかな? 森君は佐倉ちゃんのこと好きだよ」
「えーと。それは占いでそう出た、とかじゃないの」
「ううん。そもそも、二人の仲を占ったことないけど。見てれば分かるって感じだよ」
「あはは。――水原さん、話の流れを止めちゃうけど、ごめんね。ねえ、みんなはどう思う? つちりんが言ってること」
「頷けなくはないよ。むしろありかなって」
朱美ちゃんが即答した。続いて不知火さんが「私も経験豊富なわけではありませんが、客観的に見て当たっている気がします」と話した。水原さんも陽子ちゃんも同意見みたいだ。何の冗談?
「普通に考えてそうなるでしょ」
陽子ちゃんがわざわざ私の隣までやって来て、言った。
「何だかんだ言って、あなたのサークルに入会してくれたし、文芸部との対決にも本気で臨んでくれた。そんな彼が、夢の中であんたとそっくりな人物を二人も登場させたってことは、あんたを好きなのは確実だと思うよ。森君本人がどこまで自覚しているかは別として、だけどさ」
陽子ちゃんの説明はそれなりに理屈は通っているのかもしれない。けど。
「でもマジックサークルを始める前は、私と森君、あんまり馬が合わなかったわ。名前のことで森君、しょっちゅう腹を立ててたし」
「そりゃあ、好きな異性だっていう気持ちを隠したいのに、周りからは名前のことに絡めて、あれこれ囃し立てられたら嫌にもなるんじゃない?」
「ううーん、そうなのかなあ」
少女漫画で時折見掛けるシチュエーションだから、大まかには想像できるんだけど、いざ自分の身に降りかかるとなると、今ひとつぴんと来ない。
考えれば考えるほど、泥沼にはまって足を取られ、抜け出せなくなりそう。
「あー、もう、だめだ!」
私は髪の毛をわしゃわしゃと掻きむしった。頭への刺激で、ちょっとは冷静に立ち戻れたかしら。
「この話は横に置いといて、推理の続きをしましょ! つちりん、それでかまわないよねっ?」
つづく
「じゃあ、魔法が使われた場合と使われなかった場合それぞれを仮定して、考えてみるね。まず、魔法が使われたとしたら、容疑者は三人に絞られている。繰り返しになるけど、馭者のフィリポ、秘書のジュディ、そしてマギー王女。この中で、とりあえず怪しかったのは、マギー王女だったと言えるわ」
「サクラにそっくりなね」
陽子ちゃんが付け加える。も~、そこ、関係ある?
水原さんは少し含みがあるような、秘密めかした微笑をちらっと見せて、また話に戻った。
「王女は魔法を何に使ったのかを積極的に証言しないでいたけれども、途中でダイエットのためと打ち明けた。証人も一応いるみたい。ただし、その確認を取る前に、森君の目が覚めてしまった」
「ふつーに考えたら、怪しかったヒロインが実は犯人でも何でもなく、ダイエットのために秘密にしていたっていうのは、男子目線から言えばきゅんとなるポイントじゃないのかな」
意見を述べ始めたのは朱美ちゃん。男子でも「きゅん」を使うのが合っているのかどうかは意見が割れそうだけれども、意味は分かる。
「物語的にも、ヒロインがピンチを脱してよかったね。王女のターン終わり、ってところだと思う」
「そこまで森君が無意識の内に考えていたということ?」
つちりんが疑わしそうに言った。
「わざわざ気になる女子を王女に見立てた上に、ピンチに陥れるのが分かんないなあ。そこまでやるんだったら、もっと颯爽と助ければいいのに」
「はい? ちょっとちょっと。つちりんは何を言ってるのかな?」
あまりに変なこと言うから、こっちも調子おかしくなっちゃったじゃない。唇の両端を上げた作り笑顔で、目を見開いたまま私は聞いた。
するとつちりんはつちりんで、意外そうに目を丸くした。
「え。だってそうでしょ。間違ってるのかな? 森君は佐倉ちゃんのこと好きだよ」
「えーと。それは占いでそう出た、とかじゃないの」
「ううん。そもそも、二人の仲を占ったことないけど。見てれば分かるって感じだよ」
「あはは。――水原さん、話の流れを止めちゃうけど、ごめんね。ねえ、みんなはどう思う? つちりんが言ってること」
「頷けなくはないよ。むしろありかなって」
朱美ちゃんが即答した。続いて不知火さんが「私も経験豊富なわけではありませんが、客観的に見て当たっている気がします」と話した。水原さんも陽子ちゃんも同意見みたいだ。何の冗談?
「普通に考えてそうなるでしょ」
陽子ちゃんがわざわざ私の隣までやって来て、言った。
「何だかんだ言って、あなたのサークルに入会してくれたし、文芸部との対決にも本気で臨んでくれた。そんな彼が、夢の中であんたとそっくりな人物を二人も登場させたってことは、あんたを好きなのは確実だと思うよ。森君本人がどこまで自覚しているかは別として、だけどさ」
陽子ちゃんの説明はそれなりに理屈は通っているのかもしれない。けど。
「でもマジックサークルを始める前は、私と森君、あんまり馬が合わなかったわ。名前のことで森君、しょっちゅう腹を立ててたし」
「そりゃあ、好きな異性だっていう気持ちを隠したいのに、周りからは名前のことに絡めて、あれこれ囃し立てられたら嫌にもなるんじゃない?」
「ううーん、そうなのかなあ」
少女漫画で時折見掛けるシチュエーションだから、大まかには想像できるんだけど、いざ自分の身に降りかかるとなると、今ひとつぴんと来ない。
考えれば考えるほど、泥沼にはまって足を取られ、抜け出せなくなりそう。
「あー、もう、だめだ!」
私は髪の毛をわしゃわしゃと掻きむしった。頭への刺激で、ちょっとは冷静に立ち戻れたかしら。
「この話は横に置いといて、推理の続きをしましょ! つちりん、それでかまわないよねっ?」
つづく